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異世界の章:第一部 西のキャロル編
ep61 ブラックキャットとブラックファイナンス
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マイルスは彼らのやり取りを見ながら冷静に思考する。
ーーーここキャロルで、短期間で急成長を遂げたブラックファイナンス。
組織を率いる男はブラックキャット。
新魔王軍ナンバー4である破滅の黒猫。
彼は、いずれは新魔王軍のトップに立とうと考えている野心家。
実際、侮れない才覚を持っている。
今やキャロルの闇社会は彼が牛耳っていると言っていい。
ブラックファイナンスのビジネスモデルはこうだ。
まず、どうやって得たかわからない信用で、ファンドの名の下に貴族達から資金を集める。
だが、実際はまともな運用などしていない、いわゆるポンジスキーム。
しかし、どうやったのかバレもせず資金と会社はみるみる肥大していった。
そして豊富な資金を使い闇賭博や金融業を起こした。
まずはギャンブルの沼にハマった奴らにデタラメな貸付をして、悪質に追い込み金を搾り取る。
その循環でブラックファイナンスはさらなる成長を遂げた。
今では不動産業やコンサルタント業なども行っている。
融資の名のもとに資金提供し、さらに顧客(獲物)層を広げている。
しかも、豊富な資金で警備局に賄賂を送り、多くの連中は買収済み。
今や表向きは優良企業。
裏では貴族だろうが仲間だろうが逆らう者は容赦なく葬る。
まさにやりたい放題という状態。
たいしたものだ。
やっている事の実態は詐欺や恐喝のオンパレードで屍を積み上げるとんでもない悪徳企業だが、超短期間でここまで急成長させたその事実は疑いようがない。
そして、ブラックファイナンスの豊富な資金力・経済力は、エヴァンス様にも魅力的に映ったのだ。
実際、彼らとの取引は魔人形の実験にも有効だ。
ただ、エヴァンス様は、特にブラックキャットの野心に興味を持っているようだ。
私にその真意は計れないが......。
いずれにしても、油断してはならない。
私はエヴァンス様のために任務を遂行するだけーーー
マイルスは柔らかい物腰で、淀みなく彼らと相対した。
しばらく皆の会話が続いていると、
「ところで社長。そういえば......」
カイソーは思い出したように話を切り替えた。
「昨夜、東の街の外れで魔犬が三十頭ばかしやられたそうです」
「街の警備隊か?にしては随分と手際が良いな」
「いえ。やったのはどうやら冒険者のようです」
「ほう?どんな奴らだ?」
「最近キャロルにやってきたばかりの奴らのようで」
「何が気になっているんだ?」
「それがですね。数日前からタペストリでやたらと破滅の黒猫様について調べている輩がいるようでして。それがどうもその冒険者どもらしいのです。
これはタペストリにいる部下とブラックファイナンスお抱えの冒険者からの情報なんでまず間違いありません」
「なるほどな。しかし、破滅の黒猫の名前自体は有名だからな。特にここキャロルでは」
「ええ。これといった目的もわかりませんし。一応、念のためご報告申し上げたまでです」
「ったくカイソー部長は相変わらず慎重だからなぁ!」
ゲアージがヘラヘラしながら口を挟む。
「おいゲアージ。お前は次の追い込みの準備をしておけよ。次は、西の街の中年親父と服飾屋の若店主、その次はタペストリート沿いの物件絡みの坊ちゃん相手になるだろう」
「はいはいわかりましたよ。ったくオレはちーせー仕事ばっかだよな。でもはいやりますよ。ちゃっちゃとゴミども追い込んできてやりますよ」
「そうだ。その後、手が空いたらすぐに冒険者連中も調べてこい」
「マジかよ?人づかいあれーよカイソー部長!」
ーーーーーー
数日後。
日が沈んだ暗がりの東の街の街外れ。
コーロ達は再び野犬退治を行っていた。
今回は十頭ばかしの駆除だった。
「なあユイ」
「なに?コーロ」
「こういう奴らって、街にウヨウヨいるもんなのか?」
