38 / 49
ep38 段階
しおりを挟む
「で、どうやるんだい」
台所にある炉の前まで来て、中年主婦が大成たちに顔を向けた。
大成はこくっと頷いてから、炉の中へ手を伸ばし改良版メラパッチンを設置する。
「ここからはビーチャム博士。お願いします」
大成は笑顔でビーチャムに振った。
ビーチャムはおもむろにポケットからメモ紙を取り出すと、中年主婦へ手渡す。
「何か書いてあるねぇ?」
「それは詠唱文だ。改良版メラパッチンに向かって手をかざし、その文言を読み上げれば発火する」
「なるほどね。あれ、でも一箇所、空白になっているが、ここはなんだい」
中年主婦が該当箇所を指さす。
彼女の指摘したとおり、確かに文章の中には歯抜けになっている箇所があった。
「そこは自分の名前を言ってくれ」
ビーチャムの回答に、中年主婦は首を傾げる。
「今度のは、自分の名前を言わないといけないのかい」
「そうだ。なぜなら一度その者の名前で詠唱して使用すれば、それ以降はその者でしか発動できなくなるようにしてある」
中年主婦は再び首を傾げるが、ややあってから閃いた顔をした。
どうやら意味を理解したようだ。
「さっきあんたらが言っていた安全性って、ひょっとして......」
「そういうことです」
大成が安心感抜群の声で返事をした。
「なるほど。それは確かによくできてる。それなら子どもがいても安心して使えるねぇ」
中年主婦の今日イチの肯定的な反応に、大成とビーチャムは「よし」と頷き合った。
そして中年主婦は、ビーチャムの説明どおりに改良版メラパッチンへ向かって手をかざし、メモを見ながら始めた。
一件目の訪問を無事成功させた大成たちは、次の訪問先へ向かっていた。
良く晴れた日の心地よい風は、ふたりの足取りを軽くさせる。
「おい、タイセー」
二件目の家の前まで来た時、不意にビーチャムが大成に呼びかけた。
どうしても確認しておきたいことがあったからだ。
「今回も、本当に無料でいいのか?」
「それはもう説明しただろ?」
「だからこそ意図的に使用回数を減らした、というのもわかるが......」
「本当の勝負はこれからだからな。それに、さっきの主婦の反応を見て、これはますますイケる気がしている。もちろん過信も油断する気もないが」
大成は確かな自信を滲ませた。
かといって冷静さも失っていない。
そんな顔だ。
「商売というからには、とにかく売って売って金を取っていくと思っていたが、タイセーのやる商売は些か様相が異なるのだな」
「何事にも段階があるからな。今はその段階じゃないってことだ。もちろん事業にも人間と同じで体力ってもんがある。だからゆっくりはしていられない。焦って正常な判断ができなくなるのはもってのほかだが、ある程度の速度で進んでいかなければならない」
大成の目の奥に鋭い光が射した。
太陽の光が反射したわけではない。
彼の内から来るモノだ。
「どうやらつまらない事を言って腰を折ってしまったようだな」
ビーチャムはふっと苦笑する。
「そんなことはないさ。気がついたことがあったらいつでも忌憚ない意見を言ってくれ」
大成は穏やかに笑って返すと、二件目の家のドアへ向かって足を踏み出した。
台所にある炉の前まで来て、中年主婦が大成たちに顔を向けた。
大成はこくっと頷いてから、炉の中へ手を伸ばし改良版メラパッチンを設置する。
「ここからはビーチャム博士。お願いします」
大成は笑顔でビーチャムに振った。
ビーチャムはおもむろにポケットからメモ紙を取り出すと、中年主婦へ手渡す。
「何か書いてあるねぇ?」
「それは詠唱文だ。改良版メラパッチンに向かって手をかざし、その文言を読み上げれば発火する」
「なるほどね。あれ、でも一箇所、空白になっているが、ここはなんだい」
中年主婦が該当箇所を指さす。
彼女の指摘したとおり、確かに文章の中には歯抜けになっている箇所があった。
「そこは自分の名前を言ってくれ」
ビーチャムの回答に、中年主婦は首を傾げる。
「今度のは、自分の名前を言わないといけないのかい」
「そうだ。なぜなら一度その者の名前で詠唱して使用すれば、それ以降はその者でしか発動できなくなるようにしてある」
中年主婦は再び首を傾げるが、ややあってから閃いた顔をした。
どうやら意味を理解したようだ。
「さっきあんたらが言っていた安全性って、ひょっとして......」
「そういうことです」
大成が安心感抜群の声で返事をした。
「なるほど。それは確かによくできてる。それなら子どもがいても安心して使えるねぇ」
中年主婦の今日イチの肯定的な反応に、大成とビーチャムは「よし」と頷き合った。
そして中年主婦は、ビーチャムの説明どおりに改良版メラパッチンへ向かって手をかざし、メモを見ながら始めた。
一件目の訪問を無事成功させた大成たちは、次の訪問先へ向かっていた。
良く晴れた日の心地よい風は、ふたりの足取りを軽くさせる。
「おい、タイセー」
二件目の家の前まで来た時、不意にビーチャムが大成に呼びかけた。
どうしても確認しておきたいことがあったからだ。
「今回も、本当に無料でいいのか?」
「それはもう説明しただろ?」
「だからこそ意図的に使用回数を減らした、というのもわかるが......」
「本当の勝負はこれからだからな。それに、さっきの主婦の反応を見て、これはますますイケる気がしている。もちろん過信も油断する気もないが」
大成は確かな自信を滲ませた。
かといって冷静さも失っていない。
そんな顔だ。
「商売というからには、とにかく売って売って金を取っていくと思っていたが、タイセーのやる商売は些か様相が異なるのだな」
「何事にも段階があるからな。今はその段階じゃないってことだ。もちろん事業にも人間と同じで体力ってもんがある。だからゆっくりはしていられない。焦って正常な判断ができなくなるのはもってのほかだが、ある程度の速度で進んでいかなければならない」
大成の目の奥に鋭い光が射した。
太陽の光が反射したわけではない。
彼の内から来るモノだ。
「どうやらつまらない事を言って腰を折ってしまったようだな」
ビーチャムはふっと苦笑する。
「そんなことはないさ。気がついたことがあったらいつでも忌憚ない意見を言ってくれ」
大成は穏やかに笑って返すと、二件目の家のドアへ向かって足を踏み出した。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる