しにかけの転生者~しにかけた中年はしにかけた青年に転生し異世界で魔剣使いになる~

根上真気

文字の大きさ
上 下
7 / 167
魔剣士誕生編

ep7 エールハウス

しおりを挟む
 *

「ぼっちゃま?今から外出ですか?」

「ああ」

「どちらに?」

「街だよ。街の中心には繁華街もあるんだろ?」

「し、しかし、お身体は?」

「このとおり元気だよ。さっきがっつりメシも食ってただろ?」

「え、ええ、まあ」

「以前の......記憶を失う前のことはわからないが、今は元気なんだ。だから心配すんな」

「な、なら、私めも...」

「来なくていい。ひとりで行きたいんだ」


 ウソじゃなかった。
 本当に俺=クローは、驚くぐらい元気にピンピンしていた。

 数日前、突然フラついたクローが階段からころげ落ちて頭を打ち、それから一度も目を覚まさず、もはやベットに横たわったまま亡くなるかと思われていたらしいが。
 ついに〔神の呪い〕によって寿命も尽きたと......。

 だが、少なくとも、今の俺は元気だ。

 これは転生によるものなのだろうか。
 普通であれば、たとえ目を覚ましても、こんな状況なら体力が落ちてしまい動くのもシンドくなりそうなものだが、まったくそんなことはない。
 むしろ健康そのものといってもイイぐらいだ。

 もう残された時間も少ない。
 家でゆっくりなどしていられなかった。

「じゃあ、行ってくる」

 ハデすぎないシンプルだが上等な服に着替え、俺は夜の街の繁華街へと馬車を走らせていった。
 馬車の窓から街中を眺めると、現代的ではない、前近代的なあかりに照らされた街なみが目に映った。

 やがて馬車を降りて外に出れば、
「まるでむかしの西洋ヨーロッパにタイムスリップしてきたような......」
 世界が広がっていた。

 俺は異国情緒に胸ふくらませ、〔神の呪い〕のことも忘れてワクワクしながら、小洒落こじゃれ酒場エールハウスまで、使用人に案内させた。

「クローさま。本当におひとりで大丈夫で?」

「なんだお前もパトリスと同じことを言うな?」

「そ、それは......」

「いいから、あとは馬車に戻って待っていてくれればいい」

「は、はい。では、こちらが街一番のエールハウスです」

「おう」

 街一番というだけあり、大きな屋敷のような建物。
 鎧戸やカーテンで窓から中が見えなくなっているが...。 

「たしかにここであれば安全でありましょう。
 評判も良く、貴族の人間がおしのびで訪れることもあるそうです。
 それこそおひとりで足を運ぶ御婦人もいらっしゃると聞きます。
 とはいえ、当然いろんな方がいらっしゃるでしょうから、変なやからを見つけたときはくれぐれもお気をつけください」

 安心できる情報を使用人は与えてくれた。

「元の世界でいうところの...クラブ的な感じなのかな?それともパブ?よう知らんけど」

「は?」

「いや、なんでもない。じゃあまたあとでな」

「あっ、クロー様...」

 まだなにか言いたそうな使用人をふりきり、俺は街一番の酒場エールハウスとやらのドアを開け、中へと入っていった。
 

「広いな......テープル席もあるけど、壁ぎわ以外はスタンディングがメインなんだな...」

 大人しく飲んでいる者もいれば愉快にステップをふむ者もいる。
 あでやかに着飾る女性もいればそれをハントするように見つめる男性もいる。
 すでにずいぶんと仲良くやっている男女もいる。
 店内はたくさんのヒトと音と酒のニオイが入りまじり、まさしく〔夜〕に華やいでいた。

「ヒト、たくさんいるな......」

 みんな、この街の人間なんだろうか。
 楽しそうにしてるなぁ。
 俺以外にひとりの客はいるのかな......。

「と、とりあえず一杯たのむか...」

 俺はおずおずとバーカウンターに進んだ。

「はい、どうぞ」
「あっ、えっと、び、ビール?ください...」

 酒を注文しながら、自分があきらかに気後れしていることに気づいた。
 豪遊するぞ!などとエラそうに意気込んでいたくせに...。

 グラスを受け取って近くのカウンター席に座ると、ぼんやりと転生前の自分を思い浮かべた。
 
「よくよく考えたら、こういうパリピがワイワイするよーな所に来て、どーこーすること自体、今までなかったよな......」

 そう。
 俺には経験がなかった。
 いわゆるアソビってやつの経験が!

 見た目やステータスや生きる世界が変わったからといって、しょせん中身はダメダメ中年の俺。
 人生残りあとわずかだとわかっても、あいかわらず煮えきらない俺......。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ!

根上真気
ファンタジー
これは、元やり手営業部長の青年が、その営業力を駆使し、転移した異世界で起業して成功する物語。しかしその道のりは困難の連続だった!彼の仲間は落ちぶれた魔導博士と魔力量だけが取り柄のD級魔導師の娘。彼らと共に、一体どうやって事業を成功させるのか?彼らの敵とは何なのか?今ここに、異世界に降り立った日本人青年の、世紀の実業ファンタジーが幕を開ける!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...