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ep18 宮野首長穂①

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 翌日。

 待ち合わせ場所の駅前で、約束の時間より十五分前に着き、緊張の面持ちでたたずむ女性がひとり。

「十一時四十五分......早めに着けて良かった。で、でも、わたし、見つけてもらえるかな......。いや、わたしが山田さんを見つければいいんだよね!わたしが先に......見つけて、わたしから声、かけられるかな......」
 
 可愛い系オフィスカジュアル風ファッションに身を包んだ彼女。
 名前は宮野首長穂みやのくびながほ
 本日これから、マッチングアプリで知り合った山田ナゴムとランチデートへおもむく予定の女性である。
 彼女は黒髪ショートボブを何度も整えながら、おっとりした大きな目をパチクリさせ、落ち着かない心を隠せない。

「き、きんちょーするよぉ......」

 背丈が小さく大人しそうな彼女がおどおどする姿は、どこか可愛らしい小動物を彷彿とさせる。

 十分経ち......五分前。

 長穂はスマホを手に取ると、なにやら考えこみ始める。

「め、メッセージ、送ろうかな......。で、でも、今送ったらせかしちゃうかな......まだ五分前だし。でもでも、もう着いててわたしのこと探してたらどうしよう。それなら送ったほうがいいよね?あれ?それだったら向こうから送ってくる?あああ、どうしよう......!」

 スマホを見つめてアワアワと思い悩んでいると......待ち合わせ時間一分前。
 彼女のもとへ黒ジャケットにグレーパンツ姿の男性が爽やかに現れた。

「あの、すみません。ながほさんですか?」

 長穂はビクッとして、顔をバッと上げた。

「あっ、あ、はい!えっと、山田ナゴムさんですか?」

「はい、山田ナゴムです。待ちましたか?」

「い、いえ!ぜんぜん!」

「じゃあさっそく行きましょうか。お店はこっちです」

「は、はい!」

 ナゴムは緊張する長穂をやさしくエスコートするように歩きだした。

「すぐにながほさんのことを見つけることができて良かったです」

 足を進めながら長穂へ微笑みかけるナゴム。
 前回の〔しおり〕の時に比べると、はるかに落ち着いているように見受けられる。
 実際、彼は落ち着いていた。

(よし。今日の俺は、余裕のある社会人男性って感じだ。このまま〔ながほ〕さんとの楽しい時間をビシッと作っていくぞ!)

 山田ナゴムは余裕のある男として、しっかりとした足取りで長穂をリードしていく。
 そんな彼を見て長穂は、
(す、すごい優しそうで良い人そうだけど、やけに手慣れた感じ......もももしかして、なにかの勧誘では!?で、でも、アプリの規約に勧誘はNGって書いてあったし......。でもでも、そんなのお構いなしの人だったら......ああ!高い壺とか買わされたらどうしよう!)
 別の想像を働かせていた。

「ながほさん」
「......」

「ながほさん?」
「......へ?」

「ながほさん?どうかしました?」
「ひっ、ひいぃぃぃぃ!」

「えっ」
 ナゴムはギョッとする。

 長穂はハッとして、我にかえる。
「な、なんでもないです!すすすいません!」

「そ、そうですか(なんでもない人がヒイィィィって言うのだろうか......)」

 なんとなくお互い不穏な空気を感じつつ......。

 お店に到着。

 引き続きナゴムは、
「ここです。前に営業でこの辺に来た時、ランチで入ったら、ここのパスタが美味しかったんですよ」
 余裕のある穏やかな笑顔を見せる。

 長穂はギョッとする。
「つ、つぼの営業ですか!?」

「つぼ?......つぼってなんですか?」

 ......。

 とりあえず、入店。

 席に着くと、ナゴムは長穂の様子のおかしさが気になってくる。

(さっきから長穂さん、ちょっとヘンな感じなんだけど......俺、なんかやらかした?なんだろ?思いあたるフシがまるで見当たらない......)

 一方、長穂は心の中で同じ言葉を念仏のように唱えていた。

(断らなきゃ。断らなきゃ。断らなきゃ。断らなきゃ.......)

 ふたりの空気が奇妙に緊迫する。
 たまりかねたナゴムは、長穂へ尋ねる。

「あの、長穂さん。どうかしたんですか?」
「わたし!壺は買いませぇぇぇん!!」

 長穂は間髪入れず食い気味に答えた。
 彼女の突然の大声に、まわりのお客の視線がふたりのテーブルへ集まる。
 完全に意味不明のナゴムは、おそるおそる問いかける。

「あ、あの~......さっきから、壺って言ってますけど、いったいなんのハナシですか?」

「えっ??」

 ......ここから、ナゴムは長穂の誤解...というより彼女の勝手な思い込みをくつがえすのに約十分の時間を要した。
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