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もし、惣一郎と詩音が逆の立場だとして、詩音にそう問いかけられればなんて答えるのだろう。
きっと、そんなの気のせいだと、そう言うだろう。
だったら詩音も、そう言ったとしてもいいのではないか。そう、自分を納得させようとしているのに、納得できない惣一郎がいる。
だって知っているから。心から笑った顔が、今のそれとは違うことを。
告白した時、好きだと言ってキスをした時、照れながら二人、狭い布団で足を絡めた時、受け入れるべきではない場所で繋がった時。
いつだって詩音は、優しく柔らかく、そしてその瞳から愛しいと零れ出る笑顔で笑ってくれていた。
『好きだよ、惣』
そう言って、いつも、全身で伝えてくれていたんだ。
だからまた、見せてほしい。ただ、それだけの気持ちで祈るように言った。
「ごめん…惣」
詩音が本当に、申し訳ないように懺悔をするように呟いた。
「ごめん、惣…ごめん」
何度も何度も、呟き、その声には涙が混じっているのか、すすり泣く声が聞こえる。
抱きしめたい、けれど自分が抱きしめても仕方ない。
『ごめん』それは何に対しての言葉なのか。笑えなくてごめん、だろうか。それとも―。
最悪の想像が頭を駆ける。見たくなかった未来がすぐそこに、迫ってきている気さえした。
もう、ここにはいたくなかった。惣一郎は逃げるように詩音に背を向け、財布だけを持ち、玄関へ向かった。
「惣!」
呼び止められ、自然と足は止まる。
「…僕にとって惣は、一番大切な人。ずっと大好きな人だよ」
惣はもう違う―?
瞬間、胸が詰まり、込み上げる涙で視界が滲む。
俺だって詩音がこの世で一番、好きだ。
ありったけの声で、全身を響かせて、古いアパート中に聞こえる声でそう言いたかった。なのに、喉に張り付いた涙の膜が、声帯を震わせてくれない。
詩音に背を向けたまま立ち尽くしていると、後ろから詩音が鼻をすする音と、鞄から何かを出しているような音が聞こえた。
玄関の前に立つ惣一郎の横を通る気配がして、けれど顔は見上げられずにいた。詩音は惣一郎を気にすることなく、靴を履く。
「ちょっとコンビニ、行ってくるね」
惣の好きなチーズケーキあるかな。喧嘩をした時の仲直りの合図の言葉を口にする。といっても惣一郎たちは怒鳴り合うような喧嘩はしない。ただ、一方的に惣一郎が小さなことで怒り、気まずい雰囲気を打ち消すように詩音がコンビニへ行く。そうすることが当たり前になっていた。
「すぐ帰ってくるから、待っててね」
詩音、行くな―。
仲直りのスイーツなんて今はどうでもいい。ただ、詩音と目を見つめ合って話したかった。
言おうとして顔を上げた。が、無情にも開けられた玄関の扉は、閉じられていく。
言おうと決意した言葉は、降る雨の音に吞み込まれて消えてしまった。
きっと、そんなの気のせいだと、そう言うだろう。
だったら詩音も、そう言ったとしてもいいのではないか。そう、自分を納得させようとしているのに、納得できない惣一郎がいる。
だって知っているから。心から笑った顔が、今のそれとは違うことを。
告白した時、好きだと言ってキスをした時、照れながら二人、狭い布団で足を絡めた時、受け入れるべきではない場所で繋がった時。
いつだって詩音は、優しく柔らかく、そしてその瞳から愛しいと零れ出る笑顔で笑ってくれていた。
『好きだよ、惣』
そう言って、いつも、全身で伝えてくれていたんだ。
だからまた、見せてほしい。ただ、それだけの気持ちで祈るように言った。
「ごめん…惣」
詩音が本当に、申し訳ないように懺悔をするように呟いた。
「ごめん、惣…ごめん」
何度も何度も、呟き、その声には涙が混じっているのか、すすり泣く声が聞こえる。
抱きしめたい、けれど自分が抱きしめても仕方ない。
『ごめん』それは何に対しての言葉なのか。笑えなくてごめん、だろうか。それとも―。
最悪の想像が頭を駆ける。見たくなかった未来がすぐそこに、迫ってきている気さえした。
もう、ここにはいたくなかった。惣一郎は逃げるように詩音に背を向け、財布だけを持ち、玄関へ向かった。
「惣!」
呼び止められ、自然と足は止まる。
「…僕にとって惣は、一番大切な人。ずっと大好きな人だよ」
惣はもう違う―?
瞬間、胸が詰まり、込み上げる涙で視界が滲む。
俺だって詩音がこの世で一番、好きだ。
ありったけの声で、全身を響かせて、古いアパート中に聞こえる声でそう言いたかった。なのに、喉に張り付いた涙の膜が、声帯を震わせてくれない。
詩音に背を向けたまま立ち尽くしていると、後ろから詩音が鼻をすする音と、鞄から何かを出しているような音が聞こえた。
玄関の前に立つ惣一郎の横を通る気配がして、けれど顔は見上げられずにいた。詩音は惣一郎を気にすることなく、靴を履く。
「ちょっとコンビニ、行ってくるね」
惣の好きなチーズケーキあるかな。喧嘩をした時の仲直りの合図の言葉を口にする。といっても惣一郎たちは怒鳴り合うような喧嘩はしない。ただ、一方的に惣一郎が小さなことで怒り、気まずい雰囲気を打ち消すように詩音がコンビニへ行く。そうすることが当たり前になっていた。
「すぐ帰ってくるから、待っててね」
詩音、行くな―。
仲直りのスイーツなんて今はどうでもいい。ただ、詩音と目を見つめ合って話したかった。
言おうとして顔を上げた。が、無情にも開けられた玄関の扉は、閉じられていく。
言おうと決意した言葉は、降る雨の音に吞み込まれて消えてしまった。
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