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異世界の章:第一部 西のキャロル編
ep86 国境
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宿屋を出た二人は、連中に促されるまま警備局の使用する護送用の馬車に入れられた。
ユイは剣も取り上げられた。
ガララララッ
出発する。
はたから見れば、二人はまるで、これから刑務所へ収監するために護送される罪人のようだ。
ガタンガタンと馬車に揺られながら、徹底的に大人しく従うユイは思案する。
ーーー警備局の、ましてや副局長までもを駆り出して来たのは、おそらく私に一切おかしな行動を起こさせないため。
すでにアミーナを人質に取っておきながらも。
さすがに人質を取られた上に相手方に国家行政の警備隊員がいるとなると厳しいわね。
......あの破滅の黒猫と名乗るブラックキャットという男。
私達が考えている以上に厄介かもしれないーーー
やがて馬車は国境付近に辿り着く。
夜も深まった国境付近の大地は、やけにギラついた月明かりの下、まるで生気を失ったように冷たく荒涼と広がっていた。
二人は、警備隊員に囲まれながら厳重に降ろされた。そのまま連行されるように、国境地点まで進んでいく。
すると、そこにはブラックファイナンスと警備隊員が混在した集団が待ち構えていた。
「カイソー部長!副局長!」
「おう」
「ご苦労だ」
カイソーは彼らに軽く手だけで挨拶すると、二人へ振り返り指示する。
「ではユイリス様。スヤザキ様。このままお進みください」
「は?アミーナの引渡しは?」
ユイは批判的に問う。
「このまま真っ直ぐ一キロほど進み、その地点でしばらくお待ちください。そこで猫娘さんを引き渡します」
「......しばらくとは、いつまで?」
「しばらくですよ、しばらく。そこでアミーナさんをお渡しします。大丈夫、罠などありませんよ?その証拠に、引率役としてロナルドと先ほどの四人の警備隊員も同行させます」
「そういうことです、ユイリス様。私達がお時間まで共に待機させていただきます」
灯りを持ったロナルドが前に出て来て言った。
「......ならその前に剣を返して」
「それはできません。猫娘さんを引き渡してからお返しいたします」
「......。わかったわ。行きましょう」
二人とロナルドを含めた七名は、国境を超え、夜の大地を進む。
ロナルドと警備隊員達が持った灯りが揺れながら徐々に小さくなり、夜闇の奥へと遠ざかっていく。
一行を見送りながら、警備副長は目を濁らせてカイソーに訊く。
「これでいいんだな?」
「おかげで勇者を大人しく運べました。ありがとうございます」
「しかし、まさかあの勇者が絡んで来るとはな」
「はい。ですが、あとはシメだけです。これで社長も満足してくれるでしょう」
「今度、ワシも社長に挨拶しとかんとな。金の事もあるしな」
「ええもちろんです」
「さて、あとは待つのみか。全くとんだ残業だ。まっ、その分もよろしく頼むぞ」副局長はニヤリとした。
七人は一キロ地点と思われる辺りへ到着した。
「では時間まで待ちましょう」
ロナルドが言った。
「......」
ユイは無言で彼を一瞥する。
ユイは剣も取り上げられた。
ガララララッ
出発する。
はたから見れば、二人はまるで、これから刑務所へ収監するために護送される罪人のようだ。
ガタンガタンと馬車に揺られながら、徹底的に大人しく従うユイは思案する。
ーーー警備局の、ましてや副局長までもを駆り出して来たのは、おそらく私に一切おかしな行動を起こさせないため。
すでにアミーナを人質に取っておきながらも。
さすがに人質を取られた上に相手方に国家行政の警備隊員がいるとなると厳しいわね。
......あの破滅の黒猫と名乗るブラックキャットという男。
私達が考えている以上に厄介かもしれないーーー
やがて馬車は国境付近に辿り着く。
夜も深まった国境付近の大地は、やけにギラついた月明かりの下、まるで生気を失ったように冷たく荒涼と広がっていた。
二人は、警備隊員に囲まれながら厳重に降ろされた。そのまま連行されるように、国境地点まで進んでいく。
すると、そこにはブラックファイナンスと警備隊員が混在した集団が待ち構えていた。
「カイソー部長!副局長!」
「おう」
「ご苦労だ」
カイソーは彼らに軽く手だけで挨拶すると、二人へ振り返り指示する。
「ではユイリス様。スヤザキ様。このままお進みください」
「は?アミーナの引渡しは?」
ユイは批判的に問う。
「このまま真っ直ぐ一キロほど進み、その地点でしばらくお待ちください。そこで猫娘さんを引き渡します」
「......しばらくとは、いつまで?」
「しばらくですよ、しばらく。そこでアミーナさんをお渡しします。大丈夫、罠などありませんよ?その証拠に、引率役としてロナルドと先ほどの四人の警備隊員も同行させます」
「そういうことです、ユイリス様。私達がお時間まで共に待機させていただきます」
灯りを持ったロナルドが前に出て来て言った。
「......ならその前に剣を返して」
「それはできません。猫娘さんを引き渡してからお返しいたします」
「......。わかったわ。行きましょう」
二人とロナルドを含めた七名は、国境を超え、夜の大地を進む。
ロナルドと警備隊員達が持った灯りが揺れながら徐々に小さくなり、夜闇の奥へと遠ざかっていく。
一行を見送りながら、警備副長は目を濁らせてカイソーに訊く。
「これでいいんだな?」
「おかげで勇者を大人しく運べました。ありがとうございます」
「しかし、まさかあの勇者が絡んで来るとはな」
「はい。ですが、あとはシメだけです。これで社長も満足してくれるでしょう」
「今度、ワシも社長に挨拶しとかんとな。金の事もあるしな」
「ええもちろんです」
「さて、あとは待つのみか。全くとんだ残業だ。まっ、その分もよろしく頼むぞ」副局長はニヤリとした。
七人は一キロ地点と思われる辺りへ到着した。
「では時間まで待ちましょう」
ロナルドが言った。
「......」
ユイは無言で彼を一瞥する。
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