64 / 79
(9)
(9)-2
しおりを挟む
まだ、恋人感覚が抜けていなかった。が、ここは正直に言うしかない。
「布団は一組で寝てたんだ。その、部屋が狭くて寒かったから」
言ったそばから言い訳のように聞こえた気がして、妙に焦った。けれど、詩音はニコニコと笑って「それいいね」と言うだけだった。
と、そんな話をしていると、ふいにインターフォンが鳴った。
僕が出るよという詩音を座らせ、玄関を開けた瞬間、勢いよくクラッカー音が鳴った。
「詩音、退院おめでとう!」
「初めまして、詩音さん。退院、おめでとうございます」
二人の顔が並ぶ。一人は男らしく精悍な顔つきをしている優星、もう一人は柔らかな雰囲気の三月。
「おい、古いアパートなんだから中に入ってからやれって言ったよな?」
「え?そうだったっけ」
「まあまあ、とりあえず中に入れてくれますか」
三月に窘められ、二人を部屋へと通した。
「三田くん、これって」
「ああ、ごめん。サプライズで驚かせたくて」
と言いながらも、提案したのは優星だ。一週間前、偶然、詩音の病院で鉢合わせした優星に退院するなら快気祝いをしたいから二人で出かけたいと言われたのだ。
当然、そんなことさせたくないと、惣一郎は渋った。が、優星は納得するはずもない。「友達なんだからいいだろ」と押し切られ、ならこちらも友人を連れてくるとなり、条件として家でやりたいと言ったところ、じゃあサプライズパーティにしようという流れになったのだった。
友人と自分から言いだしておいて、大学を卒業後、家で遊ぶほど仲が良い友人がいなかったことに気付き、三月に相談した。詩音が事故に遭ったことは伝えていたが、記憶を失っていると知らなかった三月は大層、驚いていた。
『三田さんは大丈夫なんですか』
『大丈夫になろうと、努力してます』
きっとそう言った惣一郎に気を遣ってくれたのだろう。三月は、『サプライズならちょうど良かったですね』と言って快く引き受けてくれた。
「詩音?こういうの苦手だった?」
驚いて固まる詩音に聞くと、慌てて首を横に振った。
「違う!ただ、三田くんがしてくれるってことが嬉しくて」
ありがとう、と満面の笑みで言われ、頬に集まる熱を逃がせない。
「おーい、始めるぞ」
まるで我が家のように食卓に座る優星に背中を押され、食卓に座った。テーブルにはピザ、フライドポテト、チキンの箱、それから炭酸飲料が数本。
「じゃあ、詩音の退院を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
「布団は一組で寝てたんだ。その、部屋が狭くて寒かったから」
言ったそばから言い訳のように聞こえた気がして、妙に焦った。けれど、詩音はニコニコと笑って「それいいね」と言うだけだった。
と、そんな話をしていると、ふいにインターフォンが鳴った。
僕が出るよという詩音を座らせ、玄関を開けた瞬間、勢いよくクラッカー音が鳴った。
「詩音、退院おめでとう!」
「初めまして、詩音さん。退院、おめでとうございます」
二人の顔が並ぶ。一人は男らしく精悍な顔つきをしている優星、もう一人は柔らかな雰囲気の三月。
「おい、古いアパートなんだから中に入ってからやれって言ったよな?」
「え?そうだったっけ」
「まあまあ、とりあえず中に入れてくれますか」
三月に窘められ、二人を部屋へと通した。
「三田くん、これって」
「ああ、ごめん。サプライズで驚かせたくて」
と言いながらも、提案したのは優星だ。一週間前、偶然、詩音の病院で鉢合わせした優星に退院するなら快気祝いをしたいから二人で出かけたいと言われたのだ。
当然、そんなことさせたくないと、惣一郎は渋った。が、優星は納得するはずもない。「友達なんだからいいだろ」と押し切られ、ならこちらも友人を連れてくるとなり、条件として家でやりたいと言ったところ、じゃあサプライズパーティにしようという流れになったのだった。
友人と自分から言いだしておいて、大学を卒業後、家で遊ぶほど仲が良い友人がいなかったことに気付き、三月に相談した。詩音が事故に遭ったことは伝えていたが、記憶を失っていると知らなかった三月は大層、驚いていた。
『三田さんは大丈夫なんですか』
『大丈夫になろうと、努力してます』
きっとそう言った惣一郎に気を遣ってくれたのだろう。三月は、『サプライズならちょうど良かったですね』と言って快く引き受けてくれた。
「詩音?こういうの苦手だった?」
驚いて固まる詩音に聞くと、慌てて首を横に振った。
「違う!ただ、三田くんがしてくれるってことが嬉しくて」
ありがとう、と満面の笑みで言われ、頬に集まる熱を逃がせない。
「おーい、始めるぞ」
まるで我が家のように食卓に座る優星に背中を押され、食卓に座った。テーブルにはピザ、フライドポテト、チキンの箱、それから炭酸飲料が数本。
「じゃあ、詩音の退院を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる