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ep51 ハモンドソン
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「少々お待ちください」
建物に入り、受付嬢らしき女性に紹介状を見せると、彼女は会釈をして奥に退がっていった。
大成はビーチャムと軽く頷き合ってから、物珍しそうに店内を見回した。
といっても、内観自体は酒場とあまり変わらない。
ただ、広いスペースの店内には様々な魔導師風のローブを纏った者たちが何人もいて、杖やロッドを携えた者もいた。
「世の中に魔導師って、こんなにいたんだな」
今更ながら、大成は改めて異世界に来たという事実を実感する。
「ここは魔導師ギルドだぞ。いて当たり前だ」
ビーチャムが冷たく言い捨てた。
いつも通りと言えばいつも通りだが、どうもナナラが合流してから機嫌が悪いように思える。
当のナナラはといえば、なぜかやや緊張しているようだ。
「ナナラ?」
少し気になって大成が声をかけた。
「な、なに?」
「どうかしたのか?」
「ど、どうもしてないよ」
「悪いな。先を譲ってもらって」
「い、いいよ。わたしはあとでいいの」
元気っ娘のナナラもさすがに魔導師ギルドでは緊張するのかな。
これは変に声をかけないほうがいいか。
そう思って大成はナナラから視線を外した。
「お待たせしました。タイセー様。ビーチャム様」
やがて受付嬢が戻ってくると、大成とビーチャムは二階の奥にある応接室に案内された。
受付嬢が去り、ソファーに腰かけて待つこと五分。
コンコンというノックとともにドアが開くと、魔法大学の講師といった装いの、綺麗な口髭を生やした紳士風の年配男性が部屋に入ってきた。
「バーバラ先生の紹介で来られたのは貴方がたかね?」
大成とビーチャムは立ち上がって簡単に自己紹介をした。
「タイセーくんとビーチャムくん。よろしくお願いします。私は当ギルドの代表魔導師のハモンドソンです」
紳士風の年配男性も自己紹介を返し、三人はソファーに腰をおろした。
ハモンドソンは、テーブルを挟んだ向かいの大成たちに穏やかな面差しを向ける。
とりわけビーチャムを見つめる目は興味深そうだ。
「君があの天才魔導博士、レオニダス・ビーチャムだね」
ハモンドソンがどういう意味で言ったのかはわからない。
だが、ビーチャムの顔が微かに曇ったのを大成は見逃さなかった。
「ハモンドソンさん。ビーチャム博士は今、私と一緒に商売を行っています。人々の生活を豊かにするための魔導具を売る商売です」
機先を制するように大成が切り出した。
「君とビーチャム博士が商売を??」
ハモンドソンは目を丸くする。
かなり意表を衝かれたようだ。
大成はビーチャムに軽く頷いて見せて、そのままハモンドソンへ自分たちの訪問の経緯と目的を伝えた。
「そうなのか。バーバラ先生の紹介状には用件は書いていなかったから驚かされてしまったよ」
ハモンドソンは一杯喰わされたといった具合に笑いを溢した。
「それで、よろしいでしょうか」
大成が確認する。
「構わないよ。もちろん魔導師本人が承諾したらではあるけどね。気になる者がいたら言ってくれたまえ」
「ありがとうございます!」
「バーバラ先生には昔お世話になったからね。そのバーバラ先生の紹介状を持ってきた君たちを拒絶するわけがない」
「あの、ハモンドソンさん」
ここでビーチャムが口をひらく。
「なんだね?ビーチャム博士」
「バーさん...バーバラ先生と貴方は、どんな関係なんだ?」
「若い頃、私はバーバラ先生の生徒だったんだ」
ハモンドソンはバーバラとの関係性を簡単に説明した。
バーバラには、正式に魔導師になってからも色々とお世話になったんだとか。
それこそハモンドソンが魔導師ギルドを立ち上げる際も、何かと相談に乗ってくれたのはバーバラだった。
「ビーチャム博士の話も聞いていたよ」
