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「だから、浮気じゃないんじゃないかなって思うわけ」
「…じゃあ、なんだろう」
「それは三田が詩音くんに聞かないと」

 もやもやしてても仕方ないよ?そう言う藍田は、ちっとも、もやもやなどしていなさそうだった。

 しかし、聞き出すとなると勇気がいる。

 以来、何度も話しかけようとしたが、結局、それよりも詩音の一挙手一投足が妙に気になってしまうのだから、小さい男だったのだと痛感させられるばかりだ。

 そんな日が続いたせいで、三月との計画も中途半端になっていた。

 とはいえ、事情を説明もできず。仕事が忙しくなって、とまた、必要なのかそうではないのか、わからない嘘を重ねることになった。
 けれど三月は「大丈夫ですよ」と言ってくれる。しかも代わりに進めておくなど言ってくれて、それはそれで悪いと思わされ、最近の惣一郎は少し、余裕がない。

 いざ、サプライズをする側となると、考えることは意外にも多かった。
 場所、シチュエーション、装飾、構成。多分、何事にも凝ってしまう性格だからだろう。もういっそのこと、企画書を作るかと意気込んですらいる。
 今月中にという部分だけ延期し、計画はそのまま。仕事帰りに百円ショップに寄り、必要なものを見繕い、詩音にばれないように家に持ち帰ったこともあった。が、結局、家に長くいる詩音にいつばれるかと冷や冷やし、結果、会社のロッカーに入れることにした。

 だが、さすがに、これ以上待ってもらうのも悪い。
 本格的に暑くなる前にと、惣一郎は三月に連絡を取ることにした。

「お待たせしてすみません」

 待ち合わせ場所は以前と同じ、カフェが近くにある改札前。時刻は十時と、少し早かったせいか、三月はやや遅れてやってきた。

「いえ、こちらこそ。早すぎましたよね」
「いえ、お恥ずかしい話ですが、うっかり寝坊しまして」
「お疲れのところ、本当に申し訳ないです」

 三月の格好は最初、会った時と比べラフにシャツとジャケット、ジーンズにスニーカー。やはり、無理をさせてしまったのかと慌てて謝ると、三月は「昨日、夜更かしして」と教えてくれた。

「実はこれ、作ってみたんです」
 そう言って渡されたのは計画案と真ん中に堂々と書かれた書類。断りを入れてから見る。

「これって」
「やりすぎでしたか?」

 ぶんぶんと、言葉は出さずとも首を振る。それは、惣一郎が作ろうと思っていたサプライズ計画の企画書のようなものだったのだ。
 捲って見れば、サプライズの計画案から準備物など、構成までが細かに分かりやすく書かれている。

「なんか、普通に感動してしまいました」
 そう言ったのはお世辞ではなく、本当に心底、思っていたからだ。惣一郎が言い出し、お願いした手前、三月はただ付き合ってくれているだけなのかもしれないと、内心、思っていた。それだけに、ここまでしてくれたことが嬉しかった。

 それから最近では詩音のように、常連になりつつあるカフェに移動した。

「三月さんもソイラテですか?」
「実はあのプロテインの話を聞いてから、嵌ってしまって」

 二人、お揃いのカップを持ちながら、笑っていた。

「じゃあ、これで大体は大丈夫ですね」
 三月が作ってくれた計画案を前に、惣一郎も頷く。

「なんか、ドキドキします」
「実は、俺も緊張してますよ」
 そう言い合い、なんだかおかしくなってしまう。

「成功してくれるといいな」
「ですよね…正直、不安しかないです」

 はあ。と、深い溜息がどちらからともなく漏れる。サプライズ初心者にはハードルが高い。
 といっても計画自体は、単純によくあるもので、当日はまず、個室のレストランを予約する。惣一郎と三月が待ち合わせ時間よりも早く、そこに行き、飾り付けをする。時間間近に三月が適当な場所へと隠れる。本はラッピングした状態でテーブルの上にセッテイングしておく。そして、詩音が本に気付き、三月が登場する、というものだ。

 当初はもっと複雑な案も出た。が、計画の立案者は二人そろってサプライズ初心者。

『何事も基礎から、ですよね』

 いろいろと話し合った挙句、初心を大切にという気持ちに至ったのである。

「詩音さん、喜んでくれるでしょうか」
「…多分」

 自信なさげに言うと、三月がええ~と少し、大袈裟に言う。この数週間で随分、三月との距離も縮まった。

 きっと、一人だったらこんなに丁寧に考えられなかった。多分、いつもの食卓でさり気なく渡していた。それが、惣一郎に出来る限界だっただろう。

 改めて感慨深くなり、「ありがとうございます」と言うと、三月が「お礼はまだ早いですよ」と言った。なんとなく、そのやり取りが嬉しくなった。
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