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ep76 サッドプログラム②

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 しばらくして......。

 昼になりイヌヨが呼びに来たので、俺は下に降りていって食卓についた。
 卓上には高級感の漂うセイロに盛られた蕎麦が上品に待ち構えていた。
 ......とまあ、ここまではいい。

「ええっと...なにをしようとしてるんだ?」

 隣にぴったりとくっついて座るイヌヨに尋ねた。

「お蕎麦そばなだけに、おそばに付き添わせていただこうかと......」

 イヌヨはやや恥ずかしそうに答えた。

「はあ。じ、じゃあ、つゆが入った器と箸をイヌヨが持っているのはなぜ?」

「そ、それは...イヌヨが、食べさせて差し上げようかと......」

「そ、そこまでしなくていいよ!(麺でアーンをやるか!?フツー)」

「で、でも、ネーコお姉さんたちはやっていたのではないの?」

「ずっと自分で食べていたから!」

「そ、そうなのね。で、でも...イヌヨのこと、特別っておっしゃっていたわ」

「は?」

「先ほど、イヌヨはフミヒロさんの特別だって......」

「そ、そういう意味じゃないよ!?」

「えええ??じゃあどういう意味なの??まさかイヌヨは、もてあそばれてしまったの!?」

「違うから!とりあえず落ち着いてくれ!」

「いえ、悪いのはイヌヨのほう。イヌヨが勝手に勘違いして勝手に裏切られた気分になっているのね、きっと。だってイヌヨは、ダメなコだから......」

 イヌヨはがっくりと肩を落とした。

「なんでそーなる!?」

「ああ。イヌヨはフミヒロさんにとっていてもいなくても構わない存在なんだわ......」

「いやいや待って待って飛躍しすぎだから!」

「生れて、すみません......」

「太宰か!」

「いえ、製造されて、すみません......」

「そこ厳密だな!確かにアンドロイドだからそうだけど!」

「恥の多い生涯を送ってきました......」

「もういいから!わかったよ!イヌヨが食べさせてくれ!」

 俺が折れた。
 というか、もはや折れるしかなかった。

「ほ、本当に?」

 イヌヨが顔を起こした。

「ああ本当だよ!イヌヨに食べさせてもらいたいなぁ~!!」

 こうなったら嘘でもなんでも乗り切るしかない。

「う、嬉しい!フミヒロさんは、テレていらしたのね」

 イヌヨの顔がぱぁっと明るくなった。

「そうだよ!テレていただけだよ!じゃあイヌヨ!お願い!」

「は、はい!」

 そうして......。
 イヌヨによる「あーん」で、俺は蕎麦を完食した。

 ......今回のことで、気づいたことがふたつある。
 ひとつは、イヌヨの〔サッドプログラム〕がかなりメンドクサイということ。
 もうひとつは、蕎麦の「あーん」は、自分でつゆの浸し具合をコントロールできないので、味の濃さを調節できないということ!

(うん......だからなに!?)
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