愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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 今回もきっと、普段の藍田と恋人に求める藍田とのギャップが、藍田を怒らせている。
 そうは思うが、そんなこと、ストレートには言いづらい。

「彼氏もまだ若いからな」
 そう一言、無難に言うと、藍田は
「そう!若いの!だからね、わかってるつもり。束縛なんかしたら良くないって。でもね、あんまり放っておかれるのもやっぱり不安」
 と、胸の内をさらけ出した。

「だからさ、三田。あんたも私と同じ轍は踏まないでよ?」
「それって、俺が詩音より趣味を優先してるってこと?」
「それ以外にも、三田はあんまり喋らないじゃん?」
 問われ、また、ドキリとした。

「そういうの、詩音くんは気にしちゃってるのかもよ」

 信号が赤から青に変わり、急かされるように前へ進む。すたすた歩く藍田の後ろを追いかける。

 今度こそ、核心を突かれた気がした。
 喋らない。というほどのことでもないが、よく喋る詩音や藍田から見れば、惣一郎は喋らない部類だろう。
 仕事はともかく、プライベートで会う人には甘えているという自負もある。
 喋らなくても喋ってくれるからいいか、そういう気持ちが少なからずあるのも事実だ。
 喋らないことで去っていく友人もいた。が、そうじゃない友人もいる。

 特に詩音は、出会った頃から惣一郎が無理に言葉を探さなくても、嫌がったり距離を取ったりするわけでもなく、ただ、そこにいてくれた。それがとても、心地よかった。
 彼氏の愚痴を言いながらも藍田は、自分がどうすればいいのか、きちんとわかっている。束縛しすぎることが良くないということを、自覚し、変えようとしている。
 が、惣一郎は、それが出来ていない。

 結局、甘えて、物事の本質から目を背けているだけなのだ。弱さに向き合おうとしていない。
 詩音が何か言いたげな視線を送ってくるようになったのは、ここ最近のことで、ちょうど恋人になって五年を迎えたあたりだった。
 今まで、何かあれば言葉にして伝えてくれていたのに、突然、言葉ではなく視線で投げかけてくるようになった詩音に、惣一郎はどうすればいいのか、何と言葉を掛けていいのかわからないままだった。

「まあ、考えすぎてもどうにもならないからさ?ストレートに聞くのもありかもよ?」
 会社のエントランス、振り返った藍田が励ますように言ってくれた。
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