異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ!

根上真気

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ep12 研究

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「俺を引き抜いたってことなのか?」

「そういうことになるな」

 研究所への道すがらビーチャムはしれっと言う。
 果たしてそんな簡単にいくものなのだろうか。
 無罪無実とはいえ元収監者だし、この世界でも必要な手続きというものはあるだろう。

「金貨一枚渡したら余計な手続きもなくあっさり承諾してくれたぞ」

「えっ」

「気にするな。そのかわり、貴様にはしっかりと働いてもらう」

 研究所に着くと、ビーチャムから生活についての簡単な説明がなされた。
 書庫として使われていた小さい倉庫のような一室が、大成の寝室に当てがわれた。
 ほこりだらけの小汚い部屋の端には一応ベッドもある。
 かつてほんの一時期だけいたビーチャムの助手が使っていたらしい。

「宿舎と良い勝負だな。個室なだけこっちの方がマシ......と思うしかないか......」

 とりあえずオンボロベッドに腰を下ろしてみる。
 案の定、ギィ~ッというきしみ音が鳴った。
 
「トクトミタイセー。すぐに第一研究室に来い。話がある」

 休む暇もなかった。
 第一研究室というのは、初回訪問のときに通された部屋だ。
 ただ単に一番入口に近い部屋を第一研究室と名付けているだけなのだが。
 ちなみに大成の寝室は第二資料室。

「それで話って、これからのことか?」

 昨日と同じボロ椅子に腰掛けるなり、自分から切り出した。
 ビーチャムは自らにだけれたコーヒーを一口すすってから、例の手の平サイズの物体を大成に手渡す。

「それが何かはもうわかっているよな」
 
「これは、新型魔導装置」

「そう。未来の汎用型魔導具だ。ところで、僕と最初に出会った夜のことは覚えているか?」

「町の外の林の中のことだよな。覚えているよ。これの実験をやってたんだろ」

「そうだ。では具体的に何をやろうとしていたか。その詳細をまだ話してはいなかったよな」

「昨日、訊くつもりだったんだけど、軍関係者に疑われてそこから今度は俺が元いた世界の話になっちゃったりで、訊けないままだった」

「トクトミタイセー。貴様はリスクを取って、あの荒唐無稽とも思える話を僕にした。違うか?」

 ビーチャムは真っ直ぐ相手を見据えた。

「貴様をここに連れてきたからには、僕も自らの研究について包み隠さず話そう」

「あ、ああ。そうしてくれると、助かるな」

 よし。と心に中で呟く。
 望ましい展開。
 だが大成は、内心喜ぶと同時にやや面食らってもいた。
 ビーチャムはもっと捻くれた奴だと思っていたから。
 それが彼の心の誠実さから来るのか、単に自分の研究のための手段としてやっているのか。
 それはわからない。
 ただ、いずれにしても一定の信用は勝ち取ったと言える。

「では説明する。僕がわざわざ町の外の林の中で実験していたのには理由がある」

 ビーチャムはおもむろにデスクの引き出しを開けて、同じ物...新型魔導装置を出した。

「これを使って林の中で発動した魔法効果を、遠隔で起こせないかという実験だ」

「遠隔?つまり、これを使って外から研究室に置いてある新型魔導装置を発動できないかってことか?」

「ふん。やはり貴様は理解が早いな」

「でも、なんでわざわざ町の外の林の中なんだ?」

「すでに別のいくつかの場所での実験は成功している。だが、あの林の中での実験はどうしてもうまくいかないのだ」

「距離と障害物......」

「僕の計算では、あの林の中での実験が成功すれば、魔導具として実用的なレベルにまで持っていくことは高い確率で可能だ。しかし...」

「あの林での実験が成功しない限り実用化は難しい」

「そうだ。試行錯誤を繰り返しているが、林での実験がどうしてもうまくいかないのだ」

 ビーチャムが徳富大成をビシッと指差した。

「そんな時だ」

「俺が現れた、と」

「貴様の話には、魔導研究を大きく飛躍させるヒントがあると僕は考える」

「なるほど。俺の知識があんたの研究を助けることになるというわけか」

「貴様も貴様であの労働から解放されたんだ。悪くはないだろう」

 その通りだった。
 ここでビーチャムの研究を手伝いながら暮らすのは、今日までの過酷な労働の日々に比べたら遥かにマシだ。
 ただ、大成が求めるものは、さらにその先にある。
 ここでほっと一息をついているようでは、いつまで経っても目的を達成することはできない。
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