導きの暗黒魔導師

根上真気

文字の大きさ
上 下
58 / 160
異世界の章:第一部 西のキャロル編

ep53 タペストリ

しおりを挟む
 一行は馬車に乗り、キャロル公国の首都、タペストリ市に到着した。

 キャロルは、王族ではなく、貴族が権力の中枢を握る公国である。
 キャロルの貴族の多くは事業に携わっており、資金だけ提供するいわゆる投資家のような者もいれば、自ら事業を手がける実業家もいる。

 また、貴族以外の資産家でない者の中で、自ら事業を起こし成功する者もいた。
 その事実こそ、多くの商魂たくしい人間達を国内に集めた。
 それが、とりわけキャロルを屈指の商業国たらしめんとしたのである。

 そんな商業国キャロルの中心地がここ、タペストリだ。
 その街並みは、彼らがやってきた東の街よりもずっと近代化されたものだった。
 四階建て五階建ての建物がズラリと並び、舗装された広い道路がいくつもあり、交差点は街行く馬車や人間で輻輳ふくそうしていた。

 魔法を動力とした電気、ガス、水道などの魔動インフラも充実していて、この世界においての科学的な文明国家たる姿を演出していた。

 会社もあるし、郵便局もあるし、銀行もある。
 コーロはこの世界に来て初めて、もっとも自分がいた世界に近い「文明社会」を感じた。
「へ~ここがキャロルの首都、タペストリかぁ」

「どや?世界中からビジネスで一旗上げようゆう連中が集まってくるんやで?アガるやろ?」

「私は久しぶりにタペストリに来たけど、相変わらず活気がある街ね」

 そんな会話をしていると、アミーナが足早にトコトコトコっと二人の前に踊り出て振り返り、
「ほな、ウチはこれで!今夜は宿に戻らんかもしれへんけど!ビジネスパートナーんとこ行ってくるわ!」
 快活に言い放って彼女はあっという間にその場からいなくなった。

「アミーナは行っちゃったか。じゃあ俺達は例の調べ物を始めますか」
「そうね」

「でもさ?さっきの話だとギルドの方が情報集められるんじゃないのか?」

「むしろギルドの情報だと、破滅の黒猫はキャロルにいる、という事までしかわからなかったのよ」

「なるほどな。で、具体的にどうやって情報集めればいいんだろうな?」

「とりあえず、コーロはタペストリがどんな所か見て回った方がいいかもしれないわね。それで......」

「ユイ?どうした?」

「申し訳ないけれど、一人で回っててもらっていいかしら?私、銀行に行って来ようと思っていて」

「銀行に行くのか?えっと、俺はついて行かない方がいいって事か?」

「そういう訳じゃないけれど、待たせてしまうから」

「わかったよ。じゃあ俺はとりあえず一人で街をひと回りしてるよ」

「あ、その前にこれを」 
 ユイはコーロに何枚かのコインを手渡した。
「一銭も持ってないと困るでしょ?じゃあまた後でね」

「あ、ああ。また後で。(俺はどんどんダメ男になってしまっていないだろうか......)」

「ヒモ道まっしぐらですね!あとは売れないホストにでもなるだけです!」
 ミッチーが彼の懐から明るく断定した。

「どんな道だよ!?ちくしょう!タペストリにハローワークはないのか!?」

 二人は目の前に見えた時計台を集合場所に定め、一旦解散した。

 コーロはタペストリの街をぶらぶら歩きながら、懐に向かい声をかける。
「なあミッチー」

「何ですか?コーロ様」
「あのさ......」
「はい?」

「......何をどーすればいいのかさっぱりわからん!え?スマホもないのにどうやって調べりゃいいの!?なに?道行く人に片っ端から声かけるわけ?キャッチか!」

「なに自分で言って自分でツッコんでるんですか。色々やりようはあるでしょうに。これだから最近の若者は」

「いや俺、若者代表じゃないからね?もっとちゃんとした若者もたくさんいるからね?じゃあ俺はちゃんとしてないのか!おい!」

「ちょっとどうしたんですかコーロ様?今日はやけにノリがイイですねぇ?」

「スマン。なんだかよくわからないテンションになってた...。とりあえず、そうだな。街をひと回りしながらどこかカフェにでも入って店員さんにでも聞いてみようか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】え、別れましょう?

水夏(すいか)
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

[完結]勇者の旅の裏側で

八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。                                      起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。               「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」                                        「………………はい?」                                                   『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。                                                       依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。                             旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。                                          しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。                                         人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。                                                これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。                            ・1章には勇者は出てきません。                                                     ・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。                    ・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。                    ・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...