上 下
49 / 49

ep49 その女、魔導師につき③

しおりを挟む
 ナナラは不動のチャンピオンのように悠々と勝利の拳を突き上げた。
 そこへ男二人が駆け寄る。

「ナナラちゃんは魔導師じゃねえのか?」
「本当は戦士なのか?」

 ナナラは無言でニヤリとだけすると人をかきわけて、ある男のもとへ歩み寄っていった。
 先ほど大男にやられて、破壊されたテーブルに埋もれて失神している男だ。

「な、なんだ?」

 傍にいた店主の問いにナナラは答えず、倒れている男に向かって膝をついて両手をかざした。

治癒クラティオ

 ナナラの両手から優しい光が放たれたかと思うと、光は倒れている男を柔らかく包んだ。

「......ん、あ、あれ」

 ほどなくして男がむくりと起き上がった。
 服や髪の毛などは汚れてしまっているものの、顔や体に傷跡はまったく見受けられない。

「今のは魔法か!」

 店主が一驚する。

「わたし、魔導師だから」

 ナナラが立ち上がると同時に、再び歓声が上がる。

「魔導師だったのか!」
「怪力女の魔導師だ!」
「魔導師メスゴリラだ!」

 次第にギャラリーが異様な盛り上がりを見せる中、ナナラは再びギャング風の大男のもとへ戻った。

「おじさん、今治してあげるよ」

 そう言ってナナラは大男の腕にも治癒魔法をほどこした。

「ねーちゃんは、魔導師だったのか」

 上体を起こした大男は、元通りになった腕を触って確かめながら言った。
 ナナラはうんと頷く。

「わたしは魔導師ナナラ・ローパー」

「ナナラか。おれはバーナードだ。完敗だぜ」

 ギャング風の大男バーナードはふっと力無く笑い、素直に負けを認めた。

「じゃあ約束通り、わたしの言うこと聞いてもらおうかな~」

 ナナラはにやにやとする。

「なんでも言え。負けた上に傷まで治されたんだ。男らしくテメーの要求は全部飲んでやる」

 意外にもバーナードはいさぎよい男だった。
 いや、というよりも、大の男が潔く負けを認めざるを得ないほどナナラが理不尽に強すぎた、というのが正しいかもしれない。

「じゃあ、わたしの要求はぁ」

 ナナラは意味ありげな笑みを浮かべる。
 彼女を連れてきた三人組の男は、この女が一体何を言うのかと固唾を呑んで見守っている。
 そしてナナラは、ニカッと白い歯を見せて言った。

「みんなで楽しく飲むこと!」

 微妙な間を置いてから、三人組の男から「はあ?」というマヌケな声がれる。
 そんなのお構いなしにナナラは元気いっぱいに再び拳を突き上げた。

「朝まで飲むぞぉー!」

 ナナラの豪快ともいえる天真爛漫っぷりは、酒場全体をお祭り花火のように照らした。

「ねーちゃん最高だぜ!」
「怪力魔導師に乾杯だ!」
「おれたちも飲むぞ!」

 どっと沸くギャラリー。
 店主は焦ったように持ち場に戻っていく。
 バーナードはいきなりゲラゲラと声を上げて大笑いした。

「オロシレー女だなテメーはぁ!!」

 ナナラは笑顔でピースを返した。

「だって楽しいほうがイイじゃん!」

「わかったわかった。おれも楽しく飲んでやるぜ!」

 この日。
 酒場は戦後最高の売り上げを記録した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...