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終章

ep163 何者?

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 *
 
 ジェイズとカレンが勇者との交渉を進めている頃。
 アイを加えたクローの仲間たちは、地下牢獄のある某所付近の森に身を潜めていた。

「うまくいくといいですね」

 シヒロが心配そうにつぶやいた。

「なにも起こらなければいいですが」

「当たり前だぜ!」
「そうなりゃおれたちも捕まりかねねえ!」

 トレブルとブーストが勘弁してくれと言わんばかりに言った。
 
「でもきっと大丈夫だぜ嬢ちゃん!」
「ジェイズの親分がなんとかしてくれるさ!」

 ふたりの言葉を受けて、
「そうだな。あたしたちの出番がなければいいんだがな」
 アイが言った。

 彼らはジェイズの交渉がうまくいかなかった時のために隠密に出陣していた。
 交渉が失敗した場合は、アイの偸盗術を駆使してクローを脱獄させようと考えていた。
 収監施設についての情報はカレンからアイに教授されていた。
 
「今さらですけど...」

 ふいにシヒロがアイに話しかける。

「なぜ、アイさんたちはここまでしてくれるんですか?」

「それはボスがそう決めたからだ」

「でも、ジェイズさんがクローさんにそこまでする義理は...」

「ある。クローはヘッドフィールドを守ってくれた。お前を拉致して敵対していたにも関わらずな。それはマーリスやキラースが共通の敵だとかは関係ない」

「そうですか」

 なぜかシヒロは自分のことのように嬉しい気持ちになった。
 クローさんのやったことがちゃんと人に伝わっている。
 クローさんのことがちゃんと認められている。
 やっぱりクローさんは英雄だ!

「必ず、うまくいくはずです!」

 気を持ち直したシヒロは明るく言った。
 アイとトレブルとブーストは微笑んだ。
 そんな中、エレサひとりだけはずっとだんまりだった。

「エレサさん。あと少しでクローさんに会えますよ」

 シヒロがやさしく声をかけると、やっとエレサは「うん」とだけ答えた。


 しばらくすると......。


 突然、アイが何かに反応する。
 
「誰だ?」

 一同、一斉に警戒態勢をとる。
 だが周囲には何者の姿もない。
 一筋の風がひゅうっと木々の葉を揺らす。

「......」

 張りつめた静寂の中。
 ふと木の枝から妖精が舞い降りるかのように、不思議な光を纏った謎の女がふわっと降りてきた。

「......お前はまさか、あの時の?」

 アイがその女に見せた反応に皆が驚く。

「アイさん?あの白い服の女の人を知っているんですか?」

「あの女は...ボスと戦っていた時にクローを助けた女だ」

 女は音もなく地面に足をつけると、彼らに向かってゆっくりと口をひらいた。

「時間がありません」

「時間がない?」

「とにかくお急ぎください」

「待て。それはなんの話だ?そもそもお前は何者なんだ?」

 アイが疑念たっぷりに問いただした。

「お前がクローの味方だとしても、それなら今までどこで何をしていた?」

「質問が多いですね。ひとつひとつお答えしたいところですが、その時間もありません」

「時間とはなんだ?」

「今からワタクシが貴女たちをクロー様の元まで運んで差し上げましょう」

 女はアイの質問にはいっさい答えず淡々と話した。
 アイがやや苛立った様子であらためて問い詰めようとすると、エレサが身を乗りだす。

「お前がわたしを今すぐクローの所へ運んでくれるのか?」

 女はこくんと頷いた。

「なら頼む!」

「承知しました」 

「待て!」
 アイがふたりの間に割って入った。
「落ち着けエレサ。この女は信用できるかわからない」

「アイさん。その人はたぶん大丈夫だと思います」

 なぜかシヒロが女を支持した。

「根拠はあるのか?」

「なんとなく...わかるんです」

「なんだそれは。そんな答えで納得できると思うか」

「ぼくはその人の存在を...クローさんと出会った時から感じていた気がするんです」

「そう言われてもあたしにはわからない」

「あの...」とシヒロは女に尋ねた。
「今までぼくたちのこと、助けてくれましたよね?」

「貴女はシヒロですね。貴女のことはクロー様を通してずっと見ていました。貴女には魔法の才があり、感受性にも優れていますね」

「ぼくのこと、わかるんですか?」

「はい。それで質問の答えですが、ワタクシはクロー様へちょっとした助力を提供したに過ぎません。その力を利用して脅威を打ち払ったのはあくまでクロー様です」

「わかりました。ではぼくたちを今すぐクローさんの所へ送ってください」

「なっ!」

 シヒロの言葉にアイは驚いたが、もはやエレサとシヒロに何を言っても無駄だと悟ると、反論を控えた。

「わかった。もう好きにしてくれ。ただ、あたしの指示には従ってもらうぞ」

「意見がまとまったようですね。それではさっそく貴女たちをクロー様の元へ送りましょう」

 女が一行へ向かい手をかざした。

「時間がありませんので」

「ちょっと待ってくれ。送るとは具体的にどういうことなんだ?」

 アイが女を制止して質問するが、女は意に介さなかった。

「さあ、行きましょう。〔空間転移〕」

 次の瞬間、一同はその場から忽然こつぜんと姿を消した。
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