導きの暗黒魔導師

根上真気

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異世界の章:第一部 西のキャロル編

ep91 魔人形

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 翼を生やした胴体の長い、全長十メートルはあろう巨大なセイウチのような奇怪な化け物の背から、一人の魔族が降りてくる。

「どうも、ゲアージさん」

「おまえは、マイルス・クランドール!」

 黒いローブの頭巾を外し、目に妖しい光をたたえたマイルスが現れた。

「......あの男は......まさか!?」
 驚愕するユイ。

「......魔犬達が全く見当たりませんが、どうしたんですか?」
 マイルスはユイの立つ方を見ながら訊いた。

「どうしたもこうしたもねぇ!あのクソオンナがやりやがった!」

「偉大な勇者様相手に魔犬だけでは荷が重かったでしょうねぇ」

「テメェ......あのクソオンナの力を知ってやがったのか?」

「知ってるも何も、あの魔王を倒した勇者様ですから。当然と言えば当然でしょう」

「あぁ?ケンカ売ってんのかテメェ」
 ゲアージは魔銃をマイルスに向ける。

「いやいやいや、違いますよゲアージさん。その逆です。加勢に来たんですよ私は」

「...テメェは勇者に勝てると?」

「正確に言えば、私だけではありませんけどね」
「どういう意味だ?」

 マイルスは妖しげな笑みを浮かべて化け物に手を触れる。
 化け物は不気味にグオングオンと身体をうねらすように動かし始め、デカい口をガバァっと開いた。
 次の瞬間、口内からベチョっと液体まみれの人間の固まりがボンボンボン!ドサドサドサ!と十体飛び出て来た。

「どうぞゲアージさん。追加の魔人形です」
「これは......」

「処分した債務者達を活用させていただきました」

「ククッ......ギャッハッハ!!オイ!イイじゃねえか!やるなテメェ!で、コイツらは魔犬より強いのか?」

「人間の魔人形は格別です。千頭の魔犬の比にもなりません。強さは保証しますよ」

「いいねぇいいねぇ!これであの糞忌々しいクソオンナぶっ殺せるってか!やべぇ!テンション上がって来たぜオイ!」

 ユイはマイルスに向かって呼びかけた。
「貴方は、マイルス副騎士長よね!?」

 マイルスは答える。
「ええ。そうですよ。先日はありがとうございました、勇者様」

「......貴方、一体何者なの?」

「私はヘンドリクス王国副騎士長マイルスですよ?ご存知でしょう?」

「......貴方個人で動いているの?それとも誰かの命令で来たの?貴方はブラックファイナンスの人間ではないでしょう?どの道こんな所に現れた時点でろくなもんではないのでしょうけど」

「まあ落ち着いてください勇者様。質問が多すぎます。ただ、そうですねぇ。ひとつだけお答えしましょう」

「?」

「私の行動は貴方のよく知っている方の意思によります」

「...!エヴァンスは一体何を企んでいるの!?」

「さあ?あの方の真意は壮大で私にもはかりかねますからねぇ」

「......なぜ、あの時、エヴァンスは私を殺さなかったの!?」

「それは...」

「オイオイオイオイ!クソオンナ!のん気にくっちゃべってんじゃねえぞコラァ!!」
 ゲアージがしびれを切らして割って入った。
「クソオンナ。テメェはもうすぐここで死ぬんだ。だから何も知る必要はねえんだよ」

「......相変わらず不快ね、貴方は」 」
「あぁ?」

 ユイは丸腰で構えた。
 ゲアージは魔銃を持ちながらユイを睨む。
 マイルスは懐から魔笛を取り出す。
 
「それは......さっきあの男も使っていた笛?」
 ユイはじっと目をこらして質問した。

「これは魔笛ですよ、勇者様。まあ、すぐに思い出しますよ」
 マイルスはニヤリとしながら意味深な言葉を吐くと、魔笛を口に咥え、音とも言えない奇怪な音をキィィィと鳴らす。
 
 音が鳴り終わると、化け物から吐き出された十体の者どもが、不気味にぬっと立ち上がる。者どもは皆、手に剣や斧などの武器を携えている。

「あれは......ま、まさか!?」
「そうですよ、勇者様。貴女が魔物の森で戦った魔人形です」

「魔人形!?」
「まあ、エヴァンス様と共に進めている実験の一つとだけ言っておきましょう」

「貴方......本当に何者なの?」
「私はただの副騎士長ですよ」

「なぜエヴァンスは貴方と......いえ、貴方がエヴァンスを操っているの?」

「言うに事欠いて一体何をバカな!!エヴァンス様に操られる者はあっても、あの方を操れる者などとてもじゃないが考えられませんよ。それは勇者様ならよくご存知でしょう?」

「......」

「オイ、マイルス。とりあえずおまえの魔人形どもに任せるぞ」
「わかりました、ゲアージさん」

 ゲアージが一旦後ろに退がると、マイルスは片手を顎下辺りまで上げて何かのジェスチャーをし、何かを念じた。
 すると、魔人形どもは異様な殺気を纏いながらぬらりと動き始めた。
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