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 タイトルは「タイニー・タイニー・ハッピー」女性が頬杖を付き、物思いに耽っている姿が表紙だ。
 舞台は東京郊外の大型ショッピングセンター、略してタニハピ。主人公徹の話に始まり、物語はタニハピで働く八人の話へと変わっていく。

 主人公徹は、タニハピで働く妻、実咲と仲睦まじく暮らしていた。が、少しずつその仲にズレが生じる―。
 まるで自分と詩音のようだと、読みながら惣一郎は思った。

 ズレ、とまではいかないのかもしれない。けれど、昔のままでいられない。

 それは単に、お互い、大人になったからかもしれない。親に扶養されていた学生に比べ、自分の力で生活していける大人の今、以前よりもいろいろな価値観に触れる機会は多い。

 大事にするものが仕事だったり、家庭だったり。それは人によって違うし、それでいいとも思う。
 ならば、惣一郎にとっての大事とは何か。詩音にとっての大事とは何か。

 ふと、本の世界観に触れ、考えてみた。

 大事、とはきっと、何が何でも自分にとってなくてはならない、一番に優先したいことだろう。
 仕事。と、考え、きっと違うと思う。仕事をしなければ食べてはいけないが、多分、今の会社ではなくてもいいと思った。
 趣味。考え、それはないと思った。趣味といっても、学生時代、読んでいた漫画かバスケくらいだ。社会人になった今、それらを欲しているかと言われればそれはない。
 恋人。そう考えて、しっくりきた。

 詩音。きっと、詩音がいなければ自分は、まともに生活できない。

 たとえば、帰ってきて誰もいない部屋に帰る。誰もいない部屋、飯を食べる。誰もいない布団で寝る。
 きっとそうなればできると思う。けれどそれは、あくまでただ、そうできるだけであって、そこに気持ちは伴わない。
 嬉しい、楽しい、ほっとする。そんな感情は詩音が消えた時点で失せていく。
 自分にとって一番大事なのは、詩音だ。それは紛れもなく、一寸の間違いようもなく。
 そこまで考えて本を閉じる。まだ眠りの世界にいる詩音の顔を見たくなり、そっと、布団を捲る。

 必ず、左向きに寝る癖のせいで、寝顔がよく見える。
 すやすやと寝息が聞こえるその寝顔は、贔屓目なしでも可愛い。

 生まれつき色素が薄く、肌は白い。夏が近づいているせいか、室温は高く、詩音の白い肌が薄いピンクに染まっている。
 まつ毛は長く、カールがかかっている。惣一郎が近くで見つめると、『女の子みたいでいやだから見ないで』と、頬を膨らませながら言う。

 好きだ、愛しい。そんな感覚が体の中を駆け巡り、甘く疼く。
 抱きたい。その体ごと、愛してしまいたい。
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