11 / 69
ep11 失業
しおりを挟む
「......ちょっと一人で考えたい。今日はもう帰ってくれ」
ひとしきり話し終えた後、ビーチャムに言われた。
大成は素直に引き下がり、別に戻りたくもない貧乏宿舎へ帰っていった。
「いきなり、俺は火星から来た火星人だ、と言われたようなもんだよな」
小汚い布団に寝転がってから、ため息混じりに呟いた。
果たしてビーチャムは、どう思っただろうか。
興味津々に聞いていたとは思う。
ただ、そもそもなことがあった。
「なんであの男に、あそこまで話してしまったのだろう......」
今更ながら省みる。
元々は王都で高名な魔導博士だった......というのも、真実かどうかはわからない。
たとえ真実だとしても、信用に値する人間かどうかはさらにわからない。
「ヤバい。完全に直感で行動してしまった......」
たまらなく不安になってくる。
それでも現実は残酷で、また明日も過酷な労働の一日が待っている。
気がつけば、どろりと眠りに落ちていた......。
翌日。
いつものように肉体労働に汗を流している大成へ、思わぬ報せが届いた。
人事勧告だ。
「明日からはもう来なくていい?」
「そうだ。今日中に宿舎から荷物まとめてとっとと出ていきな」
労働者用の貧乏宿舎を出たところで、少ない荷物を抱えたまま呆然とした。
逃げたいと思っていた。
実際逃げようともした。
けど、まさか追い出されるような形になるとは思いもしなかった。
いずれにしても、ついに過酷な肉体労働の日々からは解放されたわけだ。
「良かった......のか?まだ何の準備もできてないぞ?ぶっちゃけ、行くあてないぞ......」
例えるなら、借金を抱えたまま家賃も払えていない状況で転職先も決まっていないのに仕事を辞めたようなもの。
嫁がいたらブッ飛ばされるか愛想つかせて逃げられるかのどちらかだろう。
このままでは、すぐに生き倒れるかもしれない。
「ど、どうする......」
「おい」
「......」
「おい!」
「えっ?」
「え、じゃない!僕だ!」
ハッとして大成は我に返り、目をパチクリさせる。
誰かが目の前に立っている。
背の低い、銀髪の、白衣を着た男。
「ビーチャム!?」
「他に誰がいるんだ?一晩で阿保になってしまったのか?」
「え、ええと、何でここに?お、俺に用?」
「僕が貴様を安全にこの町から逃してやると約束したことを忘れたのか?」
「もちろん覚えているけど。あっ!俺が仕事をクビになったのって...」
「先に言っておく。貴様を町から逃してやることはしない」
「は?」
「そこで代替案がある」
「な、なんだ?」
「いいか、よく聞け。明日からは僕が貴様の雇い主だ」
「えっ......えええ??」
「ということで、研究所に帰るぞ」
大成の転職先が決まった。
ひとしきり話し終えた後、ビーチャムに言われた。
大成は素直に引き下がり、別に戻りたくもない貧乏宿舎へ帰っていった。
「いきなり、俺は火星から来た火星人だ、と言われたようなもんだよな」
小汚い布団に寝転がってから、ため息混じりに呟いた。
果たしてビーチャムは、どう思っただろうか。
興味津々に聞いていたとは思う。
ただ、そもそもなことがあった。
「なんであの男に、あそこまで話してしまったのだろう......」
今更ながら省みる。
元々は王都で高名な魔導博士だった......というのも、真実かどうかはわからない。
たとえ真実だとしても、信用に値する人間かどうかはさらにわからない。
「ヤバい。完全に直感で行動してしまった......」
たまらなく不安になってくる。
それでも現実は残酷で、また明日も過酷な労働の一日が待っている。
気がつけば、どろりと眠りに落ちていた......。
翌日。
いつものように肉体労働に汗を流している大成へ、思わぬ報せが届いた。
人事勧告だ。
「明日からはもう来なくていい?」
「そうだ。今日中に宿舎から荷物まとめてとっとと出ていきな」
労働者用の貧乏宿舎を出たところで、少ない荷物を抱えたまま呆然とした。
逃げたいと思っていた。
実際逃げようともした。
けど、まさか追い出されるような形になるとは思いもしなかった。
いずれにしても、ついに過酷な肉体労働の日々からは解放されたわけだ。
「良かった......のか?まだ何の準備もできてないぞ?ぶっちゃけ、行くあてないぞ......」
例えるなら、借金を抱えたまま家賃も払えていない状況で転職先も決まっていないのに仕事を辞めたようなもの。
嫁がいたらブッ飛ばされるか愛想つかせて逃げられるかのどちらかだろう。
このままでは、すぐに生き倒れるかもしれない。
「ど、どうする......」
「おい」
「......」
「おい!」
「えっ?」
「え、じゃない!僕だ!」
ハッとして大成は我に返り、目をパチクリさせる。
誰かが目の前に立っている。
背の低い、銀髪の、白衣を着た男。
「ビーチャム!?」
「他に誰がいるんだ?一晩で阿保になってしまったのか?」
「え、ええと、何でここに?お、俺に用?」
「僕が貴様を安全にこの町から逃してやると約束したことを忘れたのか?」
「もちろん覚えているけど。あっ!俺が仕事をクビになったのって...」
「先に言っておく。貴様を町から逃してやることはしない」
「は?」
「そこで代替案がある」
「な、なんだ?」
「いいか、よく聞け。明日からは僕が貴様の雇い主だ」
「えっ......えええ??」
「ということで、研究所に帰るぞ」
大成の転職先が決まった。
10
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女
にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》
家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界
【エルシェーダ】に飛ばされる。
そこで出会った少女に何とプロポーズされ!?
しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!?
前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって………
小説家になろうで先行連載中です
https://ncode.syosetu.com/n1658gu/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる