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ep35 変化

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 最近、俺の生活はそれまでとは大分変わってきていた。
 といっても、俺自身は相変わらずの不登校のままだが。
 それでも充分に大きい変化だと言って間違いないだろう。


「どうしたんですか?お味が気に入りませんか?」

「い、いや!お、美味しいよ」

「良かったです。フミヒロ様」

 彼女は食卓で昼食を食べる俺に向かって優しく微笑んだ。

 彼女とは......そう。
 未来から来た美少女アンドロイド、田網袮絵子たあみねえこのことだ!
 ネーコはまるで家政婦のように家の世話をしながら、〔セクシープログラム〕と称して情婦のような世話までしてこようとする。
 もっとも後者の世話については強固なる自制心をもって耐えなければならないのだが。

「ごちそうさまでした」

 食べ終えると、俺は食器をまとめてシンクに運んだ。
 ジャーッと洗い物をしていると、背後からスッとネーコがやってきて、
「フミヒロ様。食後のデザートはいかがですか?」
 耳元でささやきかけるように言ってきた。

「デザート?冷蔵庫になんかあったっけ?」

「ネーコ特製、おっぱいプリンです」

「なっ!」

「イヤですか?」

「ええと、それは......ネーコが作ったそういう形状のプリンってこと?」

「ネーコの乳房です」

「オイ!」

「いりませんか?」

「いらないから!」

「それともネーコお手製マンゴープリン...」

「やめい!マンゴー農家の皆さまに謝れ!」

 という具合に......
 良くも悪くも美少女アンドロイドのおかげで俺の不登校生活はすっかり賑やかなものとなっていた。
 また、変化はそれだけではなかった。

「井藤くん!ネーコさん!こんにちは!お邪魔しまーす」

 放課後の時間になると、クラスメイトで学級委員長の伊野上小茉いのうえこまちさんがちょくちょくうちへ訪れるようになった。
 といってもゲームしたり遊んだりするのではなく、あくまでささやかな勉強会だが。

「うーん。やっぱり井藤くんって、頭良いよねぇ。むむむ」

 ふたりで勉強しながら、伊野上さんはたびたび悔しそうな表情を浮かべた。
 俺はその度にアハハハと苦笑していたが、マジメで素直で優しい伊野上さんに悪い感情を抱くことなど毛ほども無かった。
 むしろ、
(クラスメイトの女子と家で一緒に勉強......)

 改めて考えると、不登校のくせにこんなに贅沢なことがあるだろうか。
 不満などあるはずもなかった。
 あるとすれば、あとは俺個人の問題......。

 とにかく。
 俺の不登校生活は、それまでのひとりぼっちでこもりきっていたものとは一変していたのである。
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