愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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 まだ、恋人感覚が抜けていなかった。が、ここは正直に言うしかない。

「布団は一組で寝てたんだ。その、部屋が狭くて寒かったから」
 言ったそばから言い訳のように聞こえた気がして、妙に焦った。けれど、詩音はニコニコと笑って「それいいね」と言うだけだった。
 と、そんな話をしていると、ふいにインターフォンが鳴った。

 僕が出るよという詩音を座らせ、玄関を開けた瞬間、勢いよくクラッカー音が鳴った。

「詩音、退院おめでとう!」
「初めまして、詩音さん。退院、おめでとうございます」

 二人の顔が並ぶ。一人は男らしく精悍な顔つきをしている優星、もう一人は柔らかな雰囲気の三月。

「おい、古いアパートなんだから中に入ってからやれって言ったよな?」
「え?そうだったっけ」
「まあまあ、とりあえず中に入れてくれますか」
 三月に窘められ、二人を部屋へと通した。

「三田くん、これって」
「ああ、ごめん。サプライズで驚かせたくて」
 と言いながらも、提案したのは優星だ。一週間前、偶然、詩音の病院で鉢合わせした優星に退院するなら快気祝いをしたいから二人で出かけたいと言われたのだ。
 当然、そんなことさせたくないと、惣一郎は渋った。が、優星は納得するはずもない。「友達なんだからいいだろ」と押し切られ、ならこちらも友人を連れてくるとなり、条件として家でやりたいと言ったところ、じゃあサプライズパーティにしようという流れになったのだった。

 友人と自分から言いだしておいて、大学を卒業後、家で遊ぶほど仲が良い友人がいなかったことに気付き、三月に相談した。詩音が事故に遭ったことは伝えていたが、記憶を失っていると知らなかった三月は大層、驚いていた。

『三田さんは大丈夫なんですか』
『大丈夫になろうと、努力してます』

 きっとそう言った惣一郎に気を遣ってくれたのだろう。三月は、『サプライズならちょうど良かったですね』と言って快く引き受けてくれた。

「詩音?こういうの苦手だった?」
 驚いて固まる詩音に聞くと、慌てて首を横に振った。

「違う!ただ、三田くんがしてくれるってことが嬉しくて」
 ありがとう、と満面の笑みで言われ、頬に集まる熱を逃がせない。

「おーい、始めるぞ」
 まるで我が家のように食卓に座る優星に背中を押され、食卓に座った。テーブルにはピザ、フライドポテト、チキンの箱、それから炭酸飲料が数本。

「じゃあ、詩音の退院を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
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