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ep15 飲み会③
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ビルの五階にある店を出て、彼らがエレベーター前に向かうと、
「あらら、やけに混んでるな~」
エレベーター待ちの団体で人が溢れていた。
ナゴムの同僚のひとりが、
「階段で行こーぜ!」
調子にノってエントランス奥の階段部へ駆け出した。
それを見て女性陣が、
「走っちゃダメだよ~」
と声を上げ、
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
と、彼が顔だけ振り向いて答えた時。
「あっ」
ちょうどタイミングよく階段から上がってきた若い女性のひとりに彼がぶつかってしまう。
「きゃっ」
女性はバランスを崩してフラつく。
彼女の足は一歩下がって階段を踏む......ことができない。
「あ......」
女性の体は、階段最上段から宙にもたれる。
このままでは転落は必至。
付近にいた誰もが「!」と、どうすることもできずに息を飲んだ瞬間である。
転落する彼女に向かい、シュィィィ!と白いなにかが凄まじい疾さで伸びる。
それは一瞬で彼女の身体へ巻きつくように絡まると、
「えっ??」
転落するはずの彼女の体を空中でビタッと留まらせた。
さらに次の瞬間、今度は黒い翼を生やした何者かがブワァッと疾風のごとく彼女に迫ると、そのまま彼女をキャッチして抱きかかえたまま、階段エリアの下の床へスタッと着地した。
「あ、ありがとう、ございます......?」
彼女は自分が何者かに助けられたことだけはわかったが、状況が飲みこめない。
周囲の人間は突然の出来事にただ茫然とするのみ。
「て、天狗......?」
彼女が言いかけたとき、その者は彼女の前から翔ぶように消えていった。
まさしく、階段エリアを鳥のように飛んで降りていったのである。
この時すでに、彼女の体に絡まっていた白い糸のようなものも消えていた。
「え、なにいまの?」
「あれ、妖じゃなかったか?」
「す、すげえ」
一同がザワつき始めると、ナゴムの同僚のひとりが、事故の加害者となりかけた同僚に向かい怒声を上げる。
「バカ!お前なにやってんだ!」
「わ、悪い......」
「おれに謝んな!あの女性に土下座してあやまれ!」
「そ、そうだよな!」
その時、他の飲み会メンバーはあることに気づく。
「あれ?ナゴムのやつ、どこいった?」
「しおりは?あのコどこいったの?」
そんな状況で、糸緒莉の同僚の茂原水希だけは、怪訝な表情を浮かべる。
(さっき......しおりの手から、なにかが出なかった?)
では、肝心の妖ふたりはいったいどこへ?
まず......。
糸緒莉はお手洗いに駆けこんでいた。
駆けこんで、凄まじい勢いでスマホを打っていた。
『ちょっとナゴムくん!いまどこ!?あなた大丈夫!?』
ナゴムは、店の入ったビルから出て、脇の路地へ入っていた。
すでに彼は元のヒトの姿に戻っている。
何事もなかったように取りすましながら、ナゴムは糸緒莉に返信する。
『なんとか、大丈夫だよ。たぶんバレてない、はず...』
『なら良かったわ。まったく無茶するんだから!』
『なんか体が動いちゃうんだよ!ああいう時って』
『そ、そうなのね』(私とおなじ......)
『?』
『でも気をつけなさい!そのうちバレるわよ?』
『それを言うならそっちもだろ!それと、返したほうがいいのか?』
『かえす?』
『女郎蜘蛛の糸』
『なっ!』
『咄嗟の判断で回収したけど、どうすればいいのかわからなくて』
『ナゴムくん。女郎蜘蛛の糸って高級繊維なの知ってる?』
『え?そうなの?』
『だからお金をいただきます』
『ちょっ!』
『冗談よ。回収してくれてありがとう。おかげで私もバレずに済んだ、はず...
