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ep53 異世界面接②
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「で、貴様らはどうなんだ」
そんな空気などお構いなしにビーチャムが再び切り出した。
彼は良くも悪くもブレない。
「あの」
青髪のコールドがぼそっと口をひらいた。
「なんですか?」
大成が応じる。
「先に聞いておきたいんだけど」
「なんでしょう」
「仕事量と報酬」
コールドは初めてこちらに目を合わせてきた。
「貴様。まずは僕の質問に答えろ」
ビーチャムは眉根を寄せるが、今度は大成がそれを制した。
「わかりました。お伝えします」
不快感を露わにするビーチャムを横目に、大成は具体的な数字を示しながらコールドに説明した。
「......」
ほんの数秒だけ考えてから、コールドはおもむろに立ち上がる。
「断る」
一言だった。
コールドは無感情に拒否の意思を示し、静かに冷たく退室していった。
「残るはひとり......」
大成とビーチャムは、マッシュルームヘアーのキースに視線を転じた。
キースはあたふたと眼鏡の位置を直して姿勢を正した。
「ぼ、ぼくはキースです」
「それは聞いた。まずは僕の質問に答えろ」
ビーチャムは鋭い視線をキースに浴びせた。
「な、なんで魔導師になったのか、ですよね」
「そうだ。早く答えろ」
一息の間を置いてから、キースは眼鏡をキランと光らせる。
「語っちゃって、いいんですか......」
「?」
「実はぼく......魔導師オタクなんです!」
「は?」
「ぼくの推し魔導師はA級魔導師の『魅惑のエリザベス』です!」
キースの鼻息が俄然荒くなる。
先ほどまでのおどおどした雰囲気が嘘のような豹変ぶりだ。
思わず大成とビーチャムはぽかんとしてしまう。
が、お構いなしにキースはまくし立てる。
「魅惑のエリザベスは今まさに魔導師界を代表するアイドル魔導師といっていいでしょう。彼女の魅力はその可愛らしい外見から何から語っても語り尽くせないほどありますが、ぼくにとってはやはり『キュンキュン♡魔法学』が画期的で衝撃的でした」
そんなのあるのか。
知らない。
そんなやり取りを大成とビーチャムが小声で交わす中、キースは早口で喋り続けた。
やがて時間にして十分が過ぎようとした頃。
「わかりましたわかりましたもうわかりましたから!」
たまりかねた大成が身を乗り出して止めに入った。
我に返ったキースは、元のおどおどした雰囲気に戻る。
「す、すいませんでした......」
これはどうしたものか。
大成とビーチャムは頭を悩ます。
バーバラのアドバイスを参考に新人魔導師と面談してみたものの、芳しくない。
レッドとコールドはともかく、キースについては悪い人間ではないように思う。
だが自分たちの求めている人材が彼なのだろうか。
「どうだろう。ビーチャム......」
「難しいな」
結局......最後に残ったキースにもお引き取りいただき、異世界面接は終了した。
大成とビーチャムは大きく溜息をつく。
「これは思ったよりも苦戦しそうだな」
「ああ」
「ある程度は妥協すべきなのかな」
「それにしたってさっきの三人はダメだ」
ビーチャムは厳しく言い捨てた。
大成も返す言葉がなかった。
二人がそのまま考え込んでいると、ハモンドソンが戻ってきた。
「あの三人はどうだったかね」
「あっ、ええと、その」
大成たちの表情からハモンドソンは察したようで、ソファーに腰をおろすなり腕を組んだ。
「彼らで合わないとなると、新人以外になってしまうね」
「そうなりますよね」
別に新人でなければいけないというわけではない。
ようは自分たちと合えばいいのだから。
ここは早々に条件を改めてもいいかもしれないな。
大成はそう思う一方で、バーバラのアドバイスが気になっていた。
「それともやはり新人魔導師が良いのかね」
ハモンドソンから確認するように問われると、大成は否定できない。
「どうしてもというわけでもないんですが」
「ふむ。新人以外の魔導師ならもっとたくさんいるが、君たちがそれを希望するというなら仕方ないな」
「すみません。ご親切にご対応いただいたのに」
こうして大成たちがハモンドソン代表のもとを辞去しようとした時だった。
突然、部屋のドアが慌ただしくノックされたかと思うと、スタッフが駆け込んできた。
何やらただならぬ様子だ。
「失礼します!」
「なんだね。来客中だぞ」
「申し訳ございません。しかし、トラブルが起きまして」
「トラブルとはなんだね」
