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ep41 反響
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ひと通りの訪問配布を終えた三日後だった。
研究所の彼らの元へ、思わぬ客が訪れる。
「メラパッチンでしたかな。余ってますか?」
それは訪問配布した中の一件の家庭の老夫婦だった。
大成のメモによると、彼らは「好意的なユーザー」。
だからといって今、特定のユーザーにだけ厚遇するのは今後のビジネスへの思わしくない影響が懸念される。
そう考えた大成は、質問に答える前に訊ねた。
「差し支えなければで構いませんが、理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
すると老夫婦は「あっ」となって申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「先にこちらから理由を言うべきでしたな。これは失礼しました」
老夫がはにかんで見せる。
「いえいえ。こちらこそ失礼しました」
大成も頬を掻きながらはにかんだ。
「本当に誠実な青年だな~君は」
「滅相もございません。いえ、ここは素直にありがとうございますと言うべきですね?」
と大成が返すと、どちらともなく三人は頬を緩ませ笑い合った。
その様子を後ろからひとり傍観者となって眺めていたビーチャムは、
「相変わらずこの男のコミュニケーション能力は非凡なものがある」
と感心しながらも半ば呆れていた。
雰囲気が一気に和やかなものになると、老夫婦から話し始める。
「いや実はね。息子が肉屋をやっているんだが」
「貴方たちからもらった〔メラパッチン〕を使って料理していたら、息子が言ってきたのよ。それはなんだって」
老夫人の説明によれば、肉屋を営んでいる老夫婦の息子が、改良版メラパッチンに強い興味を示したという。
できることなら店で使ってみたいと。
ただ、一家庭に一個限定で配っているのなら無理だよな、と息子は諦めていた。
そこで老夫婦が息子のために何とかならないかと、研究所までやって来たのが今日というわけだ。
「そういうことなんですね」
大成は肯定的な笑顔を見せるが、確認しておきたいことがあった。
「ところで、なんですが......改良版のメラパッチン。使い心地はどうですか?」
その質問に老夫婦は視線を交わし合い、満足そうに首を振った。
「前にもらった物よりも格段に使いやすくなっていてびっくりしたわ。火を起こすのってこんなに簡単なことだったのかとね。だって、魔導師でもないのにちょこっと詠唱するだけで点火するんだもの。まるで魔導師にでもなった気分だわ」
実に嬉しい感想だった。
しかもそれは、大成にとってよりも、ビーチャムにとって。
「そうか」
感慨深く息を洩らしたビーチャムは、大成から言われるでもなく自分からメラパッチンを持って老夫婦のもとへ歩み寄った。
「これを持っていけ」
「あ、ありがとう。いいのかい?」
「いいだろ?」
ビーチャムは大成に確認する。
答えは言うまでもなかった。
「もちろん。どうか差し上げてくれ」
「そういうことだ」
改めてビーチャムがメラパッチンを差し出すと、老夫婦は満面の笑みで受け取った。
「ありがとう。これで息子が喜ぶよ」
「感謝は僕よりもタイセーに言ってくれ」
照れ隠しなのか、ビーチャムは大成に振ってさっさと退がっていってしまった。
「だけどなんでなんだろうねぇ」
不意に老夫人が不思議そうな顔をした。
大成が「?」と目で訊ねると、夫が言った。
「なぜ彼がマッドサイエンティストなんて噂されていたんだろうとね。気難しそうではあるが、そんなことは魔導博士なら当たり前だろう。こうやって実際に彼の作った魔導具を使ってみて、彼自身にも会ってみればわかるはずなのに。少なくともわしらには、ビーチャム博士はただの生真面目な青年研究者に見えるよ」
大成の胸にじんわりと嬉しさが広がった。
どうやら状況は変化してきているようだ。
大成の計画は、一歩ずつではあるが確実に進んでいる。
そして『火の魔法石プロダクト』は、ここからが本番。
いよいよ本事業は、これから本格的な『お金を生む商売』へとフェーズを移行していくのである。
研究所の彼らの元へ、思わぬ客が訪れる。
「メラパッチンでしたかな。余ってますか?」
それは訪問配布した中の一件の家庭の老夫婦だった。
大成のメモによると、彼らは「好意的なユーザー」。
だからといって今、特定のユーザーにだけ厚遇するのは今後のビジネスへの思わしくない影響が懸念される。
そう考えた大成は、質問に答える前に訊ねた。
「差し支えなければで構いませんが、理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
すると老夫婦は「あっ」となって申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「先にこちらから理由を言うべきでしたな。これは失礼しました」
老夫がはにかんで見せる。
「いえいえ。こちらこそ失礼しました」
大成も頬を掻きながらはにかんだ。
「本当に誠実な青年だな~君は」
「滅相もございません。いえ、ここは素直にありがとうございますと言うべきですね?」
と大成が返すと、どちらともなく三人は頬を緩ませ笑い合った。
その様子を後ろからひとり傍観者となって眺めていたビーチャムは、
「相変わらずこの男のコミュニケーション能力は非凡なものがある」
と感心しながらも半ば呆れていた。
雰囲気が一気に和やかなものになると、老夫婦から話し始める。
「いや実はね。息子が肉屋をやっているんだが」
「貴方たちからもらった〔メラパッチン〕を使って料理していたら、息子が言ってきたのよ。それはなんだって」
老夫人の説明によれば、肉屋を営んでいる老夫婦の息子が、改良版メラパッチンに強い興味を示したという。
できることなら店で使ってみたいと。
ただ、一家庭に一個限定で配っているのなら無理だよな、と息子は諦めていた。
そこで老夫婦が息子のために何とかならないかと、研究所までやって来たのが今日というわけだ。
「そういうことなんですね」
大成は肯定的な笑顔を見せるが、確認しておきたいことがあった。
「ところで、なんですが......改良版のメラパッチン。使い心地はどうですか?」
その質問に老夫婦は視線を交わし合い、満足そうに首を振った。
「前にもらった物よりも格段に使いやすくなっていてびっくりしたわ。火を起こすのってこんなに簡単なことだったのかとね。だって、魔導師でもないのにちょこっと詠唱するだけで点火するんだもの。まるで魔導師にでもなった気分だわ」
実に嬉しい感想だった。
しかもそれは、大成にとってよりも、ビーチャムにとって。
「そうか」
感慨深く息を洩らしたビーチャムは、大成から言われるでもなく自分からメラパッチンを持って老夫婦のもとへ歩み寄った。
「これを持っていけ」
「あ、ありがとう。いいのかい?」
「いいだろ?」
ビーチャムは大成に確認する。
答えは言うまでもなかった。
「もちろん。どうか差し上げてくれ」
「そういうことだ」
改めてビーチャムがメラパッチンを差し出すと、老夫婦は満面の笑みで受け取った。
「ありがとう。これで息子が喜ぶよ」
「感謝は僕よりもタイセーに言ってくれ」
照れ隠しなのか、ビーチャムは大成に振ってさっさと退がっていってしまった。
「だけどなんでなんだろうねぇ」
不意に老夫人が不思議そうな顔をした。
大成が「?」と目で訊ねると、夫が言った。
「なぜ彼がマッドサイエンティストなんて噂されていたんだろうとね。気難しそうではあるが、そんなことは魔導博士なら当たり前だろう。こうやって実際に彼の作った魔導具を使ってみて、彼自身にも会ってみればわかるはずなのに。少なくともわしらには、ビーチャム博士はただの生真面目な青年研究者に見えるよ」
大成の胸にじんわりと嬉しさが広がった。
どうやら状況は変化してきているようだ。
大成の計画は、一歩ずつではあるが確実に進んでいる。
そして『火の魔法石プロダクト』は、ここからが本番。
いよいよ本事業は、これから本格的な『お金を生む商売』へとフェーズを移行していくのである。
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