愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
68 / 79
(9)

(9)-6

しおりを挟む
「始めは男が好きとかって言うより、俺が人を好きになることが不思議で仕方なかったんです」
「うん」
「でも、一日を振り返って浮かぶのは詩音で、出かけると楽しくてまだ帰りたくないって思ったり、次はどこに誘おうかって考えるとワクワクして」
「それ、好きですね」
「そうなんです。寝顔見てるとなんていうか、独り占めしたいってよりもじわじわって、好きだなって思っちゃったんですよね」

 そう言うと、三月が「なんか甘酸っぱいですね」と言って、だから惣一郎の頬も赤くなる。

「もしかして、その告白を詩音さんが聞いていたとか?」
「お恥ずかしい話ですが、その通りです…」

 起きていた詩音に「それ、本当?」と問いかけられ、思わず固まっていた。

「その時はお先真っ暗って感じで、終わったなって思いましたよ」
「それはたしかに、思いますね」
「でも詩音は、言ってくれたんです」

 本当なら僕も同じ、好きだよ。

 そう言った詩音を惣一郎は今でもはっきりと思い出せる。
 蒸気した頬がピンク色に染まり、熱が上がったのかと心配した惣一郎を大丈夫と詩音は笑って窘めた。
 ぎゅっと優しく、けれど離さないと握られた手が強くて熱かった。

 キュッと水道水を止めると、テレビの音がやたらと大きく聞こえた。ふと、後ろを振り返って見ると詩音の隣には当たり前だが優星が座っている。
 ソファの背もたれに掛けられた腕は逞しい。そういえば、優星が普段、どんな仕事をしているのかを聞いたことはなかった。

 二人はどんな恋人だったのだろうか。あの逞しい腕に世話され、守られ、そして詩音の優しい腕で守ってきたのだろうか。
 詩音も好きだと言って、優星も好きだと言って。きっと、お似合いだったのだろう。
 もう嫉妬を通り越した感情が胸に流れ込む。それは、嫉妬のように燃え上がる炎ではなく、それよりもなだらかで。

 諦めにも似たような、そんな感情だった。

 詩音は自分を好きにはならない。確証もないそんな思いが、日に日に惣一郎の中を占めていく気がして、もう見過ごすことはできないほど大きくなる。
 と、つい、感傷に浸っていると、三月が肩を優しく叩く。

「きっと詩音さんも三田さんを好きになりますよ」
「…そうですかね?」
「確証はないけど、でもそんな気がします」

 慰めだとわかっていた。けれどそれでも、その言葉よりも今の惣一郎を勇気づけてくれるものはないと、わかっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...