』
『でも、あのタイミングでいきなり二人ともいなくなったらさすがに怪しまれるよな。どうしよう』
『私に考えがある。今からこっそり戻ってきて』
『こっそり、戻れるのか?』
『大丈夫。まずナゴムくんは友達にメッセージを送って。内容は......』
『わかった!』
「あらら、やけに混んでるな~」
エレベーター待ちの団体で人が溢れていた。
ナゴムの同僚のひとりが、
「階段で行こーぜ!」
調子にノってエントランス奥の階段部へ駆け出した。
それを見て女性陣が、
「走っちゃダメだよ~」
と声を上げ、
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
と、彼が顔だけ振り向いて答えた時。
「あっ」
ちょうどタイミングよく階段から上がってきた若い女性のひとりに彼がぶつかってしまう。
「きゃっ」
女性はバランスを崩してフラつく。
彼女の足は一歩下がって階段を踏む......ことができない。
「あ......」
女性の体は、階段最上段から宙にもたれる。
このままでは転落は必至。
付近にいた誰もが「!」と、どうすることもできずに息を飲んだ瞬間である。
転落する彼女に向かい、シュィィィ!と白いなにかが凄まじい疾さで伸びる。
それは一瞬で彼女の身体へ巻きつくように絡まると、
「えっ??」
転落するはずの彼女の体を空中でビタッと留まらせた。
さらに次の瞬間、今度は黒い翼を生やした何者かがブワァッと疾風のごとく彼女に迫ると、そのまま彼女をキャッチして抱きかかえたまま、階段エリアの下の床へスタッと着地した。
「あ、ありがとう、ございます......?」
彼女は自分が何者かに助けられたことだけはわかったが、状況が飲みこめない。
周囲の人間は突然の出来事にただ茫然とするのみ。
「て、天狗......?」
彼女が言いかけたとき、その者は彼女の前から翔ぶように消えていった。
まさしく、階段エリアを鳥のように飛んで降りていったのである。
この時すでに、彼女の体に絡まっていた白い糸のようなものも消えていた。
「え、なにいまの?」
「あれ、妖じゃなかったか?」
「す、すげえ」
一同がザワつき始めると、ナゴムの同僚のひとりが、事故の加害者となりかけた同僚に向かい怒声を上げる。
「バカ!お前なにやってんだ!」
「わ、悪い......」
「おれに謝んな!あの女性に土下座してあやまれ!」
「そ、そうだよな!」
その時、他の飲み会メンバーはあることに気づく。
「あれ?ナゴムのやつ、どこいった?」
「しおりは?あのコどこいったの?」
そんな状況で、糸緒莉の同僚の茂原水希だけは、怪訝な表情を浮かべる。
(さっき......しおりの手から、なにかが出なかった?)
では、肝心の妖ふたりはいったいどこへ?
まず......。
糸緒莉はお手洗いに駆けこんでいた。
駆けこんで、凄まじい勢いでスマホを打っていた。
『ちょっとナゴムくん!いまどこ!?あなた大丈夫!?』
ナゴムは、店の入ったビルから出て、脇の路地へ入っていた。
すでに彼は元のヒトの姿に戻っている。
何事もなかったように取りすましながら、ナゴムは糸緒莉に返信する。
『なんとか、大丈夫だよ。たぶんバレてない、はず...』
『なら良かったわ。まったく無茶するんだから!』
『なんか体が動いちゃうんだよ!ああいう時って』
『そ、そうなのね』(私とおなじ......)
『?』
『でも気をつけなさい!そのうちバレるわよ?』
『それを言うならそっちもだろ!それと、返したほうがいいのか?』
『かえす?』
『女郎蜘蛛の糸』
『なっ!』
『咄嗟の判断で回収したけど、どうすればいいのかわからなくて』
『ナゴムくん。女郎蜘蛛の糸って高級繊維なの知ってる?』
『え?そうなの?』
『だからお金をいただきます』
『ちょっ!』
『冗談よ。回収してくれてありがとう。おかげで私もバレずに済んだ、はず...
』
『でも、あのタイミングでいきなり二人ともいなくなったらさすがに怪しまれるよな。どうしよう』
『私に考えがある。今からこっそり戻ってきて』
『こっそり、戻れるのか?』
『大丈夫。まずナゴムくんは友達にメッセージを送って。内容は......』
『わかった!』
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