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番外編
ep149 安息の勇者
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私はユイリス・ウィルケンフェルド。
一年前、あの魔法を倒した勇者。
でも、今では勇者の力の大半を失い、挙句には仲間に裏切られ、国を追われる存在となってしまった。
そんな私の手を取り、救ってくれた人。
彼は異世界から来た暗黒魔導師。
私は彼のおかげで、再び立ち上がることができた。
彼と一緒に過ごして居ると、私は時々、自分が勇者であることを忘れてしまいそうになる。
どうしてだろう。
わからない。
今、私は彼と共に旅をしている。
まだ短い間だけれど、不思議と温かさを感じるこの時間。
最初は行きがかりの旅だと思っていたけれど、今では、ずっとこんなふうに旅していたいなって思う。
コーロと一緒に、アミーナと、ミッチーと、みんな一緒に、ずっと......。
「ん?どうしたんだユイ?ボーッとして」
「......え?ううん!な、何でもないわ!」
「ユイねぇ。お腹でも痛いんか?せっかくのウマイ料理が冷めてまうよ?」
「そ、そうね!」
「それともユイねぇ、ダイエット中なんか?そんなスタイルええのに」
アミーナはそう言いながら、隣に座る私の腕やウエスト辺りをぷにぷに触った。
「ちょっとアミ!食事中にやめて!」
「ええやんかええやんか~そんな減るもんじゃなしにぃ~ニャハハ」
「おいアミ。それ完全におっさんだぞ」
「そういえばワタシ、先日の戦いの際、ユイ様の服の中に潜ったのですが、良い匂いでしたよ」
コーロの懐からミッチーがひょこっと顔を覗かせて報告した。
「なっ!ミッチーやめて!」
「ほ、ホンマか!?」
「ええ。とってもよござんしたよ。あれは典型的なイイ女の匂いでした。そう...ワタシのように......」
「お前はただの本だから」
「コーロ様。本は本でもワタシはただの本ではありません」
「じゃあ何の本なんだ」
「エロ本です」
「ええエロ本てなんや!?」
「あら?アミ様。こちらの世界にもあるでしょう?要するに、主には男性向けの性欲を刺激する本です」
「そらごっついわ!ん?てことは、そんな本をいつも懐に抱えとるコーロにぃは変態やんか!」
「待てアミ。そもそもコイツはエロ本じゃないし俺は変態でもない。それとミッチー。この手のネタはユイが怒るからやめろ」
「私が怒る?なぜ?」
「あれ?ユイが怒らない?」
「ユイ様?逆に大丈夫ですか?」
「ちょっとミッチー、逆に大丈夫ってどういう意味!?」
「ホンマや!意味わからへん!ニャハハ!」
仲間達と囲む賑やかな食卓。
いつも元気で明るいアミ。
場違いな発言も多いけれど、なんだかんだ私達を和ませてくれるミッチー。
普段は何だか頼りなさそうで、いざとなれば強く優しく心強いコーロ。
私は、みんなと過ごすこの団欒の時間がとても好き。
夕食を終えて、夜が更ける。
各々、部屋に戻り寝支度を整える。
私は寝間着姿で窓を開け、穏やかに吹き込む夜風を浴びた。
湯上りの身体に涼しくて気持ちいい。
私は前髪をなびかせながら、斜め上に見える夜空を眺めた。
流れ星は見えなかったけれど、私は願い事でもするように、呟いた。
「こんな時間が、ずっと、続いていきますように......」
その時...