ハモンドソンの態度はあくまで鷹揚としていたが、スタッフは焦り顔で叫んだ。
「魔導師同士の乱闘です!」
そんな空気などお構いなしにビーチャムが再び切り出した。
彼は良くも悪くもブレない。
「あの」
青髪のコールドがぼそっと口をひらいた。
「なんですか?」
大成が応じる。
「先に聞いておきたいんだけど」
「なんでしょう」
「仕事量と報酬」
コールドは初めてこちらに目を合わせてきた。
「貴様。まずは僕の質問に答えろ」
ビーチャムは眉根を寄せるが、今度は大成がそれを制した。
「わかりました。お伝えします」
不快感を露わにするビーチャムを横目に、大成は具体的な数字を示しながらコールドに説明した。
「......」
ほんの数秒だけ考えてから、コールドはおもむろに立ち上がる。
「断る」
一言だった。
コールドは無感情に拒否の意思を示し、静かに冷たく退室していった。
「残るはひとり......」
大成とビーチャムは、マッシュルームヘアーのキースに視線を転じた。
キースはあたふたと眼鏡の位置を直して姿勢を正した。
「ぼ、ぼくはキースです」
「それは聞いた。まずは僕の質問に答えろ」
ビーチャムは鋭い視線をキースに浴びせた。
「な、なんで魔導師になったのか、ですよね」
「そうだ。早く答えろ」
一息の間を置いてから、キースは眼鏡をキランと光らせる。
「語っちゃって、いいんですか......」
「?」
「実はぼく......魔導師オタクなんです!」
「は?」
「ぼくの推し魔導師はA級魔導師の『魅惑のエリザベス』です!」
キースの鼻息が俄然荒くなる。
先ほどまでのおどおどした雰囲気が嘘のような豹変ぶりだ。
思わず大成とビーチャムはぽかんとしてしまう。
が、お構いなしにキースはまくし立てる。
「魅惑のエリザベスは今まさに魔導師界を代表するアイドル魔導師といっていいでしょう。彼女の魅力はその可愛らしい外見から何から語っても語り尽くせないほどありますが、ぼくにとってはやはり『キュンキュン♡魔法学』が画期的で衝撃的でした」
そんなのあるのか。
知らない。
そんなやり取りを大成とビーチャムが小声で交わす中、キースは早口で喋り続けた。
やがて時間にして十分が過ぎようとした頃。
「わかりましたわかりましたもうわかりましたから!」
たまりかねた大成が身を乗り出して止めに入った。
我に返ったキースは、元のおどおどした雰囲気に戻る。
「す、すいませんでした......」
これはどうしたものか。
大成とビーチャムは頭を悩ます。
バーバラのアドバイスを参考に新人魔導師と面談してみたものの、芳しくない。
レッドとコールドはともかく、キースについては悪い人間ではないように思う。
だが自分たちの求めている人材が彼なのだろうか。
「どうだろう。ビーチャム......」
「難しいな」
結局......最後に残ったキースにもお引き取りいただき、異世界面接は終了した。
大成とビーチャムは大きく溜息をつく。
「これは思ったよりも苦戦しそうだな」
「ああ」
「ある程度は妥協すべきなのかな」
「それにしたってさっきの三人はダメだ」
ビーチャムは厳しく言い捨てた。
大成も返す言葉がなかった。
二人がそのまま考え込んでいると、ハモンドソンが戻ってきた。
「あの三人はどうだったかね」
「あっ、ええと、その」
大成たちの表情からハモンドソンは察したようで、ソファーに腰をおろすなり腕を組んだ。
「彼らで合わないとなると、新人以外になってしまうね」
「そうなりますよね」
別に新人でなければいけないというわけではない。
ようは自分たちと合えばいいのだから。
ここは早々に条件を改めてもいいかもしれないな。
大成はそう思う一方で、バーバラのアドバイスが気になっていた。
「それともやはり新人魔導師が良いのかね」
ハモンドソンから確認するように問われると、大成は否定できない。
「どうしてもというわけでもないんですが」
「ふむ。新人以外の魔導師ならもっとたくさんいるが、君たちがそれを希望するというなら仕方ないな」
「すみません。ご親切にご対応いただいたのに」
こうして大成たちがハモンドソン代表のもとを辞去しようとした時だった。
突然、部屋のドアが慌ただしくノックされたかと思うと、スタッフが駆け込んできた。
何やらただならぬ様子だ。
「失礼します!」
「なんだね。来客中だぞ」
「申し訳ございません。しかし、トラブルが起きまして」
「トラブルとはなんだね」
ハモンドソンの態度はあくまで鷹揚としていたが、スタッフは焦り顔で叫んだ。
「魔導師同士の乱闘です!」
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