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ep23 町
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企画会議の翌日。
夕闇が辺りを包み始めた頃、大成がリアカーを引いて戻ってきた。
「もっとイケると思ったけど、この作業、結構ダルいかも。川辺、地味に遠いし......」
大成は研究所の前でへたり込んだ。
「戻ってきたか」
玄関から出てきたビーチャムが大成に手を貸した。
「どうだ。結構作れたか」
「おかげさまでな」
二人は作業を分担していた。
大成が川辺から研究所に石を運んできて、それをビーチャムが火の魔法石にする。
「取り急ぎ、これだけ石があれば当面は何とかなるだろう」
中へ入るなり、大成は崩れるように椅子に腰掛けた。
ビーチャムが水を入れたグラスを差し出した。
「ありがと。ごく、ごく、ごく......」
「それで僕は残りの石をすべて火の魔法石に変えてから、魔力注入用魔導具を完成させる。それでいいんだよな?」
「ああ。頼む」
「次にバーさんが来るまでにできれば完璧だが...」
「仮にその時には完成しなくてもとりあえず火の魔法石に魔力注入してもらうことはできるから、計画自体は止まらないで済む」
「タイセーは僕に付いて魔力注入用魔導具の開発を手伝うのか?」
「いや、俺はまた別のことをする」
「助手なのにか?」
「それは...」
「冗談だ。魔力注入用魔導具については僕ひとりで充分だ」
大成はやや驚く。
「ビーチャムも、冗談を言うんだな」
「当たり前だ。いったい僕のことを何だと思っている」
「マッドサイエンティスト?」
「なっ」
「冗談だよ冗談」
「いやいい。実際そう囁かれているしな」
「誰がそんなこと噂しだしたんだろうな」
「どうだろうな」
そう言うビーチャムの表情は憂いを帯びていて、どこか含みがあった。
これ以上掘り下げない方が良いな......と思った大成は、すぐに話を戻した。
「明日から俺は、町にくり出そうと思う」
「何をする気だ?」
「市場調査だ」
言葉通り、翌日になると大成は朝から町の中心地へ繰り出していた。
パンの耳ラスクで何とか日々の空腹を凌いでいたが、いつまでも続くわけがない。
近いうちに備蓄は必ず尽きるし、パンの耳だけも流石にキツい。
「急がないとな......」と言いつつ、大成は様々なお店を見てまわる。
「ただ動くだけでもダメで、考えるばかりで動かないもダメ。動きながら考え、考えながら動く。こんな時だからこそ、原則を大事にしないと」
忙しなく歩き回りながら呟いたその言葉は、大成の師匠にあたる会社員時代の社長から教えてもらったことだ。
ビジネスのイロハは、創業社長の彼から学んだと言っていい。
部下として働きながら彼から聞いた様々な話は、大成の血肉となっていた。
「社長も、起業したばっかりのころは本当に大変だったって言ってたよなぁ」
まさに大成も今「大変な時期」に違いない。
しかし逆境にもかかわらず大成は燃えていた。
異世界に来てから完全に停滞してしまっていた人生の時間が、やっと動き始めたんだ。
発散できずに燻っていた情熱が解放され、大成の身体から疲れを忘れさせた。
「よし。次はあっちを見るぞ。その後はあっちだ」
大成の市場調査は凄まじい勢いで進んでいった。
現在、大成たちが居る〔クオリーメン〕は、実はかなり大きな町で人口も多い。
まだ復興途中ではあったが、行く所に行けば雑然と軒を連ねた店があり、繁華街もあった。
ここ最近では市場も再開したようで、他の街からやって来る商人も少なくなかった。
「思っていたより、栄えてたんだな......」
三ヶ月間、過酷な肉体労働漬けで町の中心街まで出向くことなど皆無だった大成には新鮮な光景だった。
「外国の田舎だけど賑やかな町」にでも来たようで、気分も高揚した。
「金があったらもっと楽しめたんだろうけど......でも、おかげで色々とわかったぞ」
やがて大成は公園を見つけて入ると、適当なベンチに腰かけた。
空はすでに赤みを帯び始めている。
大成はポケットから小さいメモ帳を取り出し、今のうちにと調査結果をまとめ始めた。
夕闇が辺りを包み始めた頃、大成がリアカーを引いて戻ってきた。
「もっとイケると思ったけど、この作業、結構ダルいかも。川辺、地味に遠いし......」
大成は研究所の前でへたり込んだ。
「戻ってきたか」
玄関から出てきたビーチャムが大成に手を貸した。
「どうだ。結構作れたか」
「おかげさまでな」
二人は作業を分担していた。
大成が川辺から研究所に石を運んできて、それをビーチャムが火の魔法石にする。
「取り急ぎ、これだけ石があれば当面は何とかなるだろう」
中へ入るなり、大成は崩れるように椅子に腰掛けた。
ビーチャムが水を入れたグラスを差し出した。
「ありがと。ごく、ごく、ごく......」
「それで僕は残りの石をすべて火の魔法石に変えてから、魔力注入用魔導具を完成させる。それでいいんだよな?」
「ああ。頼む」
「次にバーさんが来るまでにできれば完璧だが...」
「仮にその時には完成しなくてもとりあえず火の魔法石に魔力注入してもらうことはできるから、計画自体は止まらないで済む」
「タイセーは僕に付いて魔力注入用魔導具の開発を手伝うのか?」
「いや、俺はまた別のことをする」
「助手なのにか?」
「それは...」
「冗談だ。魔力注入用魔導具については僕ひとりで充分だ」
大成はやや驚く。
「ビーチャムも、冗談を言うんだな」
「当たり前だ。いったい僕のことを何だと思っている」
「マッドサイエンティスト?」
「なっ」
「冗談だよ冗談」
「いやいい。実際そう囁かれているしな」
「誰がそんなこと噂しだしたんだろうな」
「どうだろうな」
そう言うビーチャムの表情は憂いを帯びていて、どこか含みがあった。
これ以上掘り下げない方が良いな......と思った大成は、すぐに話を戻した。
「明日から俺は、町にくり出そうと思う」
「何をする気だ?」
「市場調査だ」
言葉通り、翌日になると大成は朝から町の中心地へ繰り出していた。
パンの耳ラスクで何とか日々の空腹を凌いでいたが、いつまでも続くわけがない。
近いうちに備蓄は必ず尽きるし、パンの耳だけも流石にキツい。
「急がないとな......」と言いつつ、大成は様々なお店を見てまわる。
「ただ動くだけでもダメで、考えるばかりで動かないもダメ。動きながら考え、考えながら動く。こんな時だからこそ、原則を大事にしないと」
忙しなく歩き回りながら呟いたその言葉は、大成の師匠にあたる会社員時代の社長から教えてもらったことだ。
ビジネスのイロハは、創業社長の彼から学んだと言っていい。
部下として働きながら彼から聞いた様々な話は、大成の血肉となっていた。
「社長も、起業したばっかりのころは本当に大変だったって言ってたよなぁ」
まさに大成も今「大変な時期」に違いない。
しかし逆境にもかかわらず大成は燃えていた。
異世界に来てから完全に停滞してしまっていた人生の時間が、やっと動き始めたんだ。
発散できずに燻っていた情熱が解放され、大成の身体から疲れを忘れさせた。
「よし。次はあっちを見るぞ。その後はあっちだ」
大成の市場調査は凄まじい勢いで進んでいった。
現在、大成たちが居る〔クオリーメン〕は、実はかなり大きな町で人口も多い。
まだ復興途中ではあったが、行く所に行けば雑然と軒を連ねた店があり、繁華街もあった。
ここ最近では市場も再開したようで、他の街からやって来る商人も少なくなかった。
「思っていたより、栄えてたんだな......」
三ヶ月間、過酷な肉体労働漬けで町の中心街まで出向くことなど皆無だった大成には新鮮な光景だった。
「外国の田舎だけど賑やかな町」にでも来たようで、気分も高揚した。
「金があったらもっと楽しめたんだろうけど......でも、おかげで色々とわかったぞ」
やがて大成は公園を見つけて入ると、適当なベンチに腰かけた。
空はすでに赤みを帯び始めている。
大成はポケットから小さいメモ帳を取り出し、今のうちにと調査結果をまとめ始めた。
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