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ep33 改善
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ひと通りの再訪を終えて研究所に戻った大成は、頂戴したご意見ご感想を整理してピックアップしていた。
「言い方はそれぞれだけど、意味としては結局どれも同じような意見だな。やっぱり一番の問題は、炉からいちいち取り出さなければならないってことか......」
もちろん他の意見もあった。
「放り投げてから唱える」じゃないとダメなのか、というものだ。
ただしこれは、ビーチャムが安全性を考えて設計したものなので仕方がないと言える。
手に持ったまま「イグニス」と唱えて火傷してしまうことは十二分にありうる。
子どもが間違って手に取ってしまった時などは尚更だ。
「なあビーチャム」
不意に大成は、デスクに向かっているビーチャムの背中に呼びかけた。
「なんだ」
ビーチャムは背を向けたまま返事をする。
「メラパッチンなんだけどさ。例えば一個で百回火を起こせるように設計し直すことってできるのか?」
「一個で百回?」
「百回とは言わないまでも五十回とかさ」と言いながら大成は即座に気づく。
そこじゃないだろ。
問題なのはいちいち取り出さないと繰り返し使えないということ。
「いや、今のナシだ。忘れてくれ」
早々に大成が引き下がると、ビーチャムがぐるっと振り返ってきた。
「一個で百回火を起こすようにすることは可能だ」
「いや、それはもういいんだ」
「ただし、そのためには今の小石では強度が足りない。魔法と魔力に耐えられないからな」
「あ、うん」
「それこそ妖精の泉の洞窟の石なら、百回どころか千回、いや、一万回以上の使用に耐えられる魔法石も作れるかもしれんな」
大成は戸惑っていた。
自分の浅慮で無意味な質問にビーチャムが丁寧に答えるものだから。
俄かに申し訳ない気さえしてくる。
そんな時だった。
「タイセーがいた世界では、日常生活で火を起こす時はどうやっているんだ?」
唐突な質問だった。
ビーチャムは大成をじっと見つめている。
「俺がいた世界では......」
大成は何を考えるでもなく何気なく答える。
「ライターとかマッチとかチャッカマンとか色々あったなぁ。料理の時はコンロ......」
ここまで喋って急に彼の言葉が止まった。
「どうした?」
「そ、そうか。そういうことか!」
跳び上がるように大成が立ち上がった。
「何かわかったのか?」
「ビーチャム。メラパッチンの使用方法って、放り投げて唱える、だよな?」
覇気を取り戻した大成の顔を見て、ビーチャムは微かにフッと微笑する。
「そうだが、その先の質問はなんだ?」
「放り投げるという動作を必要としているのは、安全性を考えてのことだよな?」
「省くこともできるぞ」
質問の意図を読んでビーチャムは先回りの回答を寄越した。
大成はこくっと頷き、いよいよここからといった目つきをする。
「じゃあ例えばさ。放り投げる動作は最初の一回だけ必要で、二回目以降は唱えるだけで使えるようにはできないかな?」
ビーチャムは顎に手を当てて「なるほど」とつぶやく。
「どうだ?」
大成が返答を迫ると、ビーチャムは一言で答えた。
「できる。何なら詠唱式にすることもできるぞ」
「そ、そんなこともできるのか。となると、そもそも動作自体......いや、とにかくさっそくやるぞ!」
「待て。変更点はそこだけなのか?」
「もちろんそこだけじゃない」
大成はニヤっとする。
「だろうな」
「俺は無意識のうちに色んなことに囚われ過ぎていたみたいだ。異世界なのにな。いや、異世界だからなのか」
「ふん。勢いを取り戻したみたいだな」
「勢いは大事だからな」
すでに普段の就寝時間を過ぎていたが、大成の顔には眠気の欠片も見えなかった。
この日の夜から数日間。
二人は研究所にこもった。
「改良版メラパッチン」の開発のために。
「言い方はそれぞれだけど、意味としては結局どれも同じような意見だな。やっぱり一番の問題は、炉からいちいち取り出さなければならないってことか......」
もちろん他の意見もあった。
「放り投げてから唱える」じゃないとダメなのか、というものだ。
ただしこれは、ビーチャムが安全性を考えて設計したものなので仕方がないと言える。
手に持ったまま「イグニス」と唱えて火傷してしまうことは十二分にありうる。
子どもが間違って手に取ってしまった時などは尚更だ。
「なあビーチャム」
不意に大成は、デスクに向かっているビーチャムの背中に呼びかけた。
「なんだ」
ビーチャムは背を向けたまま返事をする。
「メラパッチンなんだけどさ。例えば一個で百回火を起こせるように設計し直すことってできるのか?」
「一個で百回?」
「百回とは言わないまでも五十回とかさ」と言いながら大成は即座に気づく。
そこじゃないだろ。
問題なのはいちいち取り出さないと繰り返し使えないということ。
「いや、今のナシだ。忘れてくれ」
早々に大成が引き下がると、ビーチャムがぐるっと振り返ってきた。
「一個で百回火を起こすようにすることは可能だ」
「いや、それはもういいんだ」
「ただし、そのためには今の小石では強度が足りない。魔法と魔力に耐えられないからな」
「あ、うん」
「それこそ妖精の泉の洞窟の石なら、百回どころか千回、いや、一万回以上の使用に耐えられる魔法石も作れるかもしれんな」
大成は戸惑っていた。
自分の浅慮で無意味な質問にビーチャムが丁寧に答えるものだから。
俄かに申し訳ない気さえしてくる。
そんな時だった。
「タイセーがいた世界では、日常生活で火を起こす時はどうやっているんだ?」
唐突な質問だった。
ビーチャムは大成をじっと見つめている。
「俺がいた世界では......」
大成は何を考えるでもなく何気なく答える。
「ライターとかマッチとかチャッカマンとか色々あったなぁ。料理の時はコンロ......」
ここまで喋って急に彼の言葉が止まった。
「どうした?」
「そ、そうか。そういうことか!」
跳び上がるように大成が立ち上がった。
「何かわかったのか?」
「ビーチャム。メラパッチンの使用方法って、放り投げて唱える、だよな?」
覇気を取り戻した大成の顔を見て、ビーチャムは微かにフッと微笑する。
「そうだが、その先の質問はなんだ?」
「放り投げるという動作を必要としているのは、安全性を考えてのことだよな?」
「省くこともできるぞ」
質問の意図を読んでビーチャムは先回りの回答を寄越した。
大成はこくっと頷き、いよいよここからといった目つきをする。
「じゃあ例えばさ。放り投げる動作は最初の一回だけ必要で、二回目以降は唱えるだけで使えるようにはできないかな?」
ビーチャムは顎に手を当てて「なるほど」とつぶやく。
「どうだ?」
大成が返答を迫ると、ビーチャムは一言で答えた。
「できる。何なら詠唱式にすることもできるぞ」
「そ、そんなこともできるのか。となると、そもそも動作自体......いや、とにかくさっそくやるぞ!」
「待て。変更点はそこだけなのか?」
「もちろんそこだけじゃない」
大成はニヤっとする。
「だろうな」
「俺は無意識のうちに色んなことに囚われ過ぎていたみたいだ。異世界なのにな。いや、異世界だからなのか」
「ふん。勢いを取り戻したみたいだな」
「勢いは大事だからな」
すでに普段の就寝時間を過ぎていたが、大成の顔には眠気の欠片も見えなかった。
この日の夜から数日間。
二人は研究所にこもった。
「改良版メラパッチン」の開発のために。
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