上 下
15 / 43

ep15 飲み会③

しおりを挟む
 ビルの五階にある店を出て、彼らがエレベーター前に向かうと、
「あらら、やけに混んでるな~」
 エレベーター待ちの団体で人が溢れていた。

 ナゴムの同僚のひとりが、
「階段で行こーぜ!」
 調子にノってエントランス奥の階段部へ駆け出した。 

 それを見て女性陣が、
「走っちゃダメだよ~」
 と声を上げ、
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
 と、彼が顔だけ振り向いて答えた時。

「あっ」

 ちょうどタイミングよく階段から上がってきた若い女性のひとりに彼がぶつかってしまう。

「きゃっ」
 
 女性はバランスを崩してフラつく。
 彼女の足は一歩下がって階段を踏む......ことができない。

「あ......」

 女性の体は、階段最上段から宙にもたれる。
 このままでは転落は必至。
 付近にいた誰もが「!」と、どうすることもできずに息を飲んだ瞬間である。

 転落する彼女に向かい、シュィィィ!と白いなにかが凄まじい疾さで伸びる。
 それは一瞬で彼女の身体へ巻きつくように絡まると、
「えっ??」
 転落するはずの彼女の体を空中でビタッと留まらせた。

 さらに次の瞬間、今度は黒い翼を生やした何者かがブワァッと疾風のごとく彼女に迫ると、そのまま彼女をキャッチして抱きかかえたまま、階段エリアの下の床へスタッと着地した。

「あ、ありがとう、ございます......?」

 彼女は自分が何者かに助けられたことだけはわかったが、状況が飲みこめない。
 周囲の人間は突然の出来事にただ茫然とするのみ。

「て、天狗......?」

 彼女が言いかけたとき、その者は彼女の前から翔ぶように消えていった。
 まさしく、階段エリアを鳥のように飛んで降りていったのである。
 この時すでに、彼女の体に絡まっていた白い糸のようなものも消えていた。

「え、なにいまの?」
「あれ、妖じゃなかったか?」
「す、すげえ」

 一同がザワつき始めると、ナゴムの同僚のひとりが、事故の加害者となりかけた同僚に向かい怒声を上げる。

「バカ!お前なにやってんだ!」
「わ、悪い......」

「おれに謝んな!あの女性に土下座してあやまれ!」
「そ、そうだよな!」

 その時、他の飲み会メンバーはあることに気づく。

「あれ?ナゴムのやつ、どこいった?」
「しおりは?あのコどこいったの?」

 そんな状況で、糸緒莉の同僚の茂原水希だけは、怪訝な表情を浮かべる。
(さっき......しおりの手から、なにかが出なかった?)

 では、肝心の妖ふたりはいったいどこへ?

 まず......。

 糸緒莉はお手洗いに駆けこんでいた。
 駆けこんで、凄まじい勢いでスマホを打っていた。

『ちょっとナゴムくん!いまどこ!?あなた大丈夫!?』

 ナゴムは、店の入ったビルから出て、脇の路地へ入っていた。
 すでに彼は元のヒトの姿に戻っている。
 何事もなかったように取りすましながら、ナゴムは糸緒莉に返信する。

『なんとか、大丈夫だよ。たぶんバレてない、はず...』

『なら良かったわ。まったく無茶するんだから!』

『なんか体が動いちゃうんだよ!ああいう時って』

『そ、そうなのね』(私とおなじ......)

『?』

『でも気をつけなさい!そのうちバレるわよ?』

『それを言うならそっちもだろ!それと、返したほうがいいのか?』

『かえす?』

『女郎蜘蛛の糸』

『なっ!』

『咄嗟の判断で回収したけど、どうすればいいのかわからなくて』

『ナゴムくん。女郎蜘蛛の糸って高級繊維なの知ってる?』

『え?そうなの?』

『だからお金をいただきます』 

『ちょっ!』

『冗談よ。回収してくれてありがとう。おかげで私もバレずに済んだ、はず...


『でも、あのタイミングでいきなり二人ともいなくなったらさすがに怪しまれるよな。どうしよう』

『私に考えがある。今からこっそり戻ってきて』

『こっそり、戻れるのか?』

『大丈夫。まずナゴムくんは友達にメッセージを送って。内容は......』

『わかった!』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

嫌犬2nd

藤和
キャラ文芸
『嫌犬』のあのコンビが帰ってきた! 相変わらず高等遊民な主人公と、少し嫌な感じの喋る犬。 愉快な仲間達と過ごす約二年半をお楽しみ下さい。

超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太
キャラ文芸
 これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。  挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★  そのルールは単純にて深淵。  対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。  そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!  例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。  まともな勝負だ。  例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。  骨をどうすればいいんだ……  例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」  どんな特級厨師だよ母。  知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!  特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!  敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。  この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?  料理バトルものです。  現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。  実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。  まだまだレベル的には足りませんが……  エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。  パロディ成分多めです。  本作は小説家になろうにも投稿しています。

貧乏教会の懺悔室

Tsumitake
キャラ文芸
そこは街から遠く離れた山奥の教会。 何で山奥かって?街の住人が全員変人だから。 あんまり頻繁に懺悔しに来てほしくないから。 そんな教会に勤める若い神父と日本人吸血鬼シスターのちょっと変わった日常の物語。

新・八百万の学校

浅井 ことは
キャラ文芸
八百万の学校 其の弐とはまた違うお話となっております。 十七代目当主の17歳、佐野翔平と火の神様である火之迦具土神、そして翔平の家族が神様の教育? ほんわか現代ファンタジー! ※こちらの作品の八百万の学校は、神様の学校 八百万ご指南いたしますとして、壱巻・弐巻が書籍として発売されております。 その続編と思っていただければと。

アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
「アタシをボランチしてくれ!」  突如として現れた謎のヤンキー系美少女、龍波竜乃から意味不明なお願いをされた、お団子頭がトレードマークのごくごく普通の少女、丸井桃。彼女の高校ライフは波乱の幕開け!  揃ってサッカー部に入部した桃と竜乃。しかし、彼女たちが通う仙台和泉高校は、学食のメニューが異様に充実していることを除けば、これまたごくごく普通の私立高校。チームの強さも至って平凡。しかし、ある人物の粗相が原因で、チームは近年稀にみる好成績を残さなければならなくなってしまった!  桃たちは難敵相手に『絶対に負けられない戦い』に挑む!  一風変わった女の子たちによる「燃え」と「百合」の融合。ハイテンションかつエキセントリックなJKサッカーライトノベル、ここにキックオフ!

処理中です...