ついでにハモンドソンはこんなことも口にした。
「若くて才能豊かで志の大きな魔導博士がいる。だけど真面目で不器用な彼は、誤解もされやすくて苦労してるとね」
ビーチャムは目を見張った。
隣で大成は、やはりな、と思っていた。
バーバラはビーチャムにとって...俺たちにとって必要な人間だ。
「バーバラさんには俺たちの相談役になっていただきました」
大成の言葉に、ハモンドソンは大きく頷く。
「それはいい。新しい魔導師が見つかっても、何かと迷うこともあるだろう」
「もちろんバーバラさんに負担をかけない範囲でですが」
「そうだね。ところで」
ハモンドソンが話を切り替える。
「希望する魔導師の条件はあるのかね?」
大成はビーチャムと視線を交わし合い、バーバラからのアドバイスを頭に浮かべて答えた。
「まだ経験の浅い、若い魔導師がいいかなと」
「となると、新人のほうが良いということか」
「必然的にそうなるかと思います」
「実績のある魔導師は安くないからね。今の君たちにとっては確かに新人の方が良いかもしれないな」
「コストの問題だけではないんですが、いずれにせよ新人魔導師の方をお願いしたいです」
これは企業で言うところの新卒採用の募集と同義かもしれないと、大成は解釈していた。
ではなぜ大成は新卒採用を求めるのだろうか。
今、大成は、新しい事を始めようとしている(現に始めている)。
そしてこの時、邪魔になるのは偏見や先入観や固定観念だ。
......経験や実績は強みだが、そういう人間ほどある種の『色』に染まってしまっていることが多い。これは何も魔導師に限ったことではないが、魔法という特殊な能力を持つがゆえに自尊心の強い魔導師は、よりその傾向が強い。その点で新人魔導師は、良くも悪くもまだ『色』に染まっていない......。
これがバーバラからのアドバイスだった。
この話を聞いた瞬間、大成の頭には「新卒採用」という言葉が浮かび、ひどく腑に落ちたのだった。
ということで......。
果たして大成の新人魔導師のリクルートは、無事成功するのだろうか。
建物に入り、受付嬢らしき女性に紹介状を見せると、彼女は会釈をして奥に退がっていった。
大成はビーチャムと軽く頷き合ってから、物珍しそうに店内を見回した。
といっても、内観自体は酒場とあまり変わらない。
ただ、広いスペースの店内には様々な魔導師風のローブを纏った者たちが何人もいて、杖やロッドを携えた者もいた。
「世の中に魔導師って、こんなにいたんだな」
今更ながら、大成は改めて異世界に来たという事実を実感する。
「ここは魔導師ギルドだぞ。いて当たり前だ」
ビーチャムが冷たく言い捨てた。
いつも通りと言えばいつも通りだが、どうもナナラが合流してから機嫌が悪いように思える。
当のナナラはといえば、なぜかやや緊張しているようだ。
「ナナラ?」
少し気になって大成が声をかけた。
「な、なに?」
「どうかしたのか?」
「ど、どうもしてないよ」
「悪いな。先を譲ってもらって」
「い、いいよ。わたしはあとでいいの」
元気っ娘のナナラもさすがに魔導師ギルドでは緊張するのかな。
これは変に声をかけないほうがいいか。
そう思って大成はナナラから視線を外した。
「お待たせしました。タイセー様。ビーチャム様」
やがて受付嬢が戻ってくると、大成とビーチャムは二階の奥にある応接室に案内された。
受付嬢が去り、ソファーに腰かけて待つこと五分。
コンコンというノックとともにドアが開くと、魔法大学の講師といった装いの、綺麗な口髭を生やした紳士風の年配男性が部屋に入ってきた。
「バーバラ先生の紹介で来られたのは貴方がたかね?」
大成とビーチャムは立ち上がって簡単に自己紹介をした。
「タイセーくんとビーチャムくん。よろしくお願いします。私は当ギルドの代表魔導師のハモンドソンです」
紳士風の年配男性も自己紹介を返し、三人はソファーに腰をおろした。
ハモンドソンは、テーブルを挟んだ向かいの大成たちに穏やかな面差しを向ける。
とりわけビーチャムを見つめる目は興味深そうだ。
「君があの天才魔導博士、レオニダス・ビーチャムだね」
ハモンドソンがどういう意味で言ったのかはわからない。
だが、ビーチャムの顔が微かに曇ったのを大成は見逃さなかった。
「ハモンドソンさん。ビーチャム博士は今、私と一緒に商売を行っています。人々の生活を豊かにするための魔導具を売る商売です」
機先を制するように大成が切り出した。
「君とビーチャム博士が商売を??」
ハモンドソンは目を丸くする。
かなり意表を衝かれたようだ。
大成はビーチャムに軽く頷いて見せて、そのままハモンドソンへ自分たちの訪問の経緯と目的を伝えた。
「そうなのか。バーバラ先生の紹介状には用件は書いていなかったから驚かされてしまったよ」
ハモンドソンは一杯喰わされたといった具合に笑いを溢した。
「それで、よろしいでしょうか」
大成が確認する。
「構わないよ。もちろん魔導師本人が承諾したらではあるけどね。気になる者がいたら言ってくれたまえ」
「ありがとうございます!」
「バーバラ先生には昔お世話になったからね。そのバーバラ先生の紹介状を持ってきた君たちを拒絶するわけがない」
「あの、ハモンドソンさん」
ここでビーチャムが口をひらく。
「なんだね?ビーチャム博士」
「バーさん...バーバラ先生と貴方は、どんな関係なんだ?」
「若い頃、私はバーバラ先生の生徒だったんだ」
ハモンドソンはバーバラとの関係性を簡単に説明した。
バーバラには、正式に魔導師になってからも色々とお世話になったんだとか。
それこそハモンドソンが魔導師ギルドを立ち上げる際も、何かと相談に乗ってくれたのはバーバラだった。
「ビーチャム博士の話も聞いていたよ」
ついでにハモンドソンはこんなことも口にした。
「若くて才能豊かで志の大きな魔導博士がいる。だけど真面目で不器用な彼は、誤解もされやすくて苦労してるとね」
ビーチャムは目を見張った。
隣で大成は、やはりな、と思っていた。
バーバラはビーチャムにとって...俺たちにとって必要な人間だ。
「バーバラさんには俺たちの相談役になっていただきました」
大成の言葉に、ハモンドソンは大きく頷く。
「それはいい。新しい魔導師が見つかっても、何かと迷うこともあるだろう」
「もちろんバーバラさんに負担をかけない範囲でですが」
「そうだね。ところで」
ハモンドソンが話を切り替える。
「希望する魔導師の条件はあるのかね?」
大成はビーチャムと視線を交わし合い、バーバラからのアドバイスを頭に浮かべて答えた。
「まだ経験の浅い、若い魔導師がいいかなと」
「となると、新人のほうが良いということか」
「必然的にそうなるかと思います」
「実績のある魔導師は安くないからね。今の君たちにとっては確かに新人の方が良いかもしれないな」
「コストの問題だけではないんですが、いずれにせよ新人魔導師の方をお願いしたいです」
これは企業で言うところの新卒採用の募集と同義かもしれないと、大成は解釈していた。
ではなぜ大成は新卒採用を求めるのだろうか。
今、大成は、新しい事を始めようとしている(現に始めている)。
そしてこの時、邪魔になるのは偏見や先入観や固定観念だ。
......経験や実績は強みだが、そういう人間ほどある種の『色』に染まってしまっていることが多い。これは何も魔導師に限ったことではないが、魔法という特殊な能力を持つがゆえに自尊心の強い魔導師は、よりその傾向が強い。その点で新人魔導師は、良くも悪くもまだ『色』に染まっていない......。
これがバーバラからのアドバイスだった。
この話を聞いた瞬間、大成の頭には「新卒採用」という言葉が浮かび、ひどく腑に落ちたのだった。
ということで......。
果たして大成の新人魔導師のリクルートは、無事成功するのだろうか。
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