「地域にもよるけど、少なくともキャロルではそんなことはないはずだわ」
「じゃあなんなんだろう。こいつら」
「私にもわからない。でも、ごめんなさいね」
「うん?」
「私が気になるからって、野犬退治ばかりに付き合わせてしまって」
「それは全然構わないよ。お金も稼げるわけだし。(そもそも俺は自分の旅にユイを付き合わせてしまっているようなもんだし...)」
「むしろコーロ様の脱ヒモ生活への道に大きく貢献してますからね!」
「ミッチー。いい加減その言い方やめてくれ......」
「ねえ?前から気になっていたけれど、それどういう意味なの?」
「えっと、それはですねぇ......」
ミッチーはふわ~とユイの耳元に近寄っていき、ごにょごにょした。
「お、おいミッチー、変な説明の仕方はやめてくれよ......」
コーロはひどく不安そうに言った。
彼の悪い予感は見事に的中する。
ユイは急に顔を火照らせてぷんすか怒り出した。
「なっ!!もう!バカ!!」
コーロは豹変したユイの様子を見てすぐに悟った。
「ミッチー!おまえどんな説明の仕方した!?」
「え?とりあえずわかりやすくキャバ嬢&クズ男カップルの実例でご説明申し上げましたが?」
「言い方!!」
「もう知らない!!」
ユイは背を向けて一人でずんずんと歩いて行ってしまった。
「いやユイ!違うんだ!ってミッチー!おまえは俺達をどこに導こうしてるんだ!?」
彼らの絆とチームワークはますます深まるばかりであった...。
......さて、これで彼らの野犬退治はすでに四回目を終えていた。
というのも、ユイの希望で、同クエストが出るたびに名乗り出ていたからだ。
そして望む望まざるに関わらず、彼らの存在は、さらにブラックファイナンスへ浸透していくこととなる。
一体ブラックキャット達は、どう判断し、どう行動するのだろうか。
暗黒魔導師と勇者。夢を追いかける猫娘と青年。新魔王軍と破滅の黒猫。傀儡魔導師の副騎士長。
まるで必然でもあったかの如くキャロルの街へと集まった彼等達。
やがてそれぞれの者達は、それぞれのところから、それぞれの思いをもって、ひとつのところへと輻輳してゆく......。
ーーーここキャロルで、短期間で急成長を遂げたブラックファイナンス。
組織を率いる男はブラックキャット。
新魔王軍ナンバー4である破滅の黒猫。
彼は、いずれは新魔王軍のトップに立とうと考えている野心家。
実際、侮れない才覚を持っている。
今やキャロルの闇社会は彼が牛耳っていると言っていい。
ブラックファイナンスのビジネスモデルはこうだ。
まず、どうやって得たかわからない信用で、ファンドの名の下に貴族達から資金を集める。
だが、実際はまともな運用などしていない、いわゆるポンジスキーム。
しかし、どうやったのかバレもせず資金と会社はみるみる肥大していった。
そして豊富な資金を使い闇賭博や金融業を起こした。
まずはギャンブルの沼にハマった奴らにデタラメな貸付をして、悪質に追い込み金を搾り取る。
その循環でブラックファイナンスはさらなる成長を遂げた。
今では不動産業やコンサルタント業なども行っている。
融資の名のもとに資金提供し、さらに顧客(獲物)層を広げている。
しかも、豊富な資金で警備局に賄賂を送り、多くの連中は買収済み。
今や表向きは優良企業。
裏では貴族だろうが仲間だろうが逆らう者は容赦なく葬る。
まさにやりたい放題という状態。
たいしたものだ。
やっている事の実態は詐欺や恐喝のオンパレードで屍を積み上げるとんでもない悪徳企業だが、超短期間でここまで急成長させたその事実は疑いようがない。
そして、ブラックファイナンスの豊富な資金力・経済力は、エヴァンス様にも魅力的に映ったのだ。
実際、彼らとの取引は魔人形の実験にも有効だ。
ただ、エヴァンス様は、特にブラックキャットの野心に興味を持っているようだ。
私にその真意は計れないが......。
いずれにしても、油断してはならない。
私はエヴァンス様のために任務を遂行するだけーーー
マイルスは柔らかい物腰で、淀みなく彼らと相対した。
