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ep29 新規営業
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訪問一件目を無事成功させた大成は、再びリアカーを引き始めた。
隣を歩くビーチャムは半ば呆然としていた。
「まさか他人の家に上がって実際に使ってみせるとは......」
「効率は下がるけど仕方ない。マイナスイメージからスタートしているからというのもあるけど、配って終わりってわけでもないし」
「三日後に再訪するんだよな?」
「ああ。しっかりフィードバックをいただかないとだからな。そして問題なければ、次の段階に移行する」
「ところでタイセー」
「なんだ?」
「さっきの松明に火をつけた実演。練習したのか?」
「ああ。こっそりね」
「あういうことは事前に伝えておいてもらわないと困るぞ」
「事前に伝えたら同行してくれないだろ?」
ニヤリとする大成。
図星だったビーチャムは答えられず、代わりに気になっていた質問を返した。
「......いつまで僕もついていかなければならないんだ?」
「うーん。まあ、雰囲気で?」
大成は悪戯っぽく笑った。
「曖昧だな......」
ビーチャムは不思議に思っていた。
いつもの自分であればこんなことに付き合うはずはないのに、気がつけば大成のペースに飲まれてしまっている。
何より、そんな自分を受け入れてしまっている自分がいる。
わからない。
大成の人間性がそうさせるのだろうか。
「......本当に変な男だな」
「ん?」
「なんでもない」
空は相変わらず晴れ渡っている。
まだ何を成し得たわけではない。
状況が一変したわけでもない。
苦境であるのは相変わらずだ。
しかし、陽射しを浴びる大成の顔は、仕事をできる喜びに輝いていた。
想定していたよりも時間がかかり、リアカーにごっそり積んだ〔メラパッチン〕は、一日では配りきれなかった。
つまり、訪問数=目標行動数は達成できなかった。
とはいえ訪問数に対する配布成功数=CV率は素晴らしいものとなったので、結果としては上々と評価できるだろう。
「明日はもっと効率良くまわらないとな」
研究所で夕飯を食べながら大成が呟く。
久しぶりにパンの耳以外のマトモな食事だ。
いくつかのご家庭から、パチパッチンの無料提供のお返しにいただいたものだった。
「まさか食料をもらえるとはな」
感心とも呆れとも取れる表情でビーチャムは大成を見た。
「訪問した中には門前払いを喰らった所もあった。門前払いまではいかなくても、明からさまに嫌な態度を取られることもあった」
「それがどうした?」
大成はパクパクと食事をほうばっている。
「嫌にならないのか?」
「なんで?」
「なぜって、普通は途中で心が折れたりするものではないのか?」
「ビーチャムは、誰かに何か言われたぐらいで自分の研究を諦めるのか?」
「そんなわけあるか。その程度のものならすでに魔導博士など辞めている」
「それと一緒だよ」
「一緒ではないと思うが......」
大成は食事の手を止めた。
「新規営業ってさ。断られるのが当たり前っていうか、むしろそこからがスタートだと思うんだよ。でもそれって、当然のことなんだよな。逆の立場に立って考えてみればわかるけど、いきなり見ず知らずの人間が営業に来て貴方は感じ良く受け入れるんですか?そう訊かれたら、そんなのムリムリって答えるよな。かくいう俺だって無理だし。みんな使えるお金も限られていれば暇でもないんだ。ましてや知らない人間に対する不信感や警戒感もある」
「しかし、タイセーはうまいことやっていたよな」
「それをやるのが営業だよ。そしてその営業から商売はスタートするんだ。まあ本当はもっと色々な施策もあるんだけど、今の俺たちの状況でできることは極めて限られているからな。もしビーチャムの方で何か良いアイディアがあったらいつでも言ってくれ」
大成は再び食事の手を動かし始めた。
ビーチャムは実に興味深く思った。
徳富大成という男とその能力を。
隣を歩くビーチャムは半ば呆然としていた。
「まさか他人の家に上がって実際に使ってみせるとは......」
「効率は下がるけど仕方ない。マイナスイメージからスタートしているからというのもあるけど、配って終わりってわけでもないし」
「三日後に再訪するんだよな?」
「ああ。しっかりフィードバックをいただかないとだからな。そして問題なければ、次の段階に移行する」
「ところでタイセー」
「なんだ?」
「さっきの松明に火をつけた実演。練習したのか?」
「ああ。こっそりね」
「あういうことは事前に伝えておいてもらわないと困るぞ」
「事前に伝えたら同行してくれないだろ?」
ニヤリとする大成。
図星だったビーチャムは答えられず、代わりに気になっていた質問を返した。
「......いつまで僕もついていかなければならないんだ?」
「うーん。まあ、雰囲気で?」
大成は悪戯っぽく笑った。
「曖昧だな......」
ビーチャムは不思議に思っていた。
いつもの自分であればこんなことに付き合うはずはないのに、気がつけば大成のペースに飲まれてしまっている。
何より、そんな自分を受け入れてしまっている自分がいる。
わからない。
大成の人間性がそうさせるのだろうか。
「......本当に変な男だな」
「ん?」
「なんでもない」
空は相変わらず晴れ渡っている。
まだ何を成し得たわけではない。
状況が一変したわけでもない。
苦境であるのは相変わらずだ。
しかし、陽射しを浴びる大成の顔は、仕事をできる喜びに輝いていた。
想定していたよりも時間がかかり、リアカーにごっそり積んだ〔メラパッチン〕は、一日では配りきれなかった。
つまり、訪問数=目標行動数は達成できなかった。
とはいえ訪問数に対する配布成功数=CV率は素晴らしいものとなったので、結果としては上々と評価できるだろう。
「明日はもっと効率良くまわらないとな」
研究所で夕飯を食べながら大成が呟く。
久しぶりにパンの耳以外のマトモな食事だ。
いくつかのご家庭から、パチパッチンの無料提供のお返しにいただいたものだった。
「まさか食料をもらえるとはな」
感心とも呆れとも取れる表情でビーチャムは大成を見た。
「訪問した中には門前払いを喰らった所もあった。門前払いまではいかなくても、明からさまに嫌な態度を取られることもあった」
「それがどうした?」
大成はパクパクと食事をほうばっている。
「嫌にならないのか?」
「なんで?」
「なぜって、普通は途中で心が折れたりするものではないのか?」
「ビーチャムは、誰かに何か言われたぐらいで自分の研究を諦めるのか?」
「そんなわけあるか。その程度のものならすでに魔導博士など辞めている」
「それと一緒だよ」
「一緒ではないと思うが......」
大成は食事の手を止めた。
「新規営業ってさ。断られるのが当たり前っていうか、むしろそこからがスタートだと思うんだよ。でもそれって、当然のことなんだよな。逆の立場に立って考えてみればわかるけど、いきなり見ず知らずの人間が営業に来て貴方は感じ良く受け入れるんですか?そう訊かれたら、そんなのムリムリって答えるよな。かくいう俺だって無理だし。みんな使えるお金も限られていれば暇でもないんだ。ましてや知らない人間に対する不信感や警戒感もある」
「しかし、タイセーはうまいことやっていたよな」
「それをやるのが営業だよ。そしてその営業から商売はスタートするんだ。まあ本当はもっと色々な施策もあるんだけど、今の俺たちの状況でできることは極めて限られているからな。もしビーチャムの方で何か良いアイディアがあったらいつでも言ってくれ」
大成は再び食事の手を動かし始めた。
ビーチャムは実に興味深く思った。
徳富大成という男とその能力を。
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