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旅の少女編

ep42 謎の男

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 そんなふうに呟いたときです。
 テーブルにふっと影がさしたので、ぼくはふと顔を上げました。
 すると、髭面の太ったオジサンがぼくのテーブルにくっつくように立っていて、ぼくを見下ろしていました。

「んん?ぼくちゃん、こんなとこでなに読んでやがんだ?」
「あっ......」

 オジサンはぼくに声をかけるやいなや、創作ノートをパッと掴み取ってしまいました。

「なんだこれ?ぼくちゃんの日記か?いや......なんだ?これは.....あれか?ひょっとして......ショーセツとかいうヤツか?」

「か、返してください!」

 ぼくは手を伸ばして取り返そうとしましたが、オジサンはぼくの弱々しい手を払いのけ、取り上げたまま返そうとしません。
 
「ぼくちゃん、今いくつだ?」
「ぼ、ぼくは、十六ですけど」

「十六だって?ならもう成人してんじゃねえか!」
「そ、そうですけど」

「オイオイ、成人してんのにまーだこんなお子ちゃまみたいなことしてんのか?だいじょーぶかよオメー」

「い、いいから返してください!」

「それともあれか?まさかオメー、作家とかいうやつを目指してやがんのか?」

「だ、だったらなんなんですか?」

「マジか?マジなのか?」

「い、いけないんですか?」

「ぷっ!ギャッハッハ!マジか!ギャッハッハ!」

 髭面のオジサンは、吹き出したと思ったら、でっぷりした腹を抱えて狂ったように笑い出しました。
 ぼくはまわりの目が気になり、被っていた帽子をさらに深く被り直しました。

「ぼくちゃん、ずいぶんとオメデタイやつだなぁ?作家になるなんて、この世で一番難しいかもしれねーぜ?いくら世界が平和になったからってよぉ?そいつは無理ってもんだぜ!ギャッハッハ!」

「わ、わかりましたから、返してください!」
 ぼくは席を立ち上がって、オジサンの手に飛びつくようにノートを取り返そうとしました。

 しかし、オジサンは愚弄しきった表情で、
「まあまあ落ち着けよ!頭がお花畑ちゃん!」
 ぼくをドンと突き飛ばしました。
 
「あぁっ!」

 ぼくは床にどっと転がってしまいました。
 店内の視線が一気に集まります。

「なんだなんだ?」
「ケンカか?」
「まーたあのオヤジか。あの少年も気の毒だな~」

 オジサンはのっしのっしと歩いてきて、倒れたぼくを覗き込むように屈むと、ぼくの帽子に手を当ててきました。

「な、なんですか。ノートを返してください」
「だったらまずは、ちゃんと顔見せろよ!」

 オジサンはそう言って、今度はぼくの頭から帽子を剥ぎ取りました。
 
「オイオイ、男のくせにずいぶんと可愛らしい顔してんなぁ?いや、その襟首ぐらいの髪の長さに細い首。オメー......」

 オジサンはぼくの顔をじっと見てから、おもむろにぼくの胸元あたりへ手を伸ばしてきました。
 ぼくはその手をパシッと払いのけて、思わず隠すように両腕で胸を覆いました。

「オメー、やっぱり、女だな?」
「だ、だったら、なんですか......」

「男の服着てっから、タッパの低い少年だと思っていたが、十代の女の子ってか」
「......」

「ギャッハッハ!マジか!ウケるぜこりゃあ!ギャッハッハ!」
「こ、今度はなんですか」

「てことはよぉ?十六歳の女が作家目指してるってことだよなぁ!?どんだけ夢見りゃ気が済むんだよオメー!ギャッハッハ!」

「そ、そんなの、あ、あなたには関係ありません」

「ああ関係ねえな!関係ねえから、こんなノート、どーでもいいよ...なっ!」

 吐き棄てたと同時に、オジサンはノートを放り投げました。
 ノートは無防備に放物線を描き、他のお客さんのテーブルの上へ飛んでいきました。

「ああ......!」

 ぼくはバッと立ち上がりました。
 でも、もう遅いです。
 運悪く、ぼくのノートの落下地点と思われる場所には、スープ皿が何皿も待ち構えていました。

 ぼくは走り出そうとしましたが、もうどうにもなりません。
 間に合いようがない。

 その時です。

「!」

 パシッと、何者かが、ぼくのノートをすんでのところでキャッチしたのです。
 その人がいつそこに現れたのか、ぼくはまるで気がつきませんでした。
 いや、ノートを投げた本人であるオジサンも、周囲の人達も、誰もが気づいていなかったように思います。

「な、なんだあの男は?」

 周囲が一驚する中、その人はぼくに向かって近づいてきました。
 銀髪の、とても綺麗な顔をした男の人で、冒険者のような身なりをしています。
 なぜかぼくは、その人の雰囲気に、どこか不思議なものを感じました。


※設定イメージ(画像のみAI)
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