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動乱編
ep139 絶対の味方
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長い長い一日の時間が終わった。
俺は寮の部屋のベットに仰向けになり、今日の出来事を振り返る。
「いったい何がどうなってるんだ......」
ジェットレディとハウ先生からの説明を受け、頭では理解していても、受け止めきれていない。
それはフェエルたちも一緒だった。
エマとミアに関してはエトケテラに拉致された過去もあり、不安でいっぱいの様子だ。
「これ、本当に俺たちが知るべきことなのか?」
確かに俺は魔法犯罪組織への関わりを疑われたという意味で当事者だ。
それにしたってエトケテラの脱獄とか〔ユビキタス〕が彼らを匿っているとか、そんなことまで知る必要があったのか。
魔法学園生でしかない俺たちには何もできないじゃないか。
ジェットレディの意図がまったくわからない。
「これじゃ俺たちを不安に陥れたいだけじゃないか!」
思わず大声を上げてしまう俺。
とその時。
「そんなに不安か?」
「!」
大成はベッドから跳ね起きた。
イナバは横で寝ている。
ライマスは実家に用があると書き置きがあったので寮にはいないはず。
「驚かしてしまったなっ!」
突然、ドアがバーンと開くと、あの人が颯爽と立っていた。
「ジェットレディ??」
「弟子の様子が心配でなっ」
ジェットレディは快活に微笑んで部屋に入ってくると、ベッドに腰かけてきた。
俺は何となくドキッとして視線を逸らす。
「なに恥ずかしがってるんだ?」
さっそくジェットレディがからかってくる。
「べ、べつに、そんなことないですよ」
「君も健全な青少年だもんな」
「や、やめてくださいよ」
「ナニを想像しているのカナ~?」
「いい加減にしてください!」
イラ立った俺はパッとジェットレディに視線を戻した。
「!」
今度は違う意味でドキッとする。
彼女の面持ちが普段とは違い神妙なものだったから。
「何が不安だ?」
「あ、あの」
「手を見せてみろ」
「え?」
「いいから」
わけもわからず促されるままに彼女へ手を見せた。
次の瞬間、俺の手首がぐっと掴まれて体ごと引き寄せられる。
「へ?」
俺の頭は彼女の胸のふくらみの中に埋められた。
やわらかくて、あたたかい。
「君は、ひとりじゃない」
「あ、あの?」
「違う世界から来て、不安に思うことはたくさんあっただろう」
「え??」
頭を起こそうとすると、それを制するように彼女は俺の頭を優しく撫で始めた。
幼い子へ母がそうするように......。
「アタシはいつでも味方だ」
「は、はい......」
「アタシだけじゃない。すでに君には大切な仲間もいる」
「......」
「ヤソガミ少年」
おもむろに優しく顔を起こされる。
俺は彼女の目を見つめた。
よく見ると彼女の眸は、遠い宇宙を想像するような奥深い美しさがあり、どこか不思議な輝きを宿していることに気づく。
「あ、あの......なんですか?」
「今回。アタシは君の力が必要だと考えている」
「それは、例の魔法犯罪組織〔ユビキタス〕の件ですよね」
「理由を説明する」
ジェットレディはすっくと立ち上がる。
「お願いします」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「魔法学園には、通常の学校以上に強い独自の力が働いている。ある種の制約と言い換えてもいい」
「制約、ですか」
「魔法学校の自治だ」
「自治?」
「それは魔法研究の自由というものに基づいている。わかるか?」
俺はうーんと考える。
なんだろう。
日本にいる時に習った、憲法の『学問の自由』みたいなものだろうか。
「魔法は自由に学べて自由に研究できなければならない、みたいなことですか」
「簡単に言うとそういうことだ。我が国オリエンスではそれを保障することにより魔法文明の発展を担保しているわけだ。これはアタシも素晴らしいことだと考えている。もちろん自由といっても際限がないわけではないが」
「それで自治というのは」
「魔法研究の自由は、魔法学校の自治というものを内包しているんだ。これは国家等から必要以上の干渉を受けないためだ。これは何を意味すると思う?」
何を意味するのか、と考えた時。
ふとガブリエル先生の言葉が浮かんだ。
たしか前にあの人は、ジェットレディに対して内政干渉みたいなことを言っていたよな。
あっ......そうか。
そういうことか!
