導きの暗黒魔導師

根上真気

文字の大きさ
上 下
89 / 160
異世界の章:第一部 西のキャロル編

ep84 ブラックキャットという男

しおりを挟む
ーーーーーー

 ガシャン!ガシャン!ガシャン!
「んー!んー!んー!(ここはどこや!?)」

「いくら体ごとぶつかったところで出られやしねーよ」

 ガシャン!ガシャン!ガシャン!
「んー!んー!んー!(アイツはどこ行ったんや!?ウチをどうするつもりや!?)」

「ったく、こんな猫娘のガキを社長自ら拉致ってくるなんて、社長も珍しいことするもんだぜ」

 ここはタペストリ市内のとある敷地内の地下牢。
 殺風景の狭い牢内は、通路側からの灯りのみで仄暗ほのぐらく、格子状の扉以外何もない。
 閉ざされた格子の向こう側には見張りが立っている。
 アミーナは口と両手両足を縛られ監禁されていた。

ーーーなんでウチが誘拐されるんや?キースは全額払ってへんのか?だからってウチを誘拐するか?わからへん。
 コーロおにーちゃんとユイおねーちゃんは?無事なんか?キースは見つかったんか?ウチらどうなってまうんや......。
 ......それに、あのブラックキャットとかゆう男。破滅の黒猫って言うてへんかったか?
 あの男が黒猫様なんか?そ、そんなん認めへん。あんな奴がウチの憧れの黒猫様なわけあらへん......!ーーー

 見張りの男は欠伸あくびをしながら退屈そうに呟いた。
「しかし、この猫娘をどうするつもりなんだろうな。売るのか?それとも?......まあおれの知ったこっちゃねえか」
 
 一方、屋敷の上階の一室では、部下達に一通りの指示を出し終えたブラックキャットが、一人鋭い眼光で静かに想い巡らしていた。

ーーーオレがここまで来るのに、一体どれだけ這いずり回ってきたか。
 今、勇者などに邪魔される訳にはいかない......!

 ......まだ魔王領にいた頃、どこに行っても居場所のないオレは、ひたすら路上を彷徨っていた。

 魔族の父と亜人の母は物心つく頃にはとっくに死んでいた。 
 ヤバイ仕事をしていた親父は殺され、残されたお袋は病気になったかと思うと貧しくて治療も受けられずにとっとと死んだ。

 食う物も寝る場所もないなんて当たり前。
 ゴロツキどもと奪い合いの日々。

 今日生き残れるかどうか、それがオレの毎日だった。
 力も無くたいした魔法も使えなかったオレは、ひたすら頭を使って知恵を絞ってなんとか生き抜いていた。
 
 だが、ある時、オレにはある特定の魔法についての才能がある事に気づいた。
 魔法迷彩だ。
 魔法迷彩は本来、補助的なものだが、オレはそれを独自の偽造魔法に昇華させた。

 ......それからだ。
 偽造魔法を駆使したオレの欺きの日々が始まったのは...。

 最初は良かった。
 全てが思うようにいった。
 偽造魔法は何より、オレ自身との相性も良かった。
 オレは食い物も寝る場所も金にも女にも困らなくなった。

 ところが、次第に調子に乗り過ぎたオレは、ある組織に目をつけられ、追われる身となってしまった。
 それからは、ひたすら欺きながらの逃亡生活となった。
 そして、世界では、魔王率いる魔王軍と勇者率いる人間達との戦争の時代に突入していた......。

 戦争が始まると、魔王領の一部を除いた地域は、徐々に荒れ始めた。
 元々、オレがいたような地域は血生臭い連中が多いエリアだったから、戦争の不安と混乱とともにますます荒んでいった。
 オレはむしろ、その状況に紛れて逃げ切れるんじゃないかとたかを括っていたが、甘かった。

 組織の連中はオレを見つけ出した。
 オレは逃げた。
 逃げて逃げて逃げまくった。
 しかし、もはや魔王領内にはオレの行ける場所は存在しなかった。
 行っても、オレでは生き残れないような危険な場所しか残っていなかった......。

 オレは決意した。
 魔王領を出ようと。
 人間の国に行って一から出直そうと...。
 
 オレは、人間の国へ進軍する魔王軍の兵士に紛れ出国した。
 戦場に赴いたオレは、必死に戦いながら、オレの持つ力を出し切って、なんとか命からがらその場を抜け出した。
 
 本当にギリギリだった。
 その時、戦場で鬼神の如く魔王軍を薙ぎ払う一人の若き女勇者の姿が、オレの目に刻印のように焼きついた。

 ...なんとか人間の国に辿り着いたオレは、人間の世界で成り上がってやろうと心に決めた。
 とはいえ、行く当てのないオレは、今度は人間の国の路上を彷徨った。

 そして、そこで待ち受けていたのは、魔王領にいた頃と同じものだった。
 ゴロツキどもと奪い合いの日々。
 結局やっていることは何も変わらなかった。
 オレからしてみれば、世界で起こっている戦争も、どうでもいいものとしか思えなかった。

 やがて戦争も終わる頃、オレはキャロル公国に流れ着いていた。
 キャロルにはビジネスチャンスがあると聞き及んでいたからだ。

 これからは戦いだけではダメだ。
 オレは自分の能力を使い、ビジネスで成功しようと考えていた。
 そう、あの亜人の英雄、偉大なる破滅の黒猫のように......。

 オレはとにかく金儲けをする事にした。
 儲けて儲けて儲けまくって、唸るような大金を手にする。
 金さえあれば、力も手に入る。
 権力も。軍事力も。信用も。信頼も。
 金があれば、強くなることができる。

 組織を作って、そいつをデカくする。
 オレは奪われる側でなく、奪う側として、世界に君臨する。
 オレは、オレから奪った奴等、奪おうとした奴等から奪ってやる。
 そうなって初めて、オレの人生は完成する......。
 
 そして......ようやくブラックファイナンスをここまで成長させる事ができた。
 今では、ブラックファイナンスの代表だけでなく、新魔王軍のナンバー4だ。
 オレはまだこんな所でつまずく訳にはいかない。

 オレにはまだ野望がある。
 いずれはブラックファイナンスを世界的な組織にまで拡大し、さらにはオレ自身、新魔王軍のトップに上り詰めてやる。

 .....つまり、これはチャンス。
 あの時この眼に焼きついたあの忌々しい勇者を、今こそ仕留めるチャンス。

 さらに、勇者の首を持っていけば、新魔王軍のトップどころか、オレが新たな魔王となる事も可能だろう。
 オレはこのチャンスを、必ずモノにしてみせる!ーーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...