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魔剣士誕生編

ep29 鬼神

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「......俺が、やった......のか?」

 俺は今、この剣で、そいつを殺した。
 なぜかって?
 パトリスが殺されたから。
 そうしないと、俺も殺されるから。
 だから、殺した。人を......。

「......うぅっ!おえぇぇぇぇぇ!」

 突如、抑えられない吐き気に襲われる。
 俺は膝をついてうずくまる。

「おぇぇぇぇ......」

 目の前で人が殺されるのを見た直後、今度は俺が人を殺した。
 俺が、惨殺した。
 人を。俺が、俺が、俺が......!
 俺は......人殺しに、なってしまった......。
 
『いいのです』

『!』

『それで、いいのです』

『いいって......なにが』

『今、貴方がしたことです』

『いいわけ、ないだろ......こんなこと』

『今にわかりますよ』

『......』

『大丈夫です。深淵なる神秘の存在であるワタクシが、貴方を肯定します。だから、貴方はその剣を持ち、立ち上がるのです』

『ムリだよ......』

『その剣を持ち、戦うことは、貴方にとって大きなを与えることになるでしょう』

『いみ?』

『貴方は今、大きな力を得ました。貴方はその力を、どう使いますか?』

『......』

『その力を使わずに塞ぎ込むのですか?その力を使い戦うのですか?』

『戦うったって......』

『あの連中は他にもいます。それはこの屋敷だけではありません。街もです。貴方が戦わなければ......いえ、これ以上は申しません』

『それって、どういう......』

『貴方が求める意味は、貴方が立ち上がる先にあるでしょう。さあ、クロー様。あとは貴方次第です』

『そんなこと言っても......』

『難しく考える必要はありません。話は簡単です』

『......』

『あの仮面の者どもを、全員、たおせばいいだけです』

『!』

『貴方のやることは、実にシンプルです。
 貴方は大丈夫。いえ、すぐに大丈夫になります!
 なぜなら貴方は、深淵なる力を纏し魔導剣を振るう者、クロー・ラキアード!
 さあ、深淵なる魔導剣士よ!立ち上がりなさい!』
  
 なんだ?心が......落ち着いた。
 謎の声に叱咤されて、心の荒波が、深海のように静まった。
 
「......」
 
 そんな簡単にいくものなのか?
 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
 落ち着いたならそれでいい。
 とにかく、塞ぎ込んでいてもしょうがないんだ。

『(ふたつめの制限が解除されました)』

 俺はすっくと立ち上がり、剣をググッと握りしめる。

「俺は、戦える......。仮面のヤツらを、全員......」

 ......ここから先の俺は、まるで俺ではないみたいだった。
 無意識でもなければ暴走しているわけでもない。
 俺はただひたすら無心に敵に向かい、剣を振るった。

「!」

 部屋を飛び出した俺は、屋敷を駆けまわった。
 白いつなぎのような服を着た仮面のヤツらは他に何人もいて、屋敷中をうろついていた。

「なんかイキのいいのがいるぞ」
「殺せ殺せ」

 俺に気づくとヤツらは一斉に向かってきた。
 ヤツらはそれぞれに剣や斧や鈍器など、色々な武器を持っていた。
 廊下で、部屋で、階段で......俺はことごとく蹴散らした。
 攻撃をかわし、弾き、薙ぎ払い、斬り落とす。
 武器と武器がぶつかりあう金属音が耳をつんざき、肉が切り裂かれる生々しい音が鳴りつづけ、痛みにむせぶ敵の悲鳴がこだまする。

 赤い霧に包まれる俺の全身。

 俺の身体は鬼神の如く立ちまわり、次々と敵をたおしていく。

「あぁ!!」

 この凄絶なる状況に、なぜ正気を保っていられるのだろうか。
 さっきまでの俺はどこにいったのだろうか。
 この剣が俺をそうさせているのか?

『(第一フェーズ、クリアです)』
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