しばらく皆の会話が続いていると、
「ところで社長。そういえば......」
カイソーは思い出したように話を切り替えた。
「昨夜、東の街の外れで魔犬が三十頭ばかしやられたそうです」
「街の警備隊か?にしては随分と手際が良いな」
「いえ。やったのはどうやら冒険者のようです」
「ほう?どんな奴らだ?」
「最近キャロルにやってきたばかりの奴らのようで」
「何が気になっているんだ?」
「それがですね。数日前からタペストリでやたらと破滅の黒猫様について調べている輩がいるようでして。それがどうもその冒険者どもらしいのです。
これはタペストリにいる部下とブラックファイナンスお抱えの冒険者からの情報なんでまず間違いありません」
「なるほどな。しかし、破滅の黒猫の名前自体は有名だからな。特にここキャロルでは」
「ええ。これといった目的もわかりませんし。一応、念のためご報告申し上げたまでです」
「ったくカイソー部長は相変わらず慎重だからなぁ!」
ゲアージがヘラヘラしながら口を挟む。
「おいゲアージ。お前は次の追い込みの準備をしておけよ。次は、西の街の中年親父と服飾屋の若店主、その次はタペストリート沿いの物件絡みの坊ちゃん相手になるだろう」
「はいはいわかりましたよ。ったくオレはちーせー仕事ばっかだよな。でもはいやりますよ。ちゃっちゃとゴミども追い込んできてやりますよ」
「そうだ。その後、手が空いたらすぐに冒険者連中も調べてこい」
「マジかよ?人づかいあれーよカイソー部長!」
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数日後。
日が沈んだ暗がりの東の街の街外れ。
コーロ達は再び野犬退治を行っていた。
今回は十頭ばかしの駆除だった。
「なあユイ」
「なに?コーロ」
「こういう奴らって、街にウヨウヨいるもんなのか?」
「地域にもよるけど、少なくともキャロルではそんなことはないはずだわ」
「じゃあなんなんだろう。こいつら」
「私にもわからない。でも、ごめんなさいね」
「うん?」
「私が気になるからって、野犬退治ばかりに付き合わせてしまって」
「それは全然構わないよ。お金も稼げるわけだし。(そもそも俺は自分の旅にユイを付き合わせてしまっているようなもんだし...)」
「むしろコーロ様の脱ヒモ生活への道に大きく貢献してますからね!」
「ミッチー。いい加減その言い方やめてくれ......」
「ねえ?前から気になっていたけれど、それどういう意味なの?」
「えっと、それはですねぇ......」
ミッチーはふわ~とユイの耳元に近寄っていき、ごにょごにょした。
「お、おいミッチー、変な説明の仕方はやめてくれよ......」
コーロはひどく不安そうに言った。
彼の悪い予感は見事に的中する。
ユイは急に顔を火照らせてぷんすか怒り出した。
「なっ!!もう!バカ!!」
コーロは豹変したユイの様子を見てすぐに悟った。
「ミッチー!おまえどんな説明の仕方した!?」
「え?とりあえずわかりやすくキャバ嬢&クズ男カップルの実例でご説明申し上げましたが?」
「言い方!!」
「もう知らない!!」
ユイは背を向けて一人でずんずんと歩いて行ってしまった。
「いやユイ!違うんだ!ってミッチー!おまえは俺達をどこに導こうしてるんだ!?」
彼らの絆とチームワークはますます深まるばかりであった...。
......さて、これで彼らの野犬退治はすでに四回目を終えていた。
というのも、ユイの希望で、同クエストが出るたびに名乗り出ていたからだ。
そして望む望まざるに関わらず、彼らの存在は、さらにブラックファイナンスへ浸透していくこととなる。
一体ブラックキャット達は、どう判断し、どう行動するのだろうか。
暗黒魔導師と勇者。夢を追いかける猫娘と青年。新魔王軍と破滅の黒猫。傀儡魔導師の副騎士長。
まるで必然でもあったかの如くキャロルの街へと集まった彼等達。
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