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動乱編
ep152 バイト?
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午後三時過ぎ。
今度は駅の噴水前で俺はミアと合流した。
「エマちゃんとは楽しんだ?」
開口一番ミアが言ってきたことはそれだった。
「あ、ああ」
俺は頭を掻きながら恥ずかしさを誤魔化した。
「それなら良かった」
ミアはにっこりと微笑んだ。
さっきのこともあり、俺は私服の彼女を見て思う。
こうやって休日に改めて見ると、ミアも可愛いよな。
エマとはまた違うけど、素朴なファッションに身を包む優しい雰囲気の猫娘には、変態オタクのライマスにも安心感を与えるような魅力がある。
「ミアって、オタクにもモテそうだな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。それじゃあ行きますか」
「あっ、それなんだけど」
ミアはおもむろにトートバッグから紙の束を取り出す。
「それは」
「お店のチラシだよ」
「えっ、まさか」
「今からチラシ配布をやろうと思ってて」
「つまり、俺にも手伝えと」
「だめ?」
ミアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
一瞬、俺は戸惑ったが、デートするより気楽でいいかなと思った。
「いいよ。やろうか」
「ありがとう」
ミアの提案に従い、俺はミアと駅前でチラシ配布を行うことになった。
いつの日と同じように。
意外すぎる展開だが、これはこれでいいのかもしれない。
「そういえば最近は店の調子はどうなんだ?」
チラシ配布をしながら俺はミアに話しかける。
「おかげさまで繁盛してます」
「そうか」
「言葉が足らなかったね」
ミアは手を止めると、しっかりと俺に向き直った。
「ミア?」
「ぜんぶヤソガミくんのおかげだよ」
ミアは微笑んでいたが、その眼差しには真摯な光が射していた。
「俺がやったことはきっかけ程度だけどな」
「そのきっかけがなかったら今のわたしはなかったよ」
「そ、そうかな」
「わたしが言ってるのはお店のことだけじゃないからね?」
「あ、ああ」
俺は相槌を打ちながら、ただただ照れ臭かった。
もちろん嬉しいし、自分自身救われる思いもある。
それはそれとして......なんでまた急に、ミアは改めて感謝を伝えてくれるんだろうか。
「ねえヤソガミくん」
「なんだ?」
「セリクくんがエマちゃんに言ったこと。あれ、わたしにも言われた気がしたんだ」
俺はやや驚いた。
エマだけじゃなく、ミアまで気にしていたのか。
「そうだったのか......」
「経緯や事情はどうあれ、わたしがヤソガミくんに迷惑をかけたことは事実だから。それなのにわたしはヤソガミくんに助けてもらった。それってよくよく考えれば都合良すぎるよね」
「そんなことは......」
「ううん。ヤソガミくんは優しいから、わたしはきっとその優しさに甘えてたんだ。フェエルくんにしたってそうだよ。ヤソガミくんが転入してきてフェエルくんを助けるまで、わたしは見て見ぬフリをしていた。ただ傍観していただけだった。それなのにフェエルくんは本当に普通にわたしと友達になってくれてる。わたしはヤソガミくんとフェエルくんの優しさのおかげで今こうして笑えているんだなって」
ミアは誠実な反省と深い感謝を織り交ぜてはにかんだ。
俺は温かい気持ちになると同時に、皮肉にもセリクに感謝したくなった。
あいつのデリカシーのない一言のおかげで、みんなの気持ちを確認できたからだ。
ただ、ひとつわからないことがある。
「なあミア。今日はなんでチラシ配りなんだ?何か理由があるんじゃないのか?」
なにも今日このタイミングでやる必要はないと思う。
だからミアの意図がわからなかった。
「それは......」
ミアは上目遣いになって、じーっと見てくる。
「だってヤソガミくん。こうでもしないとわたしに遠慮するんじゃないかと思って」
「え?」
何のことだか俺にはさっぱりわからない。
ミアは手を胸の前に持ってきてグッと拳を握る。
「わたしもチームヤソガミの一員として、ちゃんと協力したいってこと」
「それは、例の魔法犯罪組織の件のことか?」
「前にわたしは怖い目に遭ってるから、そんなわたしにヤソガミくんはきっと遠慮するだろうと思って」
「そ、それは、うん」
図星だった。
あの件に関して、みんなに協力して欲しいとは言った。
だけど過去にエトケテラに拉致された経験のあるエマとミアには、極力最低限の協力で済むようにと俺は考えていた。
でも、それとチラシ配りに何の関係があるんだ?
