異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ!

根上真気

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ep8 研究所?

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 日も暮れて、仕事が終わる。
 早速、青年はその場所に向かって歩いていた。
 体はクタクタだったが、先延ばしにはできない。
 
「ここは、行くなら行くで一分一秒でも早いほうがいい。中途半端に遅れるぐらいなら行かない方がいい」

 徳富大成の考えはシンプルだった。
 このような判断力と行動力は、彼の強みとも言える。

「聞いた場所はここ......だけど、本当にここなんだよな?一応、雑な手書きの表札はある。ビーチャム魔導研究所......」

 目的の場所を目の前にして、不安そうに呟いたのにはワケがある。

「マジで、オンボロなんだけど......」

 一階建ての褪せた廃屋の如き建物には、所々に苔が生えており、とてもじゃないが「研究所」には見えない。
 もはや打ち捨てられた倉庫、といった方が適切かもしれない。

「食堂のおばちゃんが知ってるぐらいだから、町でも有名って考えていいよな。元々、王都でも有名な若き魔導博士だったとも言ってたし。それなのに、これか」

 考えれば考えるほど疑問と不安が増していく。
 しかしこんな所でぐずぐずしていても時間の無駄なだけだ。
 そう言わんばかりに勢いよく扉をノックした。

「すいませーん!こんばんはー!ビーチャムさーん!昨夜、町の外で貴方と会った者でーす!すいませーん!」

 返事がない。
 ぴしゃりと雨戸ごと締め切られた窓からは中の確認もできない。
 本当に人がいるんだろうか?
 そんな気さえしてくる。

「すいませーん!ビーチャムさーん!すいませーん!」

 ドンドンドンドン!と扉を叩いた。
 声量も上げた。
 布団を被って熟睡していても叩き起こされるレベルだ。
 ところが、一向に反応はない。
 このままではラチがあかない。
 ならば...と決心した。
 次の呼びかけで出て来なかったらもう帰ろうと。
 大きく息を吸って、口をひらく。

「出て来いコラァァ!!この三流貧乏自称博士がぁぁぁ!!」

 数秒後。中からドタドタと物音が聞こえてきたと思ったら、バーンと勢いよく扉が開いた。
 大成は思わず身を退いてドアの直撃を避けた。

「僕は正真正銘魔導博士だ!自称などではない!」

 白衣の男が、もっさりとした銀髪を振り乱して物凄い剣幕で出てきた。
 徳富大成の思惑通りだった。
 暴言は見事にようだ。

「やっと出てきたか。俺だよ。約束通り来た」

「ん?貴様は......」

 白衣の男は、視力の悪そうな目を細めてじ~っと見てくる。

「誰だ?」

「俺だよ!昨日の夜、町の外の林の中で会ったろ?アンタから言ってきただろ?ここに来いって」

「そうか。どこかで見たことがあるかと思ったが、昨夜の貴様だったか」

「そうだよ。話をしに来てやったんだ」

「遅い」

「は?」

「明日来いと、僕は言ったはずだ」

「だからこうして来ただろ!?」

「普通、明日来いと言ったら、少なくとも翌日の日中には来るものだろう」

「仕事があるんだよ!それぐらい言わなくてもわかんだろ!」

「言わなくてもわかる?僕は心を読む魔法など使えないぞ?」

「こ、こいつ......」

「まあいい。とりあえず中に入れ。遅くなった事は横に置いといてやる」

 大成は、拳をぎりぎりと握りしめながら思う。
 こいつは変人でもマッドサイエンティストでもない。
 ただの礼儀を知らない失礼な、社会性の欠落したクソヤローだ!
 と、自分から暴言を吐いた事はしれっと忘れる徳富大成に、白衣の男は言った。

「たっぷり聞かせてもらうぞ。『スマホ』とやらの話を」

 一瞬、大成はピタッと静止する。
 白衣の男はにやりと薄く微笑し、先に中へ入っていった。
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