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第一章
ep14 王女のお出かけ
しおりを挟む 翌日のよく晴れた午後。
リザレリスは城門を抜け、街へ飛び出した。
昨日の今日で城は何かと騒がしかったが、ディリアスのおかげでこっそりと抜け出すことに成功した。
ディリアスいわく、城にいてドリーブ派に接触されるよりは、いっそ外出するのは良い方法かもしれないとのこと。
質素な服(といっても小洒落た町娘ぐらいのレベル)に着替え、古風なボンネット帽子を被ったリザレリスは、子どものようにはしゃぐ。
「へ~これがブラッドヘルムの街か~」
王女に転生してから初めての外出。
リザレリスはここぞとばかりに異世界というものを満喫できると胸を踊らせていた。
もちろん政略結婚の話は気になっていた。
しかしこういう時だからこそ外で遊んで気を晴らすのが一番。
そう思って彼女は羽を伸ばそうとしていたのだ。
「城も雰囲気あっていいんだけどさ。なーんか息苦しいっていうか、のびのびできないんだよね」
リザレリスは、街の中心街の通りに軒を連ねる店々を、興味津々に眺めた。
まるで旧時代の、西洋の城下町に旅行にでも来たような気分になり、リザレリスは俄然テンションが上がってくる。
ところがだった。
「なんか、やけに人が少ないような?」
街の中心部の商店街のはずなのに、閑散としていた。
よく見れば、閉まっている店も多い。
「定休日なのかな」と呟きながらも、リザレリスの頭の中にはひとつのワードが浮かんでくる。
「シャッター街......」
だが、せっかく来たのだから楽しまないともったいない。
シャッター街ぐらいどこにだってあるだろ。
リザレリスは持ち前のテキトーさで気持ちを切り替え、どこか面白そうな店はないかと進んでいった。
「おっ、あそこ、なんか気になるかも」
ある雑貨屋を見つけ、リザレリスは小走りになると、ふと店前で立ち止まった。
それから一歩遅れてきたエミルへ振り返る。
彼女の顔は何か言いたげだった。
「王女殿下?」
「エミルももっと楽しめよ」
「私はあくまで王女殿下の護衛です。私などには気にせず楽しんでください」
真面目なエミルは微笑み返しながらも仕事という姿勢を崩さない。
リザレリスは、ぶぅーっと口を尖らせた。
「城では上司もいるからしょうがないだろうけどさ。ここでは他に誰もいないんだしいいじゃん」
「そういうわけには参りません。貴女は王女殿下で私は護衛です」
「その、王女殿下ってのもやめてくんないかな。なーんかやりづらんだよなぁ」
「それはしかし......」
「わかった。じゃあ王女殿下として命令する。お前は今から俺...じゃなくてわたしを王女殿下と呼ぶのをやめろ」
リザレリスは人差し指を突きつけた。
「め、命令ですか......」
困惑するエミル。
「しかし、私だけ王女殿下への呼び方を変えるとなれば、まわりからどう思われるか......」
「あーもうわかったわかった。じゃあふたりの時だけでも変えてくれ」
「そ、それならば......では、なんとお呼びすれば」
「リザレリスでいいよ」
「では、リザレリス様、とお呼びすればよろしいでしょうか」
「うん。でもちょっと長い気がするな。うーん。じゃあ、リザでいいよ」
「り、リザさまですか」
「よし。それでいこう」
リザレリスはニカッと笑って無邪気にエミルの腕をバンバン叩いた。
エミルは相変わらず当惑した表情を浮かべている。
「お、王女殿下」
「たがらリザって呼べっつったろ」
「も、申し訳ございません。リザさま」
「ったく、そんなんじゃ女にモテねーぞ?」
「そ、そんな、私はリザさまのためだけの生贄ですので」
「そのさぁ、私ってのもやめてくんない?」
「えっ?」
「俺とか僕とか、そういう感じでいいからさ」
リザレリスは不満そうにエミルの顔をじ~っと見る。
