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第一章
ep30 王女の旅立ち
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【13】
翌日の出国の朝も、爽やかな晴天に恵まれた。
春のような暖かい風が穏やかにそよいでいる。
リザレリスは、エミルと他数名の従者を従えて、国一番の船に乗り込んだ。
昨日のパレードのような混雑を避けるため、一般国民への時間や場所の周知はなされていない。
港に並ぶ人々は、ほとんどが城の者たちだった。
「思ったより人数少ないんだな」
甲板に立ったリザレリスが意外な顔をした。
でもそれは港に立つ人々へ向けたものではない。
船に乗る船員たちに対してでもない。
留学する王女に伴う人員の少なさについてだ。
「フェリックス王子側からの要請だそうです」
王女の傍に寄り添うエミルが答えた。
「へー、そーなんだ。でもなんでだろ」
「リザさまの警護については、ウィーンクルム側が責任を持って人員も費用も負担するということです」
「ふーん」
自分から振ったわりに、リザレリスは興味なさそうに返事をする。
当然だ。
心は留学のワクワクでいっぱいだから。
本当は、はしゃぎたかった。
でも我慢した。
口うるさいルイーズも侍女として、すぐ後ろで控えているからだ。
ちなみに彼女は今回、侍女のみならず現地での政務官(外務官)のような役割も担っているらしい。
上質なシュールコーを纏った、古風だが品格のある女官のような本日の彼女は、普段とは様相が異なっていた。
妙に様にもなっている。
なぜ侍女であるルイーズがと不思議に思ったが、リザレリスは深く考えなかった。
留学生活への期待と楽しみに、王女の頭は支配されていた。
「あー、早く学校行きてー」
「もう少しですよ。ぼくも楽しみです」
エミルに微笑みかけられ、リザレリスも笑みを浮かべた。
まもなく船が出航する。
元気なリザレリスは手すりに走り寄っていくと、目一杯にぶんぶんと手を振った。
ルイーズの存在も忘れて。
「みんなー!」
「王女殿下!どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ!」
港に立つ臣下の者たちは皆、一様に堅苦しく声を上げた。
リザレリスは手を横に振り、違う違うとジェスチャーする。
「こういう時はもっと砕けていこうぜ!」
「お、王女殿下?」
臣下の者たちは目を丸くする。
離れていく船の上から、王女が自分たちに向かい、被っていた帽子をぽーんと空高く放り投げたからだ。
薔薇風のリボンをしつらえた王女の帽子がカモメのように宙を舞う。
それは不思議なぐらい潮風に乗っていき、港の先に立つディリアスの手にふわりと舞い降りた。
「貴女という方は......」
ディリアスは、まるで自分の手に天使が舞い降りてきたかのように思った。
「みんなー!ディリアスー!」
少年のように元気いっぱいに王女が手を振ってくる。
彼女の隣には愛弟子のエミルが寄り添っている。
ディリアスは目を細めた。
朝陽が眩しいからではなかった。
「お前たちも、王女殿下に手を振って応えて差し上げろ」
やにわにディリアスが言った。
無駄だった。
すでに臣下の者たちも、同じように手を振って応えていたから。
「王女殿下ぁー!!」
「みんなー!!」
こうしてリザレリス王女は〔ブラッドヘルム〕を後にし、〔ウィーンクルム〕へと旅立っていった。
この先に待ち受ける、大きな運命に向かって......。
〔第一章 完〕
翌日の出国の朝も、爽やかな晴天に恵まれた。
春のような暖かい風が穏やかにそよいでいる。
リザレリスは、エミルと他数名の従者を従えて、国一番の船に乗り込んだ。
昨日のパレードのような混雑を避けるため、一般国民への時間や場所の周知はなされていない。
港に並ぶ人々は、ほとんどが城の者たちだった。
「思ったより人数少ないんだな」
甲板に立ったリザレリスが意外な顔をした。
でもそれは港に立つ人々へ向けたものではない。
船に乗る船員たちに対してでもない。
留学する王女に伴う人員の少なさについてだ。
「フェリックス王子側からの要請だそうです」
王女の傍に寄り添うエミルが答えた。
「へー、そーなんだ。でもなんでだろ」
「リザさまの警護については、ウィーンクルム側が責任を持って人員も費用も負担するということです」
「ふーん」
自分から振ったわりに、リザレリスは興味なさそうに返事をする。
当然だ。
心は留学のワクワクでいっぱいだから。
本当は、はしゃぎたかった。
でも我慢した。
口うるさいルイーズも侍女として、すぐ後ろで控えているからだ。
ちなみに彼女は今回、侍女のみならず現地での政務官(外務官)のような役割も担っているらしい。
上質なシュールコーを纏った、古風だが品格のある女官のような本日の彼女は、普段とは様相が異なっていた。
妙に様にもなっている。
なぜ侍女であるルイーズがと不思議に思ったが、リザレリスは深く考えなかった。
留学生活への期待と楽しみに、王女の頭は支配されていた。
「あー、早く学校行きてー」
「もう少しですよ。ぼくも楽しみです」
エミルに微笑みかけられ、リザレリスも笑みを浮かべた。
まもなく船が出航する。
元気なリザレリスは手すりに走り寄っていくと、目一杯にぶんぶんと手を振った。
ルイーズの存在も忘れて。
「みんなー!」
「王女殿下!どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ!」
港に立つ臣下の者たちは皆、一様に堅苦しく声を上げた。
リザレリスは手を横に振り、違う違うとジェスチャーする。
「こういう時はもっと砕けていこうぜ!」
「お、王女殿下?」
臣下の者たちは目を丸くする。
離れていく船の上から、王女が自分たちに向かい、被っていた帽子をぽーんと空高く放り投げたからだ。
薔薇風のリボンをしつらえた王女の帽子がカモメのように宙を舞う。
それは不思議なぐらい潮風に乗っていき、港の先に立つディリアスの手にふわりと舞い降りた。
「貴女という方は......」
ディリアスは、まるで自分の手に天使が舞い降りてきたかのように思った。
「みんなー!ディリアスー!」
少年のように元気いっぱいに王女が手を振ってくる。
彼女の隣には愛弟子のエミルが寄り添っている。
ディリアスは目を細めた。
朝陽が眩しいからではなかった。
「お前たちも、王女殿下に手を振って応えて差し上げろ」
やにわにディリアスが言った。
無駄だった。
すでに臣下の者たちも、同じように手を振って応えていたから。
「王女殿下ぁー!!」
「みんなー!!」
こうしてリザレリス王女は〔ブラッドヘルム〕を後にし、〔ウィーンクルム〕へと旅立っていった。
この先に待ち受ける、大きな運命に向かって......。
〔第一章 完〕
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