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ふわふわな髪を撫でながら、顔を近づけると、突如、目が合う。
「…惣?」
「…おはよう、詩音」
「もう、朝?」
「ああ。もう、朝飯、出来てるぞ」
「ありがとう…ってか、なんか、近いね、今日」
「そう?」
額と額がぶつかりそうな距離で言葉を交わした。おはようのキス、なんて甘いことは惣一郎に出来るはずもなく、ただ、愛しいという欲求を押し殺すように顔を離し、布団から立ち上がった。
土曜の朝は、いつものテレビ番組はやっていない。土曜限定のアナウンサーを見ながら、惣一郎は詩音と一緒に朝食を食べた。
「じゃあ、行って来るな」
「…うん、行ってらっしゃい」
朝食を食べ終え、身支度を整えると時刻は九時半。そろそろ家から出なければ、間に合わないだろう。
けれど、やはり、どこか元気のない様子の詩音が気になる。「詩音」と、思わず、呼びかける。
「どうしたの、惣」
「…いや、なんでもない」
帰りは詩音の好きなシュークリーム、買って来るな。
そう言うと、少しだけ、口角を上げて笑ってくれた。
待ち合わせ場所に行くと、既に三月は来ており、ベンチに腰掛け、文庫本を読んでいるところだった。
「三月さん、お待たせしました」
「三田さん、いいえ。さっき、来たところですから」
「もしかして今、見ていたのって」
「ああ~実は、大見え切っておいて、言いにくいんですけど、まだ読み終えてなくて」
苦笑いしながらそう言い、見せてくれたのは文庫本。例の本だった。
「一つ、言い訳させてもらえるなら、今週、予定外の仕事が入りまして」
「それは、お疲れさまでした。本ならまだ、先でも」
「でも、それだと、詩音さんが読めるの、まだ先になっちゃいます」
肩を落として言う。そんな仕草まで詩音そっくりで、自然と笑みが零れる。
「なら、少しだけ、付き合っていただけますか?」
そう言って、少し先にあるカフェに視線を向けた。
それから三月はコーヒーを、惣一郎はソイラテを注文し、席に着いた。全国チェーン店のカフェは、土曜ということもあり、そこそこ混んでおり、それでも以前、詩音と来た日曜日に比べれば少しは空いているように見える。
しばし、視線を彷徨わせ、奥の二人掛けの席に座った。
「今更ですけど、この後、何か予定とかありましたか?」
向かい合って座り、今更ながら、三月の服装に気が付き、思わずそう聞いていた。
というのも、三月と会ったのは昨日が初めて。仕事帰りのサラリーマンという出で立ちで、上下グレーのスーツに濃い青色のネクタイの首元を緩ませ、全体的にくたびれた様子だった。が、今日は襟付きのチェックのシャツにカーディガン、そしてベージュのパンツにラフなスニーカー。まだ、くたびれた様子は感じられない。
惣一郎もオンとオフでは、服装はだいぶ変わる。スーツを着ると自ずと仕事モードのスイッチが入ってしまうため、オフの時はなるべく、ラフで肩に力が入らないような服装を好んでいる。
「いいえ、予定は午後からなので、大丈夫ですよ」
「なら、良かったです」
けれど何故か、言いにくそうにしている。視線がマグカップに移り、そわそわしている。
「もしかして、これ、ですか?」
と、ソイラテが入っているカップを持ち上げる。すると、三月は驚いたように目を丸くし、そして恥ずかしそうに頷いた。
「すみません、気を悪くしましたか?」
「いえ、全然。よく言われるので大丈夫ですよ」
と言ったのは、社交辞令ではない。
「…惣?」
「…おはよう、詩音」
「もう、朝?」
「ああ。もう、朝飯、出来てるぞ」
「ありがとう…ってか、なんか、近いね、今日」
「そう?」
額と額がぶつかりそうな距離で言葉を交わした。おはようのキス、なんて甘いことは惣一郎に出来るはずもなく、ただ、愛しいという欲求を押し殺すように顔を離し、布団から立ち上がった。
土曜の朝は、いつものテレビ番組はやっていない。土曜限定のアナウンサーを見ながら、惣一郎は詩音と一緒に朝食を食べた。
「じゃあ、行って来るな」
「…うん、行ってらっしゃい」
朝食を食べ終え、身支度を整えると時刻は九時半。そろそろ家から出なければ、間に合わないだろう。
けれど、やはり、どこか元気のない様子の詩音が気になる。「詩音」と、思わず、呼びかける。
「どうしたの、惣」
「…いや、なんでもない」
帰りは詩音の好きなシュークリーム、買って来るな。
そう言うと、少しだけ、口角を上げて笑ってくれた。
待ち合わせ場所に行くと、既に三月は来ており、ベンチに腰掛け、文庫本を読んでいるところだった。
「三月さん、お待たせしました」
「三田さん、いいえ。さっき、来たところですから」
「もしかして今、見ていたのって」
「ああ~実は、大見え切っておいて、言いにくいんですけど、まだ読み終えてなくて」
苦笑いしながらそう言い、見せてくれたのは文庫本。例の本だった。
「一つ、言い訳させてもらえるなら、今週、予定外の仕事が入りまして」
「それは、お疲れさまでした。本ならまだ、先でも」
「でも、それだと、詩音さんが読めるの、まだ先になっちゃいます」
肩を落として言う。そんな仕草まで詩音そっくりで、自然と笑みが零れる。
「なら、少しだけ、付き合っていただけますか?」
そう言って、少し先にあるカフェに視線を向けた。
それから三月はコーヒーを、惣一郎はソイラテを注文し、席に着いた。全国チェーン店のカフェは、土曜ということもあり、そこそこ混んでおり、それでも以前、詩音と来た日曜日に比べれば少しは空いているように見える。
しばし、視線を彷徨わせ、奥の二人掛けの席に座った。
「今更ですけど、この後、何か予定とかありましたか?」
向かい合って座り、今更ながら、三月の服装に気が付き、思わずそう聞いていた。
というのも、三月と会ったのは昨日が初めて。仕事帰りのサラリーマンという出で立ちで、上下グレーのスーツに濃い青色のネクタイの首元を緩ませ、全体的にくたびれた様子だった。が、今日は襟付きのチェックのシャツにカーディガン、そしてベージュのパンツにラフなスニーカー。まだ、くたびれた様子は感じられない。
惣一郎もオンとオフでは、服装はだいぶ変わる。スーツを着ると自ずと仕事モードのスイッチが入ってしまうため、オフの時はなるべく、ラフで肩に力が入らないような服装を好んでいる。
「いいえ、予定は午後からなので、大丈夫ですよ」
「なら、良かったです」
けれど何故か、言いにくそうにしている。視線がマグカップに移り、そわそわしている。
「もしかして、これ、ですか?」
と、ソイラテが入っているカップを持ち上げる。すると、三月は驚いたように目を丸くし、そして恥ずかしそうに頷いた。
「すみません、気を悪くしましたか?」
「いえ、全然。よく言われるので大丈夫ですよ」
と言ったのは、社交辞令ではない。
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