愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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『実は俺と詩音、付き合ってるんです。恋人として』

 本当は言おうか言わないか、迷っていた。昔はそれが事実であっても、今の詩音にとっては事実ではない。三月が口を滑らせるとはもちろん思っていないが、いつどこからその事実が詩音の耳に入るかはわからない。
 けれど、言いたかった。

『…もし、三田さんが言いたいことあったら僕、いつでも聞きますから』
 あの時の三月の言葉を信じたかった。何より、聞いてほしかった。言葉にしておきたかった。

『そうだったんですね』
 たった一言、その言葉がまるでその事実を今もまだ肯定してくれているようで、とても嬉しかった。

「…正直、不安です」
「不安、ですか?」
「はい。詩音とのこれからが」

 つい、本音を打ち明けていた。三月と一緒にいると、安心してしまい、誰にも言えないようなことまで言えてしまう。

「これからの生活がですか?」
「いえ、生活がというより、好きになってもらえるかですかね」
「それはどうしてですか?」
「詩音に告白したのは、俺からだったから」
「…どんな告白だったか聞いてもいいですか?」

 問われ、思い出したのは暑すぎる夏が過ぎ、涼しい秋が風と共に訪れた日のことで、まだ詩音を卯月と呼んでいた頃のことだった。

「多分、もうずっと前から詩音のこと、好きだったんです」
「うん」
「…言わないでおこうとずっと思ってました。友達のままでいた方がいいって言い聞かせてた。でも、ある日、飲み会があったんです」

 当時、二十歳になったばかりの大学生。飲み会という名の場所は、多かった。サークルだけではなく、ゼミや合コン。多い時には週に二回は飲み会の場所に行っていた。

「その日、俺は誘われてなかったんですけど、なんとなく、詩音が心配というか」
「心配?」
「はい。詩音、普段はふわふわニコニコしていて、あんまり嫌だとか言うことないんです。でも、その日は俺から見たら浮かない顔だったので」
 それで無理矢理ついていきました、と苦笑しながら言った。

「結局、飲み会と言っても合コンで」
「大学生にはよくあるパターンですよね」
「はい。詩音の奴、優しいから上手く躱せなくていつも疲れるんですよ」
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