しにかけの転生者~しにかけた中年はしにかけた青年に転生し異世界で魔剣使いになる~

根上真気

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終章

ep164 クロー・ラキアード

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 *

 カレンが牢屋の前に立った。
 キラースはそれに気づいていたが、声を出さなかった。
 彼女のそばに、勇者アレスがいたから。

「クロー」

 カレンの呼びかけにクローは応えない。
 こちらに背を向けて体を横たえている彼は、眠っているように見える。

「寝ているのか?」

 言いながら彼女はガチャッと解錠した。
 きぃーっと扉が開かれた。
 カレンがクローに歩み寄る。

「クロー。ここから出られるぞ。兄様の合意もいただいた。今後のことはこれから兄様も含めて話し合う必要があるが」

 クローの返事がない。
 カレンは彼の肩に手を伸ばして目覚めさせようとする。
 とその時。
 勇者アレスがぴくっとして後ろへ振り向いた。

「誰だ?」

 突如、誰もいないはずの牢屋の扉付近に、手品のようにパッと数名の者が出現した。

 兄の声に反応したカレンも振り向くと、
「え??なぜお前たちがここに??」
 声を上げて驚いた。
 なぜなら、そこにいるはずもないクローの仲間たちがいるから。

「お前は...」

 カレンは驚きを重ねた。
 クローの仲間たちの中心に、ジェイズとクローの闘いの時に目にした謎の女がいたからだ。

「クロー!」

 想い人の姿を見た瞬間、まわりを押しのけてエレサがクローへ駆け寄った。
 それにシヒロもつづいた。

「クロー!助けにきたよ!」
「クローさぁん!!」

 アレスは怪訝な表情でカレンを見る。

「これはどういうことだ」

「兄様!わ、私にもわかりません!」

 実は彼女はピンと来ていた。
 謎の女の能力なのではないかと。
 しかし口をつぐんだ。
   
「カレン。すまない」

 アイが申し訳なさそうに言った。

「あたしにも予想外だった」

「いや、私はいいが、兄様の心象を悪くしなければいいのだが...」

 カレンは兄の顔色をうかがうが、勇者はそれ以上なにも言わない。
 ただクローたちを眺めるだけ。

「クロー?どうしたの?」
「クローさん?」

 エレサとシヒロは互いに顔を見合わせた。
 どういうわけかクローからの反応がまったく返ってこない。

「クロー?眠っているの?はやく起きて」
「クローさん!ここから出られますよ!起きてください」

 クローはぴくりともしない。
 この時、直感的にどきりとしたシヒロは、反射的に彼の首筋に手を当てた。

「えっ??」

 彼女は即座に彼の手首にも触れる。
 
「えっ、な、なんで、どうして......」

 シヒロの様子がおかしい。
 室内に不穏な空気が流れる。

「シヒロ?どうした?」

 カレンとアイがたずねた。
 だがシヒロは返事をしない。

「嬢ちゃん?」

 トレブルとブーストも疑問を浮かべた。
 そんな中、エレサがにわかにガタガタと震えだし、クローの身体をゆすった。

「クロー?ねえクロー?どうしたの?なんで目を覚まさないの?」

 その時、シヒロがエレサの手をぐっと掴んで止めた。
 エレサはシヒロの顔を見ると、一気に血の気が失せた。

「クローさんが......」

 シヒロの白い頬に、一筋の涙がつたっていたから......。
  
「......!!」

 エレサは声にならない声を上げて再びクローの身体をゆすった。
 クローのからだは、力無く、重々しく、だらんと仰向けになった。
 
「あ、あ、あ......ああああ!!!!」

 エレサが絶叫した。
 シヒロはその場で泣き崩れた。
 全員が悟る。
 何が起きたのかを。

「遅かったようですね。フフ......」

 謎の女がつぶやいた。
 その声は誰の耳にも入らなかった。

「クローさぁぁぁん......」

 少女の涙が青年の亡骸にぽたぽたとこぼれ落ちた。
 不毛な大地へ無為むいに雨が降り注ぐように。

 獄中でひとり、クロー・ラキアードは亡くなった......。
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