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ep1 プロローグ
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現在、総務省の統計によると、日本全国に約四万人の妖がいると報告されている。
四万といっても今いちピンと来ないかもしれないが、だいたい全国の弁護士と同程度の数である。
といっても今いちピンと来ないかもしれないが...。
妖とは、いわゆる妖怪のことだ。
なぜ妖怪と言わないのか?
それはひと昔前、やれ差別だなんだとリベラル系の主張が世間で騒がれ、政治を巻きこみ、妖怪という呼称が使用されなくなったためだ。
今では〔妖〕という漢字もあまり使われず、行政上は〔あやかし〕表記で統一されている。
一方、当事者である妖たちのほとんどは地方出身者で、良くも悪くも伝統的な価値観を持つ者が多い。
とくに田舎の妖同士では、いまだに妖怪という呼称も当たり前に使っていたりするという。
当人達にとっては、呼称も表記も些末なことでどうでもいいのであろう。
なんだかな~と思わざるをえないが、とかく実態とはそういうものである。
なお、妖たちには大別して次の二種類のタイプが存在する。
1.妖であることを隠し、ヒトと同じ姿でヒトと同じように生活する者
2.妖であることを隠さず、妖のままに生きる者(無論、社会の常識を守り定められた法律に従ったうえで)
妖は、自らの意思により、どちらの道も自由に選択できる。
妖である以上は法律上、戸籍に〔あやかし〕と記録されるが、日常生活において開示する義務はない。
むしろ、妖が妖であることを開示するかどうかの権利は、個人情報保護法で厚く保護されているのだ。
とはいっても、先述の2のように、妖のまま妖として生きている者も多数存在する。
その多くは出身地の地方で、地域の伝統と風土に根づいた土着的な暮らしをしているのだが、なかには妖としての特異な能力を活かし起業する者もいた。
さらには、〔あやかしアイドル〕〔あやかしタレント〕〔あやかしライバー〕といった、メディアなどで人気者になった妖もいる。
なんでも若者たちの間では、〔モテるあやかしランキング〕なるものまで存在するとかしないとか。
......そんな平和な現在の日本。
東京にある某企業に、今年で社会人三年目となる妖の男が勤務していた。
「おさきに失礼しまーす」
「おつかれーす。あっ、山田」
「はい?」
「明日、朝いったん出社してから外出の予定だったよな?それ、直行でいいぞ」
「本当ですか?あざます!」
「じゃあおつかれさん」
「おつかれさまっす!」
彼の名は山田和。
三年前、就職のため、山林地方にある故郷から上京してきた青年である。
ナチュラルショートの黒髪に、どこか頼りなさそうだがスレていない、気の良さそうな顔を備えた彼は、帰路につくなり食い入るように真剣な眼差しをスマホに向ける。
(おっ!きてるきてる!イイ感じの返信がきてるぞ!)
帰宅ラッシュで混んだ地下鉄の狭くるしい座席でも、平均よりやや高めの身長だがスリムな体型の彼には問題ない。
(もう十...いや二十往復ぐらいはしてるよな?そろそろ、勝負をかけても...いや、かけないとだよな)
青年の目に宿る光がいちだんと増した。
(よし!いくぞ!)
山田和、二十四歳。
彼は今、あるモノにどハマりしている。
さて、それがなにかわかるだろうか?
スマホをいじる彼の心の声を聞いてみよう。
(アドバイスどおり、他撮りでのイイ感じの写真をアップした......)
(プロフィールをしっかり充実させた......)
(ちゃんと毎日ログインして、性格診断や趣味カード、足跡からも相性の良さそうな相手にいいねを送った......)
(メッセージのやり取りも最新の注意を払いながら......)
(できることはひととおりやった。そろそろこれらの努力が報われるとき......)
正解は......
マッチングアプリである。
四万といっても今いちピンと来ないかもしれないが、だいたい全国の弁護士と同程度の数である。
といっても今いちピンと来ないかもしれないが...。
妖とは、いわゆる妖怪のことだ。
なぜ妖怪と言わないのか?
それはひと昔前、やれ差別だなんだとリベラル系の主張が世間で騒がれ、政治を巻きこみ、妖怪という呼称が使用されなくなったためだ。
今では〔妖〕という漢字もあまり使われず、行政上は〔あやかし〕表記で統一されている。
一方、当事者である妖たちのほとんどは地方出身者で、良くも悪くも伝統的な価値観を持つ者が多い。
とくに田舎の妖同士では、いまだに妖怪という呼称も当たり前に使っていたりするという。
当人達にとっては、呼称も表記も些末なことでどうでもいいのであろう。
なんだかな~と思わざるをえないが、とかく実態とはそういうものである。
なお、妖たちには大別して次の二種類のタイプが存在する。
1.妖であることを隠し、ヒトと同じ姿でヒトと同じように生活する者
2.妖であることを隠さず、妖のままに生きる者(無論、社会の常識を守り定められた法律に従ったうえで)
妖は、自らの意思により、どちらの道も自由に選択できる。
妖である以上は法律上、戸籍に〔あやかし〕と記録されるが、日常生活において開示する義務はない。
むしろ、妖が妖であることを開示するかどうかの権利は、個人情報保護法で厚く保護されているのだ。
とはいっても、先述の2のように、妖のまま妖として生きている者も多数存在する。
その多くは出身地の地方で、地域の伝統と風土に根づいた土着的な暮らしをしているのだが、なかには妖としての特異な能力を活かし起業する者もいた。
さらには、〔あやかしアイドル〕〔あやかしタレント〕〔あやかしライバー〕といった、メディアなどで人気者になった妖もいる。
なんでも若者たちの間では、〔モテるあやかしランキング〕なるものまで存在するとかしないとか。
......そんな平和な現在の日本。
東京にある某企業に、今年で社会人三年目となる妖の男が勤務していた。
「おさきに失礼しまーす」
「おつかれーす。あっ、山田」
「はい?」
「明日、朝いったん出社してから外出の予定だったよな?それ、直行でいいぞ」
「本当ですか?あざます!」
「じゃあおつかれさん」
「おつかれさまっす!」
彼の名は山田和。
三年前、就職のため、山林地方にある故郷から上京してきた青年である。
ナチュラルショートの黒髪に、どこか頼りなさそうだがスレていない、気の良さそうな顔を備えた彼は、帰路につくなり食い入るように真剣な眼差しをスマホに向ける。
(おっ!きてるきてる!イイ感じの返信がきてるぞ!)
帰宅ラッシュで混んだ地下鉄の狭くるしい座席でも、平均よりやや高めの身長だがスリムな体型の彼には問題ない。
(もう十...いや二十往復ぐらいはしてるよな?そろそろ、勝負をかけても...いや、かけないとだよな)
青年の目に宿る光がいちだんと増した。
(よし!いくぞ!)
山田和、二十四歳。
彼は今、あるモノにどハマりしている。
さて、それがなにかわかるだろうか?
スマホをいじる彼の心の声を聞いてみよう。
(アドバイスどおり、他撮りでのイイ感じの写真をアップした......)
(プロフィールをしっかり充実させた......)
(ちゃんと毎日ログインして、性格診断や趣味カード、足跡からも相性の良さそうな相手にいいねを送った......)
(メッセージのやり取りも最新の注意を払いながら......)
(できることはひととおりやった。そろそろこれらの努力が報われるとき......)
正解は......
マッチングアプリである。
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