上 下
40 / 87

ep40 田網斗羅恵④

しおりを挟む
「ううう......」

「なんだ、もう終わりか?さっきの勢いはどうした」

 トラエが冷たい目で見下ろしてくる。

「うぅぅ......」

 ヤバい。
 情けなくて悔しくて泣きそうだ。
 悔しいけど、トラエの言うとおりだ。
 俺は自分の弱さの殻に閉じこもっているだけで、何にもできていないんだ。
 最近はネーコのおかげで少しは前に進めているのかと思っていたけど、ただの勘違いだ。
 俺はいつまで経ってもダメなままなんだ......。

「トラエ!!」

 突然、誰かの声が届いたと思ったら、トラエへ向かってガンッ!と勢いよく跳び蹴りが放たれる。

「!」

 トラエは咄嗟にガードしたものの十メートルほどズザザザーッと退がらされた。
 攻撃者はスタッと着地する。

「ね、ネーコ!」
「フミヒロ様!」

 現れたのはネーコ。
 彼女はすぐさま駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫ですか?トラエにやられたんですね?そうですね?」

「ご、ごめん...」

「はっ?なぜフミヒロ様が謝るので??」

「ネーコが脚を折られたって聞いて。それでやり返そうとしたけど何にもできなかった......ハハハ、やっぱ俺って情けないよな......」

「そんなことありません!フミヒロ様は、私のために怒ってくれたのですか?」

「いや、まあ、その...」

「ネーコはアンドロイドですよ?重大な損傷を被らない限りは元に戻れるのですよ?」

「だ、だからって、アイツがネーコを傷つけていい理由にはならないじゃん...」

「フミヒロ様。貴方はやはり、お優しいのですね」

「ど、どうだろ」

「フミヒロ様。今少しだけ、ここでお待ちいただけますか?」

「えっ?う、うん」

「トラエはああ見えて、完璧な加減で攻撃をしています。なのでフミヒロ様も決して怪我は負っていないはずです。腐っても国家の未来とフミヒロ様のためのアンドロイドなんです」

「い、言われてみれば、確かに」

「ですが、フミヒロ様を傷つけたことは確かです。私はそれが許せません。なので今からトラエには制裁を加えます。アンドロイド同士の戦闘は原則禁じられていますが致し方ありません」

「ネーコ??」

「どうしたのですか?」

「ネーコは、怒っているの?」

「怒る?私が?ネーコはアンドロイドですよ?」

「で、でも」

「私は......その、なんでしょう。わかりません。ただ、フミヒロ様がネーコのために怒っていただいたと聞いて、その......嬉しく思いました。そしてトラエがフミヒロ様を理不尽に傷つけたこと......許せないんです」

「ネーコにも...感情があるのか?」

「......人類に害を及ぼさない範囲での感情はプログラムされております。もちろん〔愛〕も。そしてそれはトラエも同様です」

「そ、そうなんだ」

「はい。では...」

「あっ!ネーコ待って!」

「何ですか?」

「脚は...もう大丈夫なの?」

「私には自己修復機能があります」

「う、うん(大丈夫ってことだよな?)」

「それよりも......私のことを心配してくださっているのですか?」

「そ、そりゃあ、だって!」

「過去でも未来でも......やはりフミヒロ様はフミヒロ様なのですね」

「えっ?」

「なんでもありません」

 ネーコはそう言うとニコッと微笑んでから立ち上がり、トラエをギロッと睨みつける。

「トラエ!貴女と私は手段は違えど目的は同じ。なので干渉するつもりはありませんでした。しかし、貴方のやり方は度が過ぎています!フミヒロ様を傷つけたことを詫びなさい!そして二度としないと誓いなさい!」

 トラエは仁王立ちでビシッとネーコを指さす。

「お前は甘すぎるんだ!時間は有限だ!ましてや井藤フミヒロは我が国の未来を左右する重要な人物。ゆっくりやっている暇などないんだ!」

「フミヒロ様はまだ中学生です!ゆっくりと一歩ずつ進んでいけば良いのです!それに......」

「それに?」

「トラエ!貴方が思っているほどフミヒロ様はやわな人間ではありません!」

「は?どこをどう見て言ってるんだ?」

「貴女にはわからないでしょう。しかし、ネーコにはわかります!」

「くだらないこと......言ってるんじゃない!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

処理中です...