愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
57 / 79
(8)

(8)-2

しおりを挟む
 あれは、大学で詩音と知り合い、友人になって二年目の夏のこと。
 あの日は夏で、とにかく暑い日だった。惣一郎たちが住む地域は、北国に近いとはいえ夏は暑い。盆地と呼ばれるだけあり、夏は猛暑続きだ。

 大学生にとっての夏休みは長く、二か月はある。バイトを詰め込み、金を稼ぐ人もいれば、サークルやゼミ、ボランティアなどに勤しむ人もいる。惣一郎と詩音は、バイトはそこそこにして今しか出来ないサークル活動を精力的に行っていた。

 ミステリーサークルの活動の大きな要は、やはり長期休暇中の旅行だ。

 小説や漫画の舞台となった場所を巡り、様々な角度から写真に収めていく。照らし合わせるそんな単純な作業も、サークルならではの活動で惣一郎も楽しみにしていた。

 が、旅行当日。惣一郎は体調が悪かった。
 というのも、惣一郎は夏に弱い。育った地元も暑く、幼い頃は家から出ることもせずに扇風機の前から動かなかった。
 多分、熱中症気味だったのだろう。しかし、スポーツドリンクさえ飲んでいれば良くなると鷹をくくっていた。

 電車に乗り、各地を歩きながら正直、身体はヘトヘト。その日の気温は三十五度。もう、暑いのか暑くないのかもわからず、吐き気すらしていた。
 ああ、倒れる。そんな感覚に襲われ始めていた時、詩音に腕を取られた。

「三田くん、一緒に病院行こう」

 正直、何故詩音がと、その時はわからなかった。昔から少しくらい熱があっても、学校を休むことはしなかった。母を誤魔化すことだって得意で、後から大事になって怒られるくらいだった。

「どうして、卯月が」
 と、朦朧とする頭で聞いた。
 すると、詩音は頼もしく肩を抱きながら言ったのだ。

「三田くんのことなら、見てればなんでもわかっちゃうんだ、僕」

 ああ、詩音。お前はあの時のことを覚えているんだな。
 なんだか無性に懐かしくて、忘れかけていた記憶が温かくて。

 そして、思い知らされた気がした。

 たとえ、恋人になってからの記憶を失っていたとしても、詩音は詩音。何も変わってなどいないのだと。
 優しく、自分より人を気にして、優先させ、いざとなったら強い芯で人を支える。そんな詩音だから、好きになった。愛している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...