コンコン
部屋のドアをノックする音が鳴った。
「はい」
私はパタパタと入口まで行き、ガチャっとドアを開けた。
「あ、ユイ。もう寝るところだったか?」
「ユイ様。セイなるエロ本がやって参りましたよ」
「おいミッチー、そのネタもうやめろ」
「ユイねぇ!寝る前にこれやろうや!トランプ!」
「なんかアミが今日昼間に買って来たらしくて、寝る前にやりたいやりたいって聞かないんだ」
「なんやコーロにぃ!やりたないのか?ほんなら金賭けるか?」
「アミと金賭けてやると殺伐としそうだからイヤだ」
「どーゆー意味や!」
「まあまあとにかく皆さんやりましょう」
その時、夜風を浴びて涼んだはずの私の身体に、花がパっと咲くように、ポっとあたたかさが込み上がるのを、私は感じた。
[完]
一年前、あの魔法を倒した勇者。
でも、今では勇者の力の大半を失い、挙句には仲間に裏切られ、国を追われる存在となってしまった。
そんな私の手を取り、救ってくれた人。
彼は異世界から来た暗黒魔導師。
私は彼のおかげで、再び立ち上がることができた。
彼と一緒に過ごして居ると、私は時々、自分が勇者であることを忘れてしまいそうになる。
どうしてだろう。
わからない。
今、私は彼と共に旅をしている。
まだ短い間だけれど、不思議と温かさを感じるこの時間。
最初は行きがかりの旅だと思っていたけれど、今では、ずっとこんなふうに旅していたいなって思う。
コーロと一緒に、アミーナと、ミッチーと、みんな一緒に、ずっと......。
「ん?どうしたんだユイ?ボーッとして」
「......え?ううん!な、何でもないわ!」
「ユイねぇ。お腹でも痛いんか?せっかくのウマイ料理が冷めてまうよ?」
「そ、そうね!」
「それともユイねぇ、ダイエット中なんか?そんなスタイルええのに」
アミーナはそう言いながら、隣に座る私の腕やウエスト辺りをぷにぷに触った。
「ちょっとアミ!食事中にやめて!」
「ええやんかええやんか~そんな減るもんじゃなしにぃ~ニャハハ」
「おいアミ。それ完全におっさんだぞ」
「そういえばワタシ、先日の戦いの際、ユイ様の服の中に潜ったのですが、良い匂いでしたよ」
コーロの懐からミッチーがひょこっと顔を覗かせて報告した。
「なっ!ミッチーやめて!」
「ほ、ホンマか!?」
「ええ。とってもよござんしたよ。あれは典型的なイイ女の匂いでした。そう...ワタシのように......」
「お前はただの本だから」
「コーロ様。本は本でもワタシはただの本ではありません」
「じゃあ何の本なんだ」
「エロ本です」
「ええエロ本てなんや!?」
「あら?アミ様。こちらの世界にもあるでしょう?要するに、主には男性向けの性欲を刺激する本です」
「そらごっついわ!ん?てことは、そんな本をいつも懐に抱えとるコーロにぃは変態やんか!」
「待てアミ。そもそもコイツはエロ本じゃないし俺は変態でもない。それとミッチー。この手のネタはユイが怒るからやめろ」
「私が怒る?なぜ?」
「あれ?ユイが怒らない?」
「ユイ様?逆に大丈夫ですか?」
「ちょっとミッチー、逆に大丈夫ってどういう意味!?」
「ホンマや!意味わからへん!ニャハハ!」
仲間達と囲む賑やかな食卓。
いつも元気で明るいアミ。
場違いな発言も多いけれど、なんだかんだ私達を和ませてくれるミッチー。
普段は何だか頼りなさそうで、いざとなれば強く優しく心強いコーロ。
私は、みんなと過ごすこの団欒の時間がとても好き。
夕食を終えて、夜が更ける。
各々、部屋に戻り寝支度を整える。
私は寝間着姿で窓を開け、穏やかに吹き込む夜風を浴びた。
湯上りの身体に涼しくて気持ちいい。
私は前髪をなびかせながら、斜め上に見える夜空を眺めた。
流れ星は見えなかったけれど、私は願い事でもするように、呟いた。
「こんな時間が、ずっと、続いていきますように......」
その時...
コンコン
部屋のドアをノックする音が鳴った。
「はい」
私はパタパタと入口まで行き、ガチャっとドアを開けた。
「あ、ユイ。もう寝るところだったか?」
「ユイ様。セイなるエロ本がやって参りましたよ」
「おいミッチー、そのネタもうやめろ」
「ユイねぇ!寝る前にこれやろうや!トランプ!」
「なんかアミが今日昼間に買って来たらしくて、寝る前にやりたいやりたいって聞かないんだ」
「なんやコーロにぃ!やりたないのか?ほんなら金賭けるか?」
「アミと金賭けてやると殺伐としそうだからイヤだ」
「どーゆー意味や!」
「まあまあとにかく皆さんやりましょう」
その時、夜風を浴びて涼んだはずの私の身体に、花がパっと咲くように、ポっとあたたかさが込み上がるのを、私は感じた。
[完]
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