「学園内で起こった問題に、外部の国家魔術師が介入できない!?」
俺は寮の部屋のベットに仰向けになり、今日の出来事を振り返る。
「いったい何がどうなってるんだ......」
ジェットレディとハウ先生からの説明を受け、頭では理解していても、受け止めきれていない。
それはフェエルたちも一緒だった。
エマとミアに関してはエトケテラに拉致された過去もあり、不安でいっぱいの様子だ。
「これ、本当に俺たちが知るべきことなのか?」
確かに俺は魔法犯罪組織への関わりを疑われたという意味で当事者だ。
それにしたってエトケテラの脱獄とか〔ユビキタス〕が彼らを匿っているとか、そんなことまで知る必要があったのか。
魔法学園生でしかない俺たちには何もできないじゃないか。
ジェットレディの意図がまったくわからない。
「これじゃ俺たちを不安に陥れたいだけじゃないか!」
思わず大声を上げてしまう俺。
とその時。
「そんなに不安か?」
「!」
大成はベッドから跳ね起きた。
イナバは横で寝ている。
ライマスは実家に用があると書き置きがあったので寮にはいないはず。
「驚かしてしまったなっ!」
突然、ドアがバーンと開くと、あの人が颯爽と立っていた。
「ジェットレディ??」
「弟子の様子が心配でなっ」
ジェットレディは快活に微笑んで部屋に入ってくると、ベッドに腰かけてきた。
俺は何となくドキッとして視線を逸らす。
「なに恥ずかしがってるんだ?」
さっそくジェットレディがからかってくる。
「べ、べつに、そんなことないですよ」
「君も健全な青少年だもんな」
「や、やめてくださいよ」
「ナニを想像しているのカナ~?」
「いい加減にしてください!」
イラ立った俺はパッとジェットレディに視線を戻した。
「!」
今度は違う意味でドキッとする。
彼女の面持ちが普段とは違い神妙なものだったから。
「何が不安だ?」
「あ、あの」
「手を見せてみろ」
「え?」
「いいから」
わけもわからず促されるままに彼女へ手を見せた。
次の瞬間、俺の手首がぐっと掴まれて体ごと引き寄せられる。
「へ?」
俺の頭は彼女の胸のふくらみの中に埋められた。
やわらかくて、あたたかい。
「君は、ひとりじゃない」
「あ、あの?」
「違う世界から来て、不安に思うことはたくさんあっただろう」
「え??」
頭を起こそうとすると、それを制するように彼女は俺の頭を優しく撫で始めた。
幼い子へ母がそうするように......。
「アタシはいつでも味方だ」
「は、はい......」
「アタシだけじゃない。すでに君には大切な仲間もいる」
「......」
「ヤソガミ少年」
おもむろに優しく顔を起こされる。
俺は彼女の目を見つめた。
よく見ると彼女の眸は、遠い宇宙を想像するような奥深い美しさがあり、どこか不思議な輝きを宿していることに気づく。
「あ、あの......なんですか?」
「今回。アタシは君の力が必要だと考えている」
「それは、例の魔法犯罪組織〔ユビキタス〕の件ですよね」
「理由を説明する」
ジェットレディはすっくと立ち上がる。
「お願いします」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「魔法学園には、通常の学校以上に強い独自の力が働いている。ある種の制約と言い換えてもいい」
「制約、ですか」
「魔法学校の自治だ」
「自治?」
「それは魔法研究の自由というものに基づいている。わかるか?」
俺はうーんと考える。
なんだろう。
日本にいる時に習った、憲法の『学問の自由』みたいなものだろうか。
「魔法は自由に学べて自由に研究できなければならない、みたいなことですか」
「簡単に言うとそういうことだ。我が国オリエンスではそれを保障することにより魔法文明の発展を担保しているわけだ。これはアタシも素晴らしいことだと考えている。もちろん自由といっても際限がないわけではないが」
「それで自治というのは」
「魔法研究の自由は、魔法学校の自治というものを内包しているんだ。これは国家等から必要以上の干渉を受けないためだ。これは何を意味すると思う?」
何を意味するのか、と考えた時。
ふとガブリエル先生の言葉が浮かんだ。
たしか前にあの人は、ジェットレディに対して内政干渉みたいなことを言っていたよな。
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そういうことか!
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