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ep43 ささやかな打ち上げ
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二日間の訪問販売を終えた夜。
研究所ではささやかな打ち上げが行われていた。
机には豊富な料理が並べられている。
すべて大成が料理した物だ。
「ビーチャム研究所らしからぬ豪華な食事だな」
大成が満足そうに言う。
「メラパッチンが売れてお金が入ったのもそうだが、頂き物も結構あるからな」
「肉は全部、あの老夫婦がくれたものか」
「正確に言うと肉屋の息子さんからだが。しかもあの人たち、息子さんの分も合わせてメラパッチンを買ってくれたからな。やっぱり反響営業は確度が高いな~」
「確度?」
「いや何でもない。さあビーチャム。酒飲んで肉食うぞ!」
大成はお酒をグラスに注いで、料理を取り分けた。
ちなみにグラスも食器も新調した物だ。
「僕は酒はいい」
ビーチャムが遠慮する。
「食べるだけでいい」
「飲めないのか?」
「下戸ではないが、頭が働かなくなるのが嫌だ」
「無理強いはしないけど、少しぐらいはどうだ?」
大成は穏やかに勧めた。
「......まあ、いいだろう。少しだけな」
ビーチャムが折れると、大成は満面の笑みを浮かべた。
皿の料理が減っていき、大成の酒が進んでいく。
異世界に来て、初めてのウマイ酒だった。
やはり充実した仕事の後に接種するアルコールは最高だ。
「やっぱり仕事後の酒は最高だなぁー!」
「こうやって見ると、貴様も平凡な人間に思えるな」
「俺はごく普通の人間だよ。お前は天才かもしれないけど」
「魔法の泉もそうだが......メラパッチンの改良もごく普通の人間の発想なのか?」
大成はすぐには答えず、グラスの酒をぐーっと飲み干した。
「ぷはぁーっ!」
「いい飲みっぷりだな」
「ビーチャムのおかげだよ」
大成はにやりと微笑みかけた。
「なんのことだ?」
「改良版メラパッチンの発想だよ」
「僕が何かしたか?」
「俺のいた世界ではどうやって火を起こしていたかと聞いてきただろ?」
「それのことか」
「おかげで気づいたんだ。俺はメラパッチンを『火を起こすための魔導具』と考えて商品にして売ろうとした。それがメラパッチンを中途半端な商品にしてしまった原因だったんだ」
「どういうことなんだ?」
「俺がいた世界では、日常で火を起こすためにいくつかの方法があった」
大成は指を立てる。
「それはライターであったりチャッカマンであったりコンロであったりするんだが」
「すでに聞いて知っている」
「大事なのは、それぞれで用途が違うってことだ」
大成が着眼したのはここだった。
同じ火を起こすための道具(装置)でも、使用場面や目的によって使い分けていたということだ。
よくよく考えれば当たり前のことだった。
例えば、わざわざカスコンロで煙草の火をつける者はいないだろう。
ライターで湯を沸かす者もいないだろう。
「だから今回、俺はメラパッチンを炉に使用することに特化した物にしたんだ。それは俺がいた世界で言うところのコンロだ」
「そして貴様の思惑は見事に的中したというわけだな」
大成は親指を立ててニカッと笑った。
つられてビーチャムもフッと頬を緩めると、酒のグラスに一口だけ口をつけた。
その時だった。
「あっ」とビーチャムは急に何かを思い出す。
「ビーチャム?」
「そうだ。タイセーに伝えておかなければならないことがあった」
「なんだ?」
「貴様のプランでは、アプローチリストへの訪問販売を完了したらすぐに新たなメラパッチンを増産するということだったよな」
「予定通りもうほとんど在庫がなくなってしまったからな。またいつ先日の老夫婦のような反響があるとも限らない。というかそれはあって欲しい」
「明日から取りかかりたいよな」
「そのつもりだ」
「僕もそのつもりで準備していたのだが」
ビーチャムはそこまで言うと、いったん席を外し、デスクから何かを持って戻ってきた。
「これを読んでみろ」
「手紙?」
「バーさんからだ」
ビーチャムから受け取った手紙に、大成は視線を落とした。
「えっ」
思わず声が上がる。
そこへ「ちなみに」とビーチャムが言い添える。
「魔法の泉に貯めてある魔力の残りは、せいぜいあとメラパッチン一個分といったところだ」
