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ep64 人間性
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茜色の夕陽が町を染め始める頃。
ビーチャムがひとり静かに研究へ没頭していると、研究所の扉が騒がしく開いた。
「ただいまーっ!」
出かける前の事はすっかり忘れたかのように、ナナラが元気に帰ってきた。
両手いっぱいに抱えた布袋を研究室まで運んできてどっかと床に置くと、ドヤ顔を決める。
「大漁だよっ!」
確かに充分すぎる量だった。
午後から夕方までの作業だけでこの量。
大成とビーチャムでは、朝から始めたとしても為し得なかっただろう。
「予想通りの体力馬鹿だな」
相変わらずの憎まれ口を叩くビーチャム。
「ビーチャム。この作業時間でこの量は完全にナナラのおかげだよ」
すかさずタイセーがフォローを入れる。
ナナラはにっこりと笑ってから、ビーチャムに向かい「どうだ」という顔をする。
「言われないでもわかっている」
すぐにビーチャムはそっぽを向いてデスクに向かってしまった。
やれやれといった塩梅で大成は微笑を浮かべる。
「ナナラ、お疲れさま。晩御飯の支度をするからナナラはもう座って休んでていいぞ」
「わたしも手伝うよ。あっ、結局わたしの部屋ってどうなるの?」
「ここは意外と広くて部屋もある。資料室3を片付ければ使えるだろ。あとで俺も手伝うよ」
「ううん。ひとりでやるよ」
「いや、俺も手伝う。ナナラひとりでやらせると、な」
大成はビーチャムの背中へ目をやった。
銀髪の魔導博士は反応しない。
ナナラは、ああ~そうだよね~と無言で頷いた。
少し早めに夕食を済ませると、大成はナナラを連れて閉店間近のレストランへ足を運んだ。
手には数個の〔メラパッチン〕を入れた布袋を持って。
「ダニエルさん。取り急ぎ数個だけ作って持ってきたよ」
「おっ、悪いな。これで連中も喜ぶだろう。今、金払うからちょっと待ってな」
レストラン店主のダニエルは、満面の笑みを浮かべてタイセーに金を支払った。
彼らの関係はすっかり良好なものになっていた。
良い商売仲間であり、歳の離れた友人のようでもある。
まだ知り合って間もなかったが、このガタイの良い中年オヤジに、すっかり大成は気に入られていた。
「カワイイ専属魔導師も見つかって、順風満帆じゃねえか」
ダニエルが愉快に笑う。
「かわいいだなんてやめてよおじさん」
ナナラも愉快に笑う。
それから彼女は一気にダニエルと砕けたコミュニケーションを取った。
決して強引でもなく、自然に。
「予想通りだな」
大成は小声でつぶやいた。
ナナラには天性の人懐っこさがある。
時にそれはマイナスに働くこともあるが、自分ならその特性を活かせる方向に導ける。
そういう考えを大成は持っていた。
つまり大成は、ナナラの人間性は魔導師の世界より商売の世界で活きるのではないかと見出していたのだ。
「あっ、そうだそうだ」
ナナラと楽しくやり取りをしていたダニエルが、唐突に何かを思い出して大成へ視線を投げた。
大成が「ダニエルさん?」と反応すると、ダニエルは切り出した。
「このメラパッチンなんだけどよ。今後はどの範囲まで売っていくんだ?」
「まだまだこの町も広いので、もっとたくさんの人に売りたいと思ってるけど、それが?」
「他の町で売る気はないのか?」
ダニエルの発言の意図を、大成は明確に汲み取った。
これは、彼の商売仲間を通じて販路拡大の後押しをしてもらえる、そういう話だ。
「あります」
大成はハッキリと答える。
当然の答えだ。
ところがこの後、大成は意外なことを口にする。
「ただ、今はまだ手を広げすぎないようにしたいと考えているかな」
「そうなのか?」
「ダニエルさんだから正直に言っちゃうけど、まだそこまでの体制が整っていないんだ。ぶっちゃけリソースが足りない」
「つまり、手が回らなくなっちまうってことか」
「それに『火の魔法石プロダクト』はもう一段階先がある。他の町まで広げるのはその後がいいかなーと」
「......もう一段階先とは?」
その質問に、大成はニヤリとする。
「先のお楽しみってことで」
「これ以上聞くのは無粋ってわけだな」
ダニエルもニヤリと返した。
「なんのハナシ?」
大成の隣でナナラはあどけなく小首を傾げていた。
ビーチャムがひとり静かに研究へ没頭していると、研究所の扉が騒がしく開いた。
「ただいまーっ!」
出かける前の事はすっかり忘れたかのように、ナナラが元気に帰ってきた。
両手いっぱいに抱えた布袋を研究室まで運んできてどっかと床に置くと、ドヤ顔を決める。
「大漁だよっ!」
確かに充分すぎる量だった。
午後から夕方までの作業だけでこの量。
大成とビーチャムでは、朝から始めたとしても為し得なかっただろう。
「予想通りの体力馬鹿だな」
相変わらずの憎まれ口を叩くビーチャム。
「ビーチャム。この作業時間でこの量は完全にナナラのおかげだよ」
すかさずタイセーがフォローを入れる。
ナナラはにっこりと笑ってから、ビーチャムに向かい「どうだ」という顔をする。
「言われないでもわかっている」
すぐにビーチャムはそっぽを向いてデスクに向かってしまった。
やれやれといった塩梅で大成は微笑を浮かべる。
「ナナラ、お疲れさま。晩御飯の支度をするからナナラはもう座って休んでていいぞ」
「わたしも手伝うよ。あっ、結局わたしの部屋ってどうなるの?」
「ここは意外と広くて部屋もある。資料室3を片付ければ使えるだろ。あとで俺も手伝うよ」
「ううん。ひとりでやるよ」
「いや、俺も手伝う。ナナラひとりでやらせると、な」
大成はビーチャムの背中へ目をやった。
銀髪の魔導博士は反応しない。
ナナラは、ああ~そうだよね~と無言で頷いた。
少し早めに夕食を済ませると、大成はナナラを連れて閉店間近のレストランへ足を運んだ。
手には数個の〔メラパッチン〕を入れた布袋を持って。
「ダニエルさん。取り急ぎ数個だけ作って持ってきたよ」
「おっ、悪いな。これで連中も喜ぶだろう。今、金払うからちょっと待ってな」
レストラン店主のダニエルは、満面の笑みを浮かべてタイセーに金を支払った。
彼らの関係はすっかり良好なものになっていた。
良い商売仲間であり、歳の離れた友人のようでもある。
まだ知り合って間もなかったが、このガタイの良い中年オヤジに、すっかり大成は気に入られていた。
「カワイイ専属魔導師も見つかって、順風満帆じゃねえか」
ダニエルが愉快に笑う。
「かわいいだなんてやめてよおじさん」
ナナラも愉快に笑う。
それから彼女は一気にダニエルと砕けたコミュニケーションを取った。
決して強引でもなく、自然に。
「予想通りだな」
大成は小声でつぶやいた。
ナナラには天性の人懐っこさがある。
時にそれはマイナスに働くこともあるが、自分ならその特性を活かせる方向に導ける。
そういう考えを大成は持っていた。
つまり大成は、ナナラの人間性は魔導師の世界より商売の世界で活きるのではないかと見出していたのだ。
「あっ、そうだそうだ」
ナナラと楽しくやり取りをしていたダニエルが、唐突に何かを思い出して大成へ視線を投げた。
大成が「ダニエルさん?」と反応すると、ダニエルは切り出した。
「このメラパッチンなんだけどよ。今後はどの範囲まで売っていくんだ?」
「まだまだこの町も広いので、もっとたくさんの人に売りたいと思ってるけど、それが?」
「他の町で売る気はないのか?」
ダニエルの発言の意図を、大成は明確に汲み取った。
これは、彼の商売仲間を通じて販路拡大の後押しをしてもらえる、そういう話だ。
「あります」
大成はハッキリと答える。
当然の答えだ。
ところがこの後、大成は意外なことを口にする。
「ただ、今はまだ手を広げすぎないようにしたいと考えているかな」
「そうなのか?」
「ダニエルさんだから正直に言っちゃうけど、まだそこまでの体制が整っていないんだ。ぶっちゃけリソースが足りない」
「つまり、手が回らなくなっちまうってことか」
「それに『火の魔法石プロダクト』はもう一段階先がある。他の町まで広げるのはその後がいいかなーと」
「......もう一段階先とは?」
その質問に、大成はニヤリとする。
「先のお楽しみってことで」
「これ以上聞くのは無粋ってわけだな」
ダニエルもニヤリと返した。
「なんのハナシ?」
大成の隣でナナラはあどけなく小首を傾げていた。
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