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「始めは男が好きとかって言うより、俺が人を好きになることが不思議で仕方なかったんです」
「うん」
「でも、一日を振り返って浮かぶのは詩音で、出かけると楽しくてまだ帰りたくないって思ったり、次はどこに誘おうかって考えるとワクワクして」
「それ、好きですね」
「そうなんです。寝顔見てるとなんていうか、独り占めしたいってよりもじわじわって、好きだなって思っちゃったんですよね」
そう言うと、三月が「なんか甘酸っぱいですね」と言って、だから惣一郎の頬も赤くなる。
「もしかして、その告白を詩音さんが聞いていたとか?」
「お恥ずかしい話ですが、その通りです…」
起きていた詩音に「それ、本当?」と問いかけられ、思わず固まっていた。
「その時はお先真っ暗って感じで、終わったなって思いましたよ」
「それはたしかに、思いますね」
「でも詩音は、言ってくれたんです」
本当なら僕も同じ、好きだよ。
そう言った詩音を惣一郎は今でもはっきりと思い出せる。
蒸気した頬がピンク色に染まり、熱が上がったのかと心配した惣一郎を大丈夫と詩音は笑って窘めた。
ぎゅっと優しく、けれど離さないと握られた手が強くて熱かった。
キュッと水道水を止めると、テレビの音がやたらと大きく聞こえた。ふと、後ろを振り返って見ると詩音の隣には当たり前だが優星が座っている。
ソファの背もたれに掛けられた腕は逞しい。そういえば、優星が普段、どんな仕事をしているのかを聞いたことはなかった。
二人はどんな恋人だったのだろうか。あの逞しい腕に世話され、守られ、そして詩音の優しい腕で守ってきたのだろうか。
詩音も好きだと言って、優星も好きだと言って。きっと、お似合いだったのだろう。
もう嫉妬を通り越した感情が胸に流れ込む。それは、嫉妬のように燃え上がる炎ではなく、それよりもなだらかで。
諦めにも似たような、そんな感情だった。
詩音は自分を好きにはならない。確証もないそんな思いが、日に日に惣一郎の中を占めていく気がして、もう見過ごすことはできないほど大きくなる。
と、つい、感傷に浸っていると、三月が肩を優しく叩く。
「きっと詩音さんも三田さんを好きになりますよ」
「…そうですかね?」
「確証はないけど、でもそんな気がします」
慰めだとわかっていた。けれどそれでも、その言葉よりも今の惣一郎を勇気づけてくれるものはないと、わかっていた。
「うん」
「でも、一日を振り返って浮かぶのは詩音で、出かけると楽しくてまだ帰りたくないって思ったり、次はどこに誘おうかって考えるとワクワクして」
「それ、好きですね」
「そうなんです。寝顔見てるとなんていうか、独り占めしたいってよりもじわじわって、好きだなって思っちゃったんですよね」
そう言うと、三月が「なんか甘酸っぱいですね」と言って、だから惣一郎の頬も赤くなる。
「もしかして、その告白を詩音さんが聞いていたとか?」
「お恥ずかしい話ですが、その通りです…」
起きていた詩音に「それ、本当?」と問いかけられ、思わず固まっていた。
「その時はお先真っ暗って感じで、終わったなって思いましたよ」
「それはたしかに、思いますね」
「でも詩音は、言ってくれたんです」
本当なら僕も同じ、好きだよ。
そう言った詩音を惣一郎は今でもはっきりと思い出せる。
蒸気した頬がピンク色に染まり、熱が上がったのかと心配した惣一郎を大丈夫と詩音は笑って窘めた。
ぎゅっと優しく、けれど離さないと握られた手が強くて熱かった。
キュッと水道水を止めると、テレビの音がやたらと大きく聞こえた。ふと、後ろを振り返って見ると詩音の隣には当たり前だが優星が座っている。
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詩音も好きだと言って、優星も好きだと言って。きっと、お似合いだったのだろう。
もう嫉妬を通り越した感情が胸に流れ込む。それは、嫉妬のように燃え上がる炎ではなく、それよりもなだらかで。
諦めにも似たような、そんな感情だった。
詩音は自分を好きにはならない。確証もないそんな思いが、日に日に惣一郎の中を占めていく気がして、もう見過ごすことはできないほど大きくなる。
と、つい、感傷に浸っていると、三月が肩を優しく叩く。
「きっと詩音さんも三田さんを好きになりますよ」
「…そうですかね?」
「確証はないけど、でもそんな気がします」
慰めだとわかっていた。けれどそれでも、その言葉よりも今の惣一郎を勇気づけてくれるものはないと、わかっていた。
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