「だからこうやってヤソガミくんにチラシ配りを手伝ってもらって、またこうやって新しく借りを作ってるんだよ」
ミアはそう言った。
「借り?」
俺はまだ理解しきれない。
「うん。だからわたしがヤソガミくんに協力することは借りを返すことにもなるんだよ。だから、わたしに遠慮しなくていいからね」
ミアは満面の笑みを浮かべた。
別に俺は貸しだなんて思ってないけど、と言おうと思ったが言葉を飲み込む。
これはミアの意志であり優しさだから、無下にしてはいけない。
そう思った。
今度は駅の噴水前で俺はミアと合流した。
「エマちゃんとは楽しんだ?」
開口一番ミアが言ってきたことはそれだった。
「あ、ああ」
俺は頭を掻きながら恥ずかしさを誤魔化した。
「それなら良かった」
ミアはにっこりと微笑んだ。
さっきのこともあり、俺は私服の彼女を見て思う。
こうやって休日に改めて見ると、ミアも可愛いよな。
エマとはまた違うけど、素朴なファッションに身を包む優しい雰囲気の猫娘には、変態オタクのライマスにも安心感を与えるような魅力がある。
「ミアって、オタクにもモテそうだな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。それじゃあ行きますか」
「あっ、それなんだけど」
ミアはおもむろにトートバッグから紙の束を取り出す。
「それは」
「お店のチラシだよ」
「えっ、まさか」
「今からチラシ配布をやろうと思ってて」
「つまり、俺にも手伝えと」
「だめ?」
ミアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
一瞬、俺は戸惑ったが、デートするより気楽でいいかなと思った。
「いいよ。やろうか」
「ありがとう」
ミアの提案に従い、俺はミアと駅前でチラシ配布を行うことになった。
いつの日と同じように。
意外すぎる展開だが、これはこれでいいのかもしれない。
「そういえば最近は店の調子はどうなんだ?」
チラシ配布をしながら俺はミアに話しかける。
「おかげさまで繁盛してます」
「そうか」
「言葉が足らなかったね」
ミアは手を止めると、しっかりと俺に向き直った。
「ミア?」
「ぜんぶヤソガミくんのおかげだよ」
ミアは微笑んでいたが、その眼差しには真摯な光が射していた。
「俺がやったことはきっかけ程度だけどな」
「そのきっかけがなかったら今のわたしはなかったよ」
「そ、そうかな」
「わたしが言ってるのはお店のことだけじゃないからね?」
「あ、ああ」
俺は相槌を打ちながら、ただただ照れ臭かった。
もちろん嬉しいし、自分自身救われる思いもある。
それはそれとして......なんでまた急に、ミアは改めて感謝を伝えてくれるんだろうか。
「ねえヤソガミくん」
「なんだ?」
「セリクくんがエマちゃんに言ったこと。あれ、わたしにも言われた気がしたんだ」
俺はやや驚いた。
エマだけじゃなく、ミアまで気にしていたのか。
「そうだったのか......」
「経緯や事情はどうあれ、わたしがヤソガミくんに迷惑をかけたことは事実だから。それなのにわたしはヤソガミくんに助けてもらった。それってよくよく考えれば都合良すぎるよね」
「そんなことは......」
「ううん。ヤソガミくんは優しいから、わたしはきっとその優しさに甘えてたんだ。フェエルくんにしたってそうだよ。ヤソガミくんが転入してきてフェエルくんを助けるまで、わたしは見て見ぬフリをしていた。ただ傍観していただけだった。それなのにフェエルくんは本当に普通にわたしと友達になってくれてる。わたしはヤソガミくんとフェエルくんの優しさのおかげで今こうして笑えているんだなって」
ミアは誠実な反省と深い感謝を織り交ぜてはにかんだ。
俺は温かい気持ちになると同時に、皮肉にもセリクに感謝したくなった。
あいつのデリカシーのない一言のおかげで、みんなの気持ちを確認できたからだ。
ただ、ひとつわからないことがある。
「なあミア。今日はなんでチラシ配りなんだ?何か理由があるんじゃないのか?」
なにも今日このタイミングでやる必要はないと思う。
だからミアの意図がわからなかった。
「それは......」
ミアは上目遣いになって、じーっと見てくる。
「だってヤソガミくん。こうでもしないとわたしに遠慮するんじゃないかと思って」
「え?」
何のことだか俺にはさっぱりわからない。
ミアは手を胸の前に持ってきてグッと拳を握る。
「わたしもチームヤソガミの一員として、ちゃんと協力したいってこと」
「それは、例の魔法犯罪組織の件のことか?」
「前にわたしは怖い目に遭ってるから、そんなわたしにヤソガミくんはきっと遠慮するだろうと思って」
「そ、それは、うん」
図星だった。
あの件に関して、みんなに協力して欲しいとは言った。
だけど過去にエトケテラに拉致された経験のあるエマとミアには、極力最低限の協力で済むようにと俺は考えていた。
でも、それとチラシ配りに何の関係があるんだ?
「だからこうやってヤソガミくんにチラシ配りを手伝ってもらって、またこうやって新しく借りを作ってるんだよ」
ミアはそう言った。
「借り?」
俺はまだ理解しきれない。
「うん。だからわたしがヤソガミくんに協力することは借りを返すことにもなるんだよ。だから、わたしに遠慮しなくていいからね」
ミアは満面の笑みを浮かべた。
別に俺は貸しだなんて思ってないけど、と言おうと思ったが言葉を飲み込む。
これはミアの意志であり優しさだから、無下にしてはいけない。
そう思った。
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