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異世界の章:第一部 西のキャロル編
ep64 絶望の青年
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キースは、ほとんど無意識のような状態で、銀行に辿り着いた。
「じゃあ、俺達はここで待ってるから、キースくんは中に入ってお金を引き出してくれや」
ゲアージはそう言ってキースの肩をぽんと叩いた。
キースは茫然自失のまま入店した。
受付の女性とやり取りする。
それから促されるまま奥にある複数のカウンターの一つに進み、銀行員と向かい合い形式的な対話を続ける。
その最中だった。
キースは突然ハッと我に返った。
銀行員と相まみえながら彼には別の思考が働く。
ーーー今、建物内には奴らはいない。お金を持って出て来たと見せかけて、逃げ出してタペストリの警備局に駆け込もう...!大丈夫、ここから警備局はすぐ近いーーー
キースは窓の外の連中に怪しまれぬよう、銀行員とやり取りを続けた。
銀行側にも変に思われたくなかったので、一金貨だけ引き出した。
彼は金貨を手持ちの鞄にしまうと、席を立ち、ゆっくり出口へと歩を進めた。
扉の取っ手に手を掛けると、一度ゴクンと大きく唾を飲み込んだ。
よし、と心の中で呟くと、彼はドアを開けた。
ゲアージともう一人の者がこっちを向いて立っている。
彼はゆっくりと連中の元へと歩いていく......と見せかけて、突如、彼らに背を向けて一気に駆け出した!
「ちっ!あのガキッ!」
ゲアージも飛び出す。
キースは無我夢中で一目散に警備局へ向かい走った!
走って走って走りまくった!
こんなに必死に全速力で走ったことなど生まれて初めてではないのか?と彼は一瞬思った。
警備局の建物はもう目の前まで迫った!
ゲアージは追いついていない!
彼は走った!懸命に!
入口まで来た!
入口横に立っていた警備局員の一名が驚いて、咳を切らして走り込んで来た青年を見た。
しかし、建物に駆け込む事しか考えていなかったキースにはその男が見えていない。
追手はまだ間に合っていない!
彼は勢いよくドアを開けた!
救いの扉が開かれたかのように思われた!
......しかし、そこには、絶望が嘲笑うかのように待機していた。
扉を開けた瞬間だった。
彼はある男と目が合った。
ブラックファイナンスのカイソーだった。
カイソーは警備局の警備副長と親しげに話をしていた。
キースは悟った。
ここに来ても駄目なのだと。
もはや自分に逃げ道はないのだと。(彼はここに来てようやく危機管理的直感がしっかりと働くようになっていた。だが今更もう遅かった)
その日のそれ以降のことは、彼には記憶がなかった。
彼は連中の言われるがまま、生きる屍の如く行動した。
なお、カイソーは七百金貨にプラスして、(解約するのにもかかわらず)魔動設備の修繕費二百金貨と諸々の手数料を含めて合計一千金貨(約一千万円)を請求した。
もうめちゃくちゃだった。
しかし、青年はなすがままだった。
キースは銀行から引き出した残額全部にあたる一千金貨を彼らに手渡した。
その中身の半分以上は、アミーナが彼を信頼して預けた共同資金が占めていた。
こうして、若者の努力と夢は、実にあっさりと、いとも簡単に、無惨に奪われていったのである。
「じゃあ、俺達はここで待ってるから、キースくんは中に入ってお金を引き出してくれや」
ゲアージはそう言ってキースの肩をぽんと叩いた。
キースは茫然自失のまま入店した。
受付の女性とやり取りする。
それから促されるまま奥にある複数のカウンターの一つに進み、銀行員と向かい合い形式的な対話を続ける。
その最中だった。
キースは突然ハッと我に返った。
銀行員と相まみえながら彼には別の思考が働く。
ーーー今、建物内には奴らはいない。お金を持って出て来たと見せかけて、逃げ出してタペストリの警備局に駆け込もう...!大丈夫、ここから警備局はすぐ近いーーー
キースは窓の外の連中に怪しまれぬよう、銀行員とやり取りを続けた。
銀行側にも変に思われたくなかったので、一金貨だけ引き出した。
彼は金貨を手持ちの鞄にしまうと、席を立ち、ゆっくり出口へと歩を進めた。
扉の取っ手に手を掛けると、一度ゴクンと大きく唾を飲み込んだ。
よし、と心の中で呟くと、彼はドアを開けた。
ゲアージともう一人の者がこっちを向いて立っている。
彼はゆっくりと連中の元へと歩いていく......と見せかけて、突如、彼らに背を向けて一気に駆け出した!
「ちっ!あのガキッ!」
ゲアージも飛び出す。
キースは無我夢中で一目散に警備局へ向かい走った!
走って走って走りまくった!
こんなに必死に全速力で走ったことなど生まれて初めてではないのか?と彼は一瞬思った。
警備局の建物はもう目の前まで迫った!
ゲアージは追いついていない!
彼は走った!懸命に!
入口まで来た!
入口横に立っていた警備局員の一名が驚いて、咳を切らして走り込んで来た青年を見た。
しかし、建物に駆け込む事しか考えていなかったキースにはその男が見えていない。
追手はまだ間に合っていない!
彼は勢いよくドアを開けた!
救いの扉が開かれたかのように思われた!
......しかし、そこには、絶望が嘲笑うかのように待機していた。
扉を開けた瞬間だった。
彼はある男と目が合った。
ブラックファイナンスのカイソーだった。
カイソーは警備局の警備副長と親しげに話をしていた。
キースは悟った。
ここに来ても駄目なのだと。
もはや自分に逃げ道はないのだと。(彼はここに来てようやく危機管理的直感がしっかりと働くようになっていた。だが今更もう遅かった)
その日のそれ以降のことは、彼には記憶がなかった。
彼は連中の言われるがまま、生きる屍の如く行動した。
なお、カイソーは七百金貨にプラスして、(解約するのにもかかわらず)魔動設備の修繕費二百金貨と諸々の手数料を含めて合計一千金貨(約一千万円)を請求した。
もうめちゃくちゃだった。
しかし、青年はなすがままだった。
キースは銀行から引き出した残額全部にあたる一千金貨を彼らに手渡した。
その中身の半分以上は、アミーナが彼を信頼して預けた共同資金が占めていた。
こうして、若者の努力と夢は、実にあっさりと、いとも簡単に、無惨に奪われていったのである。
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