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ep65 初心

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「さっきはああ言ったけどさ」

 レストランから研究所までの帰り道を歩きながら、大成はナナラに言った。

「この町ではもっと売っていきたいと思ってる」

「うん?」

 ナナラはよくわかっていない。

「今日、なんでナナラに同行してもらったと思う?」

「そのほうが楽しいから?」

「ナナラにも営業に同行してもらおうと思ってるんだ」

「え?」

「つまり、俺と一緒にメラパッチンを売るために動いてもらいたいんだよ」

「いいよー、やる」

 あっさりとナナラは承諾した。

「ちゃんとわかってて答えてるか?」

 一応、大成は今一度確認を求める。
 ナナラは満面の笑みで答えた。

「楽しそーじゃん!」

「それならいいんだが」

「だってさ」

 ナナラは立ち止まり、大成へ体を向ける。

「メラパッチンを使って喜ぶ人たちの顔を直接見てまわれるって、サイコーじゃん!」

 にししと嬉しそうに微笑むナナラ。
 その屈託のない向日葵ひまわりのような笑顔は、街灯よりも月明かりよりも眩しかった。
 
「その通りだな」

 大成は深く納得した。
 同時に大事なことを思い出す。
 それこそ営業の醍醐味だよな、と。
 どうしても営業をやっていると、やれ営業戦略やら何やらに囚われ、数字上の成果ばかりを求めがちだ。
 もちろんそれも間違ってはいない。
 それもまた営業の醍醐味であり面白さだ。
 でも、それだけではないんだ。
 大成の胸に、まだ初々しい頃の想いが蘇った。

「タイセー、どうしたの?」

 ナナラが大成の顔を覗き込んでくる。
 大成は、確信に満ちた光を目に浮かべて白い歯を見せる。

「魔導博士がいて、専属の魔導師がいる。そして俺は営業のプロだ。ここからが本当の本番だぞ!」

「おっ、気合い入ってるじゃん!」

「俺には成功する未来しか見えてない!」

「おおお!」

 この後。
 研究所に戻ってから就寝までの間、ナナラとビーチャムの関係が改善されることはなかった。
 大成は部屋でひとり虚しく頷いた。
 やはり人生は甘くない。
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