「ま、マジか......」
大成は宙を見つめた。
研究所ではささやかな打ち上げが行われていた。
机には豊富な料理が並べられている。
すべて大成が料理した物だ。
「ビーチャム研究所らしからぬ豪華な食事だな」
大成が満足そうに言う。
「メラパッチンが売れてお金が入ったのもそうだが、頂き物も結構あるからな」
「肉は全部、あの老夫婦がくれたものか」
「正確に言うと肉屋の息子さんからだが。しかもあの人たち、息子さんの分も合わせてメラパッチンを買ってくれたからな。やっぱり反響営業は確度が高いな~」
「確度?」
「いや何でもない。さあビーチャム。酒飲んで肉食うぞ!」
大成はお酒をグラスに注いで、料理を取り分けた。
ちなみにグラスも食器も新調した物だ。
「僕は酒はいい」
ビーチャムが遠慮する。
「食べるだけでいい」
「飲めないのか?」
「下戸ではないが、頭が働かなくなるのが嫌だ」
「無理強いはしないけど、少しぐらいはどうだ?」
大成は穏やかに勧めた。
「......まあ、いいだろう。少しだけな」
ビーチャムが折れると、大成は満面の笑みを浮かべた。
皿の料理が減っていき、大成の酒が進んでいく。
異世界に来て、初めてのウマイ酒だった。
やはり充実した仕事の後に接種するアルコールは最高だ。
「やっぱり仕事後の酒は最高だなぁー!」
「こうやって見ると、貴様も平凡な人間に思えるな」
「俺はごく普通の人間だよ。お前は天才かもしれないけど」
「魔法の泉もそうだが......メラパッチンの改良もごく普通の人間の発想なのか?」
大成はすぐには答えず、グラスの酒をぐーっと飲み干した。
「ぷはぁーっ!」
「いい飲みっぷりだな」
「ビーチャムのおかげだよ」
大成はにやりと微笑みかけた。
「なんのことだ?」
「改良版メラパッチンの発想だよ」
「僕が何かしたか?」
「俺のいた世界ではどうやって火を起こしていたかと聞いてきただろ?」
「それのことか」
「おかげで気づいたんだ。俺はメラパッチンを『火を起こすための魔導具』と考えて商品にして売ろうとした。それがメラパッチンを中途半端な商品にしてしまった原因だったんだ」
「どういうことなんだ?」
「俺がいた世界では、日常で火を起こすためにいくつかの方法があった」
大成は指を立てる。
「それはライターであったりチャッカマンであったりコンロであったりするんだが」
「すでに聞いて知っている」
「大事なのは、それぞれで用途が違うってことだ」
大成が着眼したのはここだった。
同じ火を起こすための道具(装置)でも、使用場面や目的によって使い分けていたということだ。
よくよく考えれば当たり前のことだった。
例えば、わざわざカスコンロで煙草の火をつける者はいないだろう。
ライターで湯を沸かす者もいないだろう。
「だから今回、俺はメラパッチンを炉に使用することに特化した物にしたんだ。それは俺がいた世界で言うところのコンロだ」
「そして貴様の思惑は見事に的中したというわけだな」
大成は親指を立ててニカッと笑った。
つられてビーチャムもフッと頬を緩めると、酒のグラスに一口だけ口をつけた。
その時だった。
「あっ」とビーチャムは急に何かを思い出す。
「ビーチャム?」
「そうだ。タイセーに伝えておかなければならないことがあった」
「なんだ?」
「貴様のプランでは、アプローチリストへの訪問販売を完了したらすぐに新たなメラパッチンを増産するということだったよな」
「予定通りもうほとんど在庫がなくなってしまったからな。またいつ先日の老夫婦のような反響があるとも限らない。というかそれはあって欲しい」
「明日から取りかかりたいよな」
「そのつもりだ」
「僕もそのつもりで準備していたのだが」
ビーチャムはそこまで言うと、いったん席を外し、デスクから何かを持って戻ってきた。
「これを読んでみろ」
「手紙?」
「バーさんからだ」
ビーチャムから受け取った手紙に、大成は視線を落とした。
「えっ」
思わず声が上がる。
そこへ「ちなみに」とビーチャムが言い添える。
「魔法の泉に貯めてある魔力の残りは、せいぜいあとメラパッチン一個分といったところだ」
「ま、マジか......」
大成は宙を見つめた。
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