ひたすら当惑していたエミルも、ついには折れて大きく吐息をついた。
「......承知しました」
「よし。じゃあ自己紹介してみ?」
リザレリスは腕組みしてにやにやする。
「......ぼ、ぼくは、エミル・グレーアムです」
「はい。じゃあわたしは?」
「リザさまです」
「よーし合格合格!」
リザはイタズラ少年のような顔をしてグッドサインを送った。
「あ、ありがとうございます」
お転婆プリンセスに翻弄されながらも、エミルの胸には熱いものが込み上げてきていた。
自分は王女殿下から、親愛の証を頂戴したのかもしれないと。
いや、それは些か取り繕っていると、エミルは思い直す。
憧れの麗しい王女と親密になれた気がして、自分は幸せなんだ。
「エミル?」
「なんでもございません」
そう言いながら、エミルは幸福を噛み締めた。
それはテキトーなリザレリスにもいくらか伝わったようだ。
「やっと楽しそうになったな」
「リザさまとお出かけができて、楽しくないわけがありません」
「憧れの眠り姫とデートだもんな?」
ニヤリとしたリザレリスは、悪戯少女のような微笑をエミルにぶつけた。
だが次の瞬間「あれ?」となる。
エミルの顔が、ぽっと赤らいだから。
「な、なんでもありません」
すぐにエミルは顔を背けた。
その姿はまるで、ごく普通の恋する青少年のようだった。
リザレリスは、からかおうとするも踏みとどまった。
なぜだか妙にムラッとする感覚を覚えたから。
それから無意識に彼女の視線は、這うようにエミルの首元へと移っていく。
「......あっ、あれ。どうしたんだろ」
リザレリスは我に返ると、焦ってエミルから視線を外した。
エミルは自分のことを言われたかと思い、誤魔化すように慌てて切り出した。
「そ、それでは中に入りましょう。リザさま」
「そ、そうだな」
ふたりは互いにアハハとぎこちない笑顔を浮かべてから、店に入っていった。
誰かが彼らを見ていたら、初々しいカップルの初デートかと思ったかもしれない。
リザレリスは城門を抜け、街へ飛び出した。
昨日の今日で城は何かと騒がしかったが、ディリアスのおかげでこっそりと抜け出すことに成功した。
ディリアスいわく、城にいてドリーブ派に接触されるよりは、いっそ外出するのは良い方法かもしれないとのこと。
質素な服(といっても小洒落た町娘ぐらいのレベル)に着替え、古風なボンネット帽子を被ったリザレリスは、子どものようにはしゃぐ。
「へ~これがブラッドヘルムの街か~」
王女に転生してから初めての外出。
リザレリスはここぞとばかりに異世界というものを満喫できると胸を踊らせていた。
もちろん政略結婚の話は気になっていた。
しかしこういう時だからこそ外で遊んで気を晴らすのが一番。
そう思って彼女は羽を伸ばそうとしていたのだ。
「城も雰囲気あっていいんだけどさ。なーんか息苦しいっていうか、のびのびできないんだよね」
リザレリスは、街の中心街の通りに軒を連ねる店々を、興味津々に眺めた。
まるで旧時代の、西洋の城下町に旅行にでも来たような気分になり、リザレリスは俄然テンションが上がってくる。
ところがだった。
「なんか、やけに人が少ないような?」
街の中心部の商店街のはずなのに、閑散としていた。
よく見れば、閉まっている店も多い。
「定休日なのかな」と呟きながらも、リザレリスの頭の中にはひとつのワードが浮かんでくる。
「シャッター街......」
だが、せっかく来たのだから楽しまないともったいない。
シャッター街ぐらいどこにだってあるだろ。
リザレリスは持ち前のテキトーさで気持ちを切り替え、どこか面白そうな店はないかと進んでいった。
「おっ、あそこ、なんか気になるかも」
ある雑貨屋を見つけ、リザレリスは小走りになると、ふと店前で立ち止まった。
それから一歩遅れてきたエミルへ振り返る。
彼女の顔は何か言いたげだった。
「王女殿下?」
「エミルももっと楽しめよ」
