美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気

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ep73 美少女アンドロイド

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 *
 
 翌日。

 俺は朝からずっとベッドでボーッとしていた。
 ここ最近は日課になっていた朝のランニングもやらなかった。
 勉強もしていない。

「ああ、何にもやる気でないや......」

 なにげなく漫画を手に取ってみても、読みかけてすぐに横に置いた。
 完全に無気力になっていた。
 
(まるで、不登校になったばっかりの頃に戻ったみたいだな......)

 ふとそんなことも思った。
 その瞬間、俺の中で嫌悪感のこもった拒否反応に火が生じた。

「マズイマズイマズイ......ちょっと散歩してこよ」

 突如として無理矢理いきり立つように起き上がると、上着を取りあげて羽織はおりながら部屋を飛びでる。
 気がつけば靴を履いて玄関のドアの取っ手を握っていたが、
「なんで急いでるんだ?俺......」
 そう思って途端にしょんぼりとする。
 それから急にとてつもなくめんどくさくなった。

「でも、靴も履いちゃったし......」

 それでも弱々しくドアを開けて表に出た。
 すると、高さ九十センチ程のダンボールの箱が目に入る。

「ん?置き配?母さん、なんか注文してたのかな?家電かなんかよくわからんが、やけにデカいな......」

 と今までなら思っていたところだが、今の俺は違う。

「ネーコ!?」

 ネーコが帰ってきた!?
 だってこれ、ネーコたちがやって来た時とまったく同じダンボールだもんな?
 それにトラエとウサは昨夜に出て行ったばかりだから違うだろうし。
 つまり......ネーコ以外考えられない!

「ネーコ!!」

 俺はダンボールに向かって呼びかけた。

「......」

 返事がない。
 
「おいネーコ!!」
「......」
「ネーコ!はやく出て来いって!」
「......」

 繰り返し呼びかけたが一向に返事はない。
 俺はおもむろにダンボールをトントンと叩いてみる。

「......よ」

 ん?なんか聞こえたような?

「......ぬよ」

 やっぱり聞こえたぞ?

「い......は...ぬよ」

 なんて言っているのかわからない。
 いやそれよりも、なんで出てこないんだ?
 ......ハッ!ひょっとして自分から出られないのか??
 それなら俺が開けてやらなければ!

「ネーコ!ちょっと待ってろ!すぐに開けてやるから!」

 俺は急いで家の中からカッターを持ってくると、ダンボールの上面をガバッと開封する。

「ネーコ!!......じゃない!?」

 ところが、ダンボールの箱の中に見えたのは、別の者の姿だった。

「ひ、ひぃぃ......!」

 その者はしゃがみ込んだままびくびくと怯えている。
 やや紫がかった長髪を三つ編みに結び、地味な着物姿の美少女。 

「き、君は!?」

 俺の呼びかけに、彼女は気弱そうな薄紫の瞳をうるませて口をひらく。

「イヌヨは、いぬよ......」

「は??」

 なにを言っているのかよくわからない。
 いや、言葉は聞き取れたけど、意味がよくわからない。

「ええっと...君は誰??」

 俺はもういちど尋ねた。

「あ......た、田網伊嬬代たあみいぬよと申します......」

 彼女はおずおずと心細い声で答えた。

「田網、ということは...君も未来からやって来たアンドロイドなんだよね??」

「そ、そうです......イヌヨは、未来から来た愛国美少女アンドロイドです......。あ、あなたは、井藤フミヒロさんですか?」

「そうだよ。イヌヨさんの目的の人間だよ」

「よ、良かった、すぐに会うことができて......」

「うん。とりあえず、中に入りますか?」

「中って?」

「家の中に」

「け、結構です」

「......はい?」

「イヌヨは...この時代で生きていける自信がまったくありません......」

「は??」

「帰りたい......未来に帰りたい!!」

「えっ??」

「......ど、どうせイヌヨが来たところで、なんの役にも立てないに決まっているわ!イヌヨなんか中学二年生のフミヒロさんに捨てられるんだわ!ああ!そんなことならばすぐに帰りたい!早く帰りたい!いっそのこと......もう死んでしまいたい!」

 突然イヌヨはやけに饒舌じょうぜつになって悲観的なことを涙目でまくし立てた。

「あ、その、ええっと......」

 俺はどうしていいかわからずただ狼狽した。
 彼女はしばらく騒いでからピタッとしずまった思ったら、
「イヌヨは、居ぬよ......」
 いきなりどよ~んと暗くなってズーンと沈み込んだ。

 俺は彼女の混沌とした様子になす術もなく唖然あぜんとして立ち尽くした。
 とてもアンドロイドとは思えない、目を疑うネガティブな斬新さに。

(な...なんなんだこのアンドロイドは!?)
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