上 下
21 / 167
魔剣士誕生編

ep21 自覚

しおりを挟む
 外は暗い。
 当然だ。
 まだ夜だから。
 それどころか、まだ日もまわっていない。
 オンナの家に泊まる予定が、まさかのその日解散。
 
「どうすっかな......でも、家に帰りたくはないなぁ」

 俺はポケットに手をつっこみ、肌寒い夜道を繁華街に向かってフラついていった。

 夜空がやけに澄み渡っている。
 綺麗な月が爛々と輝いている。
 今夜は星もよく見える。

 だが、俺には関係ない。
 俺はうつむいて肩をすぼめ、ひとりトボトボと歩いてゆく。

 飲み屋が軒を連ねる通りに出ると、なんだかいつもとは違う心持ちに気づく。

「なんだろう。なんか、景色が遠く感じるような......。おっ、あのバー、あそこなら落ち着けそうだな」

 適当なバーを見つけ、中に入る。
 客が少なく、静かで、ちょうどいい。
 女もいない。
 バッチリだ。

「ビールを」
「はい」

 口髭を生やした店主も、実に落ち着いている。
 俺はバーカウンターに座ってゆっくりと酒を飲みながら、フーッとひとつため息をついた。

「今日はいったい何なんだろう......」

 本当にこれでいいのか......だって?
 そんなこと、俺にわかるわけがない。
 だけど、なんでいきなり、こんな気持ちになったんだ......。
 
 いや、いきなりではないんだ。
 少し前から、薄々だけど、むなしさは感じていた。
 そこへ今日、パトリスがあんな顔と目であんなふうに言ってきたから......。

「残り少ない人生、遊び尽くす......」

 まさに、むかし夢に見た、酒池肉林の日々。
 肉欲のまま快楽に身をゆだねる毎日。
 元の世界では決して味わえなかったモノ。
 俺は生まれてはじめて、人生を謳歌しているような気がしていた。

「酒も、ずいぶん飲んだよな」

 俺は目の前のグラスを手に持つと、残りをいつもどおりグーッと一気に飲み干してみた。
 そして空になったグラスを勢いよくテーブルへ置こうとすると、
「あっ」
 勢いあまって投げ出して転がしてしまい、床に落としてしまう。
 俺はあわててグラスを拾うと......ハッとする。
 そのグラスが、パトリスの持っていた、ヒビの入った空のグラスと重なったから。

"本当にそれで、よろしいんですか?“

 そうか。
 そういうことか......。
 俺は気づく。

「なにも......ないんだ。空っぽなんだ」

 今の俺は、空っぽ。
 二度と注がれることのない、ヒビの入った空っぽのグラス。
 それが俺。
 残り少ない人生の時間を、酒を流し込むようにイタズラに浪費して、カラッポに過ごしているだけ。

「なにやってんだろうな、俺......」

 俺は、ミックやナオミや他の連中たちと楽しくアソんでいた。
 元の世界での俺にはロクな友達もいなかったから、仲間がたくさんできたみたいで嬉しくもあった。
 だけど、心の中で俺は、
「俺はアイツらとはちがう......」
 そう思っていた。

 アイツらのことを仲間みたいに思いながらも、どこかで自分とは線引きをし、見下していた。
 そうすることで、つまらない自分の自尊心を保っていたかったから。
 自分でもそれがバカらしいってことはわかっている。
 今さらプライドもクソもあったもんじゃない。
 だけど俺は昔からずっとそうやってきたから、それこそ今さら変えることができないんだ。

「結局、一番にイタイのは俺なんじゃないか......」

 アイツらだって、いずれはあんな場所から卒業していくんだろう。
 チャラ男のミックも、ナオミも、いずれはあんな場所から足を洗って、人並みにマトモに人生を真っ当していくのだろう。
 アイツらは俺と違ってたくましいし、まだ若い。いくらでもやり直せるチャンスだってある。

「それにひきかえ俺は......」

 身体は若いが、魂はイタイ中年のおっさん。
 なにより、もう先がない。
 タイムリミットはあと三カ月ぐらい。
 でも、だからといって、どうすることもできない。

「本当に、これでいいのか......だったら、いったいどうすればいいんだ?なにができるっていうんだ?」

 チクショウッ!
 気づきたくなかった。
 いや、そうじゃない。
 まったく気づいてないわけでもなかったんだ。 

 そう......。

 自覚したくなかったんだ!
 今さらこんなふうに考えたくなかったんだ!
 だから狂ったままでいたかったんだ!
 それをパトリスがあんな顔と目であんな言葉をかけてくるから......。

「結局、俺は、遊んでも、中途半端だったんだなぁ......」

 日をまわったころ......。

 勘定を済ませ、俺はバーを後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...