上 下
146 / 167
魔剣使いの闘い~狂戦士編

ep146 魔剣使いvs狂戦士⑥

しおりを挟む
「手応えはあったが......効いていないのか?」

「効いたさ。ここまでやられたのは久しぶりだな」

「お前はいったい......」

「オレに〔狂戦士バーサーカー〕と名付けたのは誰だかわかるか」

「は?いきなりなんの話だ」

「魔王だよ」

「!!」

「魔王の前で側近とシバキあってた時、あの人がオレに向かって言ったんだ。お前は〔狂戦士バーサーカー〕だと」

「......」

「そしてそれは、この能力によるものだろう」

 ジェイズが両拳を握り、魔力を練り始めた。
 俺がサッともう一歩退いて、
「なにをやるつもり...」
 言いさしたとき。

 辺りに飛び散ったジェイズの血が、まるでジェル状の生き物のようにズズズズ~ッと奴に向かって集まりはじめる。

「な、なんだ?」

 血は奴の足元からうように、奴自身にまみれた血も飲み込んで全身の傷口から染み込んでいく。
 それにともない奴の身体から、まるで血脈がき出しになるように、刺青いれずみのような筋が浮かび上がる。
 
「傷がふさがった.....いや、傷がタトゥーになった!?」

 まもなくジェイズは脱力すると、ニヤッと危険な笑みを浮かべる。

「オレは流した自分の血を、己の肉体を強化する物質に変換することができる。錬金魔法でな。
 魔王をして〔狂戦士バーサーカー〕と言わしめた所以だ。
 これがオレの特殊技能スペシャリティ戦闘人形化マスターオブパペット〕」

「自分自身を死ぬまで戦う戦闘人形にするってわけか...」

「それは少しちげえな」

「?」

「敵が全員死ぬまでだ」

 大地がうごめく。
 大気が震える。
 ジェイズの圧力が何段階も上昇した。
 たださえ凄まじかったものが、さらに凄まじいものに。
 全身がヒリヒリする。
 まるで目の前に地獄の業火が燃え盛っているようだ。

「ここからが本番ってわけか」

「もうめんどくせえ小細工は抜きだ。こっからはブッたおれるまでシバキ合いだぜ。せっかく久しぶりにアツくなってんだ。まだまだ楽しませてくれよなぁ?魔剣使い!」

 ジェイズは不気味にぬらりとしたかと思うと、恐ろしい悪魔のように襲いかかってきた。
 漆黒の長髪を振り乱し襲いくるは暴虐の獣か。
 押し潰されそうな圧迫感。
 巨大な怪物のような迫力。
 俺はすぐに悟った。
 ......退がったら負ける!

「ハァッ!」

 俺も一足飛びで斬りかかった。
 
 ガギィィィィィン!!

 剣と拳が交錯する。
 奴はそこから鋼鉄の拳をガンガンガンガン!と連打してくる。
 俺の剣もザンザンザンザン!と旋風の如く奴を斬りつける。

 ズバァァァァッ!!
 
 俺の剣が奴の肩あたりを深く刻んだ。
 鮮血がほとばしる。

「!」

 次の瞬間、ゴォォン!と奴の拳が俺の側頭部を撃ちつけた。
 頭が揺れる。
 足元がふらつく。
 意識が飛びそうになる。
 だが、奴だって効いているはず。
 
「倒れるには早いぜぇ!クロー!」

 奴の次撃が飛んでくる。
 今度は蹴りだ。
 おそらくインパクトの瞬間に錬金魔法で強化するんだろう。
 連続で喰らうのはマズい。
 ならば......!
 ふらついた俺はそのまま体勢を崩したと見せかけて、その動きを利用してクルッと回転すると、前方にグッと体重をかけて剣を思いきり振り抜いた。

 ズパァァァァッ!!

 ジェイズの体を斜めに斬り抜いた。
 予想外の動きに奴はモロに被弾した。
 ましてや攻撃から攻撃に移るタイミングでのカウンターでの被弾。
 先撃と合わせて相当に効いたはず。
 ここで一気に畳みかける!

「!?」

 俺の体が浮いた。
 視線を下げると、奴の蹴りが俺の腹へ突き刺さっていた。

「ぐっ...!」

 でも体重は乗っていない。
 それでもザザザザーッと数メートル退がらされる。
 俺は歯を食いしばって足を踏ん張った。
 相変わらずキツイ威力...だが、まだ大丈夫だ。

「魔剣使い...いや、クロー。お前はやっぱりおもしれえ」

 ジェイズは血をぬぐいながら笑みを浮かべた。
 血は相変わらずズズズズ~ッと奴の体へ集まる。
 ジェイズは被弾しながらも絶えず己の身体を強化させている。
 こうなると、あらゆる魔法を斬り裂く〔魔導剣〕の効果もあるのかないのかわからない。

「俺は別におもしろくもないけどな」

 実際、このまま続けても分が悪いだろう。
 奴はいくら斬りつけても血で己を強化できるし、あまりにもタフすぎる。
 限界はあるだろうが......おそらくその限界まで俺がもたない。
 俺も奴のように自分で自分を強化できれば......いや、できるかもしれない?

「やってみるか......」

 謎の声がやったように、できるかもしれない。
 いや、できる。
 なぜか確信がある。

「どうした?なにをすんだ?」

 ジェイズが口をひらいた。
 俺を奴を見すえると、おもむろに自分の胸に自分の剣を突き立てた。
 ......アイツは自分を信じろと言った。
 大丈夫だ。
 俺ならできる!

「うぅっ!!」

 自らの胸にぶっすりと剣を突き刺した。

「血迷ったか!?いや...」

 俺の突然の自傷にさすがのジェイズも一驚いっきょうした。

「なっ!クロー!?」
「魔剣使い!?」

 カレンとアイも驚いている。
 それはそうだろうな。
 どう見ても異様な光景だ。

「!!」

 ......きたぞ!
 俺の中で......力がみなぎってくる!

「ああぁぁぁぁ!!」

 数秒後......ずぷっと剣を抜いた。
 血は出ていない。
 痛みもない。
 うまくいったようだ。
 これならば......まだまだ戦える!

「じゃあ、続きをやるか」

 俺は剣を持ち直し、相手を睨んだ。
 ジェイズはなぜかうつむいてクスクスと震えだすと、
「クククク......ハッハッハァ!!」
 大声で笑いだした。

「なんだ?」

「クロー!テメーはマジでイカれてやがるなぁ!」

「あんたも大概だと思うが」

「ハッハッハァ!オマエ最高だぜ!」

 ジェイズはしばらく笑い続けた。
 やがて笑いがおさまると、その眼が生き生きと輝きを増した。

「クロー。死ぬまでろうぜ」

「それは勘弁だな。だが、お前を倒すまで斬り続ける!」

「上等だ!」

「行くぞ!」

 互いに向かって互いに飛び込んだ。
 ガギィィィン!!
 再び剣と拳が激しく交錯する。

 この時、ギャングたちから逃れてこの場にたどり着いたエレサが、
「クロー!!」
 と叫んだらしかったが、耳には届かなかった。
 俺の体も心も、闘いのマグマに完全に呑み込まれていた。
 目の前の〔狂戦士バーサーカー〕と同様に......!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...