「私はあくまで王女殿下の護衛です。私などには気にせず楽しんでください」
真面目なエミルは微笑み返しながらも仕事という姿勢を崩さない。
リザレリスは、ぶぅーっと口を尖らせた。
「城では上司もいるからしょうがないだろうけどさ。ここでは他に誰もいないんだしいいじゃん」
「そういうわけには参りません。貴女は王女殿下で私は護衛です」
「その、王女殿下ってのもやめてくんないかな。なーんかやりづらんだよなぁ」
「それはしかし......」
「わかった。じゃあ王女殿下として命令する。お前は今から俺...じゃなくてわたしを王女殿下と呼ぶのをやめろ」
リザレリスは人差し指を突きつけた。
「め、命令ですか......」
困惑するエミル。
「しかし、私だけ王女殿下への呼び方を変えるとなれば、まわりからどう思われるか......」
「あーもうわかったわかった。じゃあふたりの時だけでも変えてくれ」
「そ、それならば......では、なんとお呼びすれば」
「リザレリスでいいよ」
「では、リザレリス様、とお呼びすればよろしいでしょうか」
「うん。でもちょっと長い気がするな。うーん。じゃあ、リザでいいよ」
「り、リザさまですか」
「よし。それでいこう」
リザレリスはニカッと笑って無邪気にエミルの腕をバンバン叩いた。
エミルは相変わらず当惑した表情を浮かべている。
「お、王女殿下」
「たがらリザって呼べっつったろ」
「も、申し訳ございません。リザさま」
「ったく、そんなんじゃ女にモテねーぞ?」
「そ、そんな、私はリザさまのためだけの生贄ですので」
「そのさぁ、私ってのもやめてくんない?」
「えっ?」
「俺とか僕とか、そういう感じでいいからさ」
リザレリスは不満そうにエミルの顔をじ~っと見る。
ひたすら当惑していたエミルも、ついには折れて大きく吐息をついた。
「......承知しました」
「よし。じゃあ自己紹介してみ?」
リザレリスは腕組みしてにやにやする。
「......ぼ、ぼくは、エミル・グレーアムです」
「はい。じゃあわたしは?」
「リザさまです」
「よーし合格合格!」
リザはイタズラ少年のような顔をしてグッドサインを送った。
「あ、ありがとうございます」
お転婆プリンセスに翻弄されながらも、エミルの胸には熱いものが込み上げてきていた。
自分は王女殿下から、親愛の証を頂戴したのかもしれないと。
いや、それは些か取り繕っていると、エミルは思い直す。
憧れの麗しい王女と親密になれた気がして、自分は幸せなんだ。
「エミル?」
「なんでもございません」
そう言いながら、エミルは幸福を噛み締めた。
それはテキトーなリザレリスにもいくらか伝わったようだ。
「やっと楽しそうになったな」
「リザさまとお出かけができて、楽しくないわけがありません」
「憧れの眠り姫とデートだもんな?」
ニヤリとしたリザレリスは、悪戯少女のような微笑をエミルにぶつけた。
だが次の瞬間「あれ?」となる。
エミルの顔が、ぽっと赤らいだから。
「な、なんでもありません」
すぐにエミルは顔を背けた。
その姿はまるで、ごく普通の恋する青少年のようだった。
リザレリスは、からかおうとするも踏みとどまった。
なぜだか妙にムラッとする感覚を覚えたから。
それから無意識に彼女の視線は、這うようにエミルの首元へと移っていく。
「......あっ、あれ。どうしたんだろ」
リザレリスは我に返ると、焦ってエミルから視線を外した。
エミルは自分のことを言われたかと思い、誤魔化すように慌てて切り出した。
「そ、それでは中に入りましょう。リザさま」
「そ、そうだな」
ふたりは互いにアハハとぎこちない笑顔を浮かべてから、店に入っていった。
誰かが彼らを見ていたら、初々しいカップルの初デートかと思ったかもしれない。
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