しにかけの転生者~しにかけた中年はしにかけた青年に転生し異世界で魔剣使いになる~

根上真気

文字の大きさ
上 下
50 / 167
魔剣使いの闘い~ロットン編

ep50 シヒロ

しおりを挟む
【登場人物】
クロー・ラキアード:主人公の青年。銀髪の魔剣使い。転生前は中年のおっさん。
シヒロ・モリセット:作家を目指す少女。魔法が使える。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺が住んでいた...というより、クロー・ラキアードが住んでいた街〔クオリーメン〕を出てからもう一ヶ月が過ぎていた。

 この間にも幾度となく〔フリーダム〕と遭遇し、ヤツらと戦闘を繰り広げた。
 もっとも遭遇といっても、行っているのだが......。

 俺はヤツらをことごとく蹴散らした。
 俺が〔魔導剣〕を振るうことで、少なからず平穏に暮らす人達を助けることができていると思う。
 おかげで〔国際平和維持軍〕に目をつけられてしまっているようだが、そんなことはいい。
 残り少ない人生。俺はこの力を使って、自分のできる事を、為すべき事をやるだけだから。

 つい先日のこと......。

 俺はまた〔フリーダム〕と一線を交え、ヤツらを撃退することに成功する。
 が、その日の勝利は、それまでにない特殊な結果をもたらした。

「クローさんは、書物は読みますか?読むならどんなものを読むんですか?どんな書物が好きですか?はじめて読んだ書物はなんですか?最近読んだ書物は?」

「質問が多いな......」

「あっ!す、すいません!つい!エヘヘ...」

 小さな宿場町の民宿の食堂で食事をしながら顔を突き合わせている相手はシヒロ。
 先日の戦いを経て、どういうわけか俺の旅に同行することになった子だ。
 ショートボブっぽい頭に帽子を被り、全然女の子っぽくない旅姿をした童顔で背の低い彼女は、一見すると可愛い顔をした少年にも見える。
 しかし実際は十六歳の女の子で、十五歳で成人のこの世界においてはすでに立派な成人女性ということになる。

「ひょっとしてクローさんは、小説読んだりする人なのかなぁって、勝手に思ってしまいまして......」

 シヒロはへへへとはにかんだ。

 この子は少し変わった子だった。
 なんでも小説を書くために旅をしているんだとか。
 転生前の世界なら特に驚くことはないが、この世界で作家を目指している女の子って、かなり珍しいんじゃないだろうか。
 俺は彼女のキラキラした瞳を見ていると、まだ純粋に夢を目指していた頃の昔の自分が思い起こされた。
 それは苦痛ではなく、あたたかい懐かしさとともに。

「書物か......本はよく読んだなぁ」

 俺は遠くを見つめて転生前の自分を思い出しながら言葉を漏らした。

「そ、そうなんですか!?どんな本を読まれたのですか??」
 シヒロは目を煌めかせて前に乗り出した。

「あっ、えーと......」
 
 間違えた。
 よくよく考えると、本を読んでいたのは転生前の話で、こちらの世界に来てからの俺は本なんぞてんで読んでいなかった。

「クローさんが読んでいた本の話、聞きたいです!」
「いや、まあ、なんだ」

「もったいぶらないでください!」
「じゃなくて......そうだ!」

「?」

「俺が読んでいたのは異国の本だったから、特殊なものばかりだったんだ。なんていうか、説明が難しいんだよ」

「異国の本!?おお!!」
「俺のことよりシヒロはどうなんだ?」

 ここぞとばかりに相手の話に切り替える。

「ぼくが読む本ですか?」
「そうだ。シヒロはどんな本を読むんだ?」

「一番好きなのはやっぱり小説です!でも、興味あるものはなんでも読みますよ!」

「魔導書とかも?」

「えっ?あっ、いえ、それは......」

 シヒロは急にきょろきょろとまわりを気にし出し、さらに身を乗り出して、
「そ、そんな話をこんな所でいきなりしないでくださいよ!」
 小声で注意してきた。

「魔導書は焚書扱いだったもんな」
「そうですよ!」

「俺は持ってるけどな」
「あ、そうなんですね。って、えええ??」

 シヒロは目をひんむいて驚いた。

『教えてしまって良いのですか?』

 謎の声が口を挟んできた。
 もちろん聞こえているのは俺だけ。

『俺の旅に同行するんだ。その方がいいだろ』

『彼女にとっても貴方自身にとってもリスクとなる可能性がありますよ?』

『だからこそだろ?そもそも魔導書を持っていること自体がリスクなんだ。シヒロの同行を許可したからには、シヒロにはリスクを知らせておくべきだろ。じゃないと公平じゃないと思う』

『そういう考え方ですか。わかりました。ではクロー様の仰せのままに』

『まあ、理由はそれだけでもないけどな』

『ほほう?』

 俺はシヒロの目を見ながらスッと手を伸ばし、テーブルの上を指でコンコンと叩いた。

「く、クローさん?」

「シヒロは、どうやって魔法を覚えたんだ?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ!

根上真気
ファンタジー
これは、元やり手営業部長の青年が、その営業力を駆使し、転移した異世界で起業して成功する物語。しかしその道のりは困難の連続だった!彼の仲間は落ちぶれた魔導博士と魔力量だけが取り柄のD級魔導師の娘。彼らと共に、一体どうやって事業を成功させるのか?彼らの敵とは何なのか?今ここに、異世界に降り立った日本人青年の、世紀の実業ファンタジーが幕を開ける!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...