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動乱編
ep162 未来に待ち受けるもの
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寮に帰ると俺は、ライマスのいないリビングのソファーでひとり物思いに耽っていた。
今日に限ったことではないけど、とりわけ今日は色んなことが起こりすぎた一日だった。
何をどう考えればいいかすらわからなくなる。
ただひとつ言えるのは、すでに俺たちのまわりで何かとてつもないことが起こり始めているということだ。
「さっきから何を思い悩んでおる」
イナバがぴょんとソファーの背の上に乗ってくる。
「見事に魔鳥獣を倒したのじゃ。エマ女子も助かった。暗くなることなどあるのか?」
「そ、そういえば」
俺は今更はたとする。
「何じゃ?」
「ありがとう」
「何のことじゃ?」
「カレンさんだよ」
「ふん。感謝せい」
「でも、なんで俺が危ない状況にいることがわかったんだ?」
「オイラにはわかる。離れていても小僧に起こる禍いがな」
「禍い、か」
「お主、神社のせがれのくせして忘れておるじゃろ。オイラがどんな存在か」
「あ、そっか。神使だもんな」と言いつつ、納得できるようなできないような、よくわからなかった。
ただ何となく、そういうものだという気はする。
「とにかく、イナバがカレンさんを連れて来てくれて本当に助かったよ」
そう。
実は、カレンさんが俺たちのところへ駆けつけてきたのは偶然ではなかった。
まず......。
カレンさんは、俺が出かけている間に俺の部屋まで訪ねてきたらしい。
カレンさんはこう言っていた。
「数日前だ。私はジェットから緊急連絡を受け、次の休日にリュケイオン魔法学園の男子寮の一室に来いと言われた。具体的な用件は示されなかったが、これは何か重要なことだと判断した私はすぐに承諾し、直ちにリュケイオンへ向かった」
なんとカレンさんは、ジェットレディから呼び出されてここへやって来たんだという。
それからカレンさんはこう続けた。
「そしていざ指定された場所に来てみると、いきなり喋る白兎が出てきたんだ。私は最初、これはジェットの悪戯かと思った。だが、それにしては妙に凝りすぎている。そう思い考えていると、急に白兎が騒ぎ始めた。小僧が危ないと」
カレンさんは疑念を抱きつつも、ジェットレディが意味のないことをするはずはないと思い、イナバの言うことに従ってみようと考えた。
そうしてイナバを連れて学校を出る途上で、生徒会の仕事で休日登校していたシャレクたちに出くわした。
カレンさんは再会を喜んだが、そこへイナバが「彼らも連れて早よ行け!」とまた騒ぎ出した。
その時、シャレクから「その白兎は特待生のヤソガミの使い魔です。しかもおそらく特殊な。本当に彼の身に何かあったのかもしれませんね」と進言されたという。
カレンさんはいよいよ「何かはわからないが急いだ方がいいかもしれない」となり、シャレクたちも連れて学校を飛び出した。
そしてイナバの案内どおり進んでいく先、上空に魔鳥獣の姿を視認する。
その時点でカレンさんは見抜いた。
あれは魔法犯罪組織による〔改造ゼノ〕だということを。
俺たちが気づけなかったことをあの人は瞬時に見抜いたんだ。
その上で、あの人はエトケテラの存在も予測していたと言っていた。
さらに、エマが捕えられてしまっていたことも想定の範囲内だったらしい。
エトケテラのロテスコがそういう手段を好むことは把握済みだったと。
それは移動中の僅かな間にシャレクたちとも共有され、現場での臨機応変な連携の実現に繋がったというわけだ。
ちなみに、以前にも勉強のためとシャレクたちを現場に連れて行ったことのあるカレンさんは、いざとなれば彼らごと守ることも造作のないことだったようだ。
「ジェットレディとはまたタイプが違うけど、カレンさんも相当スゴイ人だな......」
俺は大きく息をついて、背もたれに体重を預けて天井を見上げる。
不安はいっぱいだけど、ジェットレディの代わりに今度はあんなスゴイ人が駆けつけてくれたんだ。
学校外のことは任せろと、ジェットレディが言ってくれたことの意味がよくわかった。
「それに......凄かったのはカレンさんだけじゃない」
教頭先生の氷魔法も見事としか言いようがなかった。
あれだけの数の魔犬を一瞬のうちに、周囲にいる人々を誰ひとり傷つけることなく凍らせてしまった。
そんな教頭先生は学校内の人だ。
つまり、いざという時はあんな強い人が俺を含めた生徒たちを守ってくれるってことだ。
「全然安全じゃん」
「ふん。やっと前向きになりおったか」
イナバが待ちくたびれたように言った。
「しょうがないだろ。あまりにも立て続けに色々起こったからさ」
「それよりお主」
急にイナバがにやりとする。
「え、なに?」
「エマ女子とは接吻ぐらいはしおったか?」
「......はあ!?」
俺はバネのように上体を起こした。
イナバはニヤニヤする。
「なんだしとらんのか?」
「す、するわけないだろ!」
「そうか?エマ女子はお主に恋慕を抱いているように見受けられるが」
「そ、そそそんなのは本人に聞いてみないとわからないだろ!」
「ではフェエル少年はどうじゃ?」
「なんでフェエルまで出てくるんだよ!た、確かにあいつは可愛いけど」
「それともお主はケモミミ好きか?」
「ケモミミ言うな!ミアのことだろ!」
「ということは、やはりお主はジェット女史の乳房が良いのか」
「ち、ちぶ...て、ヤメろ!!」
俺は白兎を引っ掴もうと襲いかかった。
ところが白兎はするりと身をかわし逃げていった。
「待て!このエロウサギめっ!」
俺は少し前向きになれていた。
もちろん気になることはある。
特にライマスのことは本当に心配だ。
すぐにでも何とかしなければと思う。
他にもまだまだある。
ジークレフ委員長の問題は何も解決していない。
俺を嫌っているであろうガブリエル先生の動向も気になる。
あと、あのスラッシュとかいう奴のことも、何か気になる。今度セリクに詳しく聞いてみようか。
そして......。
この先、俺は嫌でも知ることになる。
俺が考えている以上に、事態は深刻だということを。
今日起こった数々の出来事は序章に過ぎず、俺の未来に待ち受けているものは、リュケイオン魔法学園を揺るがす大動乱になるということを。
[第一部 完]
今日に限ったことではないけど、とりわけ今日は色んなことが起こりすぎた一日だった。
何をどう考えればいいかすらわからなくなる。
ただひとつ言えるのは、すでに俺たちのまわりで何かとてつもないことが起こり始めているということだ。
「さっきから何を思い悩んでおる」
イナバがぴょんとソファーの背の上に乗ってくる。
「見事に魔鳥獣を倒したのじゃ。エマ女子も助かった。暗くなることなどあるのか?」
「そ、そういえば」
俺は今更はたとする。
「何じゃ?」
「ありがとう」
「何のことじゃ?」
「カレンさんだよ」
「ふん。感謝せい」
「でも、なんで俺が危ない状況にいることがわかったんだ?」
「オイラにはわかる。離れていても小僧に起こる禍いがな」
「禍い、か」
「お主、神社のせがれのくせして忘れておるじゃろ。オイラがどんな存在か」
「あ、そっか。神使だもんな」と言いつつ、納得できるようなできないような、よくわからなかった。
ただ何となく、そういうものだという気はする。
「とにかく、イナバがカレンさんを連れて来てくれて本当に助かったよ」
そう。
実は、カレンさんが俺たちのところへ駆けつけてきたのは偶然ではなかった。
まず......。
カレンさんは、俺が出かけている間に俺の部屋まで訪ねてきたらしい。
カレンさんはこう言っていた。
「数日前だ。私はジェットから緊急連絡を受け、次の休日にリュケイオン魔法学園の男子寮の一室に来いと言われた。具体的な用件は示されなかったが、これは何か重要なことだと判断した私はすぐに承諾し、直ちにリュケイオンへ向かった」
なんとカレンさんは、ジェットレディから呼び出されてここへやって来たんだという。
それからカレンさんはこう続けた。
「そしていざ指定された場所に来てみると、いきなり喋る白兎が出てきたんだ。私は最初、これはジェットの悪戯かと思った。だが、それにしては妙に凝りすぎている。そう思い考えていると、急に白兎が騒ぎ始めた。小僧が危ないと」
カレンさんは疑念を抱きつつも、ジェットレディが意味のないことをするはずはないと思い、イナバの言うことに従ってみようと考えた。
そうしてイナバを連れて学校を出る途上で、生徒会の仕事で休日登校していたシャレクたちに出くわした。
カレンさんは再会を喜んだが、そこへイナバが「彼らも連れて早よ行け!」とまた騒ぎ出した。
その時、シャレクから「その白兎は特待生のヤソガミの使い魔です。しかもおそらく特殊な。本当に彼の身に何かあったのかもしれませんね」と進言されたという。
カレンさんはいよいよ「何かはわからないが急いだ方がいいかもしれない」となり、シャレクたちも連れて学校を飛び出した。
そしてイナバの案内どおり進んでいく先、上空に魔鳥獣の姿を視認する。
その時点でカレンさんは見抜いた。
あれは魔法犯罪組織による〔改造ゼノ〕だということを。
俺たちが気づけなかったことをあの人は瞬時に見抜いたんだ。
その上で、あの人はエトケテラの存在も予測していたと言っていた。
さらに、エマが捕えられてしまっていたことも想定の範囲内だったらしい。
エトケテラのロテスコがそういう手段を好むことは把握済みだったと。
それは移動中の僅かな間にシャレクたちとも共有され、現場での臨機応変な連携の実現に繋がったというわけだ。
ちなみに、以前にも勉強のためとシャレクたちを現場に連れて行ったことのあるカレンさんは、いざとなれば彼らごと守ることも造作のないことだったようだ。
「ジェットレディとはまたタイプが違うけど、カレンさんも相当スゴイ人だな......」
俺は大きく息をついて、背もたれに体重を預けて天井を見上げる。
不安はいっぱいだけど、ジェットレディの代わりに今度はあんなスゴイ人が駆けつけてくれたんだ。
学校外のことは任せろと、ジェットレディが言ってくれたことの意味がよくわかった。
「それに......凄かったのはカレンさんだけじゃない」
教頭先生の氷魔法も見事としか言いようがなかった。
あれだけの数の魔犬を一瞬のうちに、周囲にいる人々を誰ひとり傷つけることなく凍らせてしまった。
そんな教頭先生は学校内の人だ。
つまり、いざという時はあんな強い人が俺を含めた生徒たちを守ってくれるってことだ。
「全然安全じゃん」
「ふん。やっと前向きになりおったか」
イナバが待ちくたびれたように言った。
「しょうがないだろ。あまりにも立て続けに色々起こったからさ」
「それよりお主」
急にイナバがにやりとする。
「え、なに?」
「エマ女子とは接吻ぐらいはしおったか?」
「......はあ!?」
俺はバネのように上体を起こした。
イナバはニヤニヤする。
「なんだしとらんのか?」
「す、するわけないだろ!」
「そうか?エマ女子はお主に恋慕を抱いているように見受けられるが」
「そ、そそそんなのは本人に聞いてみないとわからないだろ!」
「ではフェエル少年はどうじゃ?」
「なんでフェエルまで出てくるんだよ!た、確かにあいつは可愛いけど」
「それともお主はケモミミ好きか?」
「ケモミミ言うな!ミアのことだろ!」
「ということは、やはりお主はジェット女史の乳房が良いのか」
「ち、ちぶ...て、ヤメろ!!」
俺は白兎を引っ掴もうと襲いかかった。
ところが白兎はするりと身をかわし逃げていった。
「待て!このエロウサギめっ!」
俺は少し前向きになれていた。
もちろん気になることはある。
特にライマスのことは本当に心配だ。
すぐにでも何とかしなければと思う。
他にもまだまだある。
ジークレフ委員長の問題は何も解決していない。
俺を嫌っているであろうガブリエル先生の動向も気になる。
あと、あのスラッシュとかいう奴のことも、何か気になる。今度セリクに詳しく聞いてみようか。
そして......。
この先、俺は嫌でも知ることになる。
俺が考えている以上に、事態は深刻だということを。
今日起こった数々の出来事は序章に過ぎず、俺の未来に待ち受けているものは、リュケイオン魔法学園を揺るがす大動乱になるということを。